1964年式 ジャガーEタイプ Sr.1 OTS
「クラシックカーって実際に運転してみると、どうなの……?」という疑問にお答えするべくスタートした、クラシック/ヤングタイマーのクルマを対象とするテストドライブ企画「旧車ソムリエ」。今回は、古今東西のスポーツカーのなかでも指折りの歴史的傑作として認知されるとともに、1960年代ポップカルチャーの象徴ともなっているジャガー「Eタイプ」をセレクト。そのモデル概要と、ドライブインプレッションをお届けします。
1000万円以下ではじめる旧車生活。 ジャガー「Eタイプ」にシリーズ「1.5」があった!? 米国の法規や嗜好に合わせた変遷とは
もともとはレースカーとして開発されたって、本当?
ジャガーEタイプは1961年3月、ジュネーヴ・ショーにてセンセーショナルな誕生を果たし、現在でもなお20世紀後半を代表するスポーツカーとして敬愛される名作。しかし元をただせば、1950年代のル・マン24時間レースで大活躍した「Cタイプ」および「Dタイプ」の後継車として開発された純粋なレーシングスポーツ「E1A」および「E2A」なる2種のプロトタイプから進化し、開発の途上から市販スポーツカーに方向転換されたという若干複雑な経緯を持つ。
そのため、センターモノコック+サブフレームの先進的なシャシー構造や、もともと航空機メーカーの「ブリストル・エアクラフト」で活躍した空力スペシャリストで、ジャガーに移籍したのちはCタイプやDタイプも手がけたマルコム・セイヤーが担当した空力ボディデザインも、ともにDタイプから発展したものとなっていた。
生産モデルのボディタイプは、前任モデルに相当する「XK150」時代の「ロードスター」と「ドロップヘッド・クーペ」を統合したオープンモデル。現在では「ロードスター」と表記されてしまうことの多い「オープン2シーター(いわゆるOTS)」と、特徴的な横開き式ハッチゲートを持つ「クーペ」の2本立てとされていた。
またパワーユニットも、Dタイプの流れをくむもの。とはいえ、ジャガーの凄いところはXK150、あるいは「マーク2」サルーンなどにも採用されていた量産エンジン「XK」型直列6気筒DOHCユニットをパワーアップして、ル・マンで大活躍したDタイプにも載せていたことであろう。それゆえ、実質的にはXK150の高性能版3.8S用エンジンのパワーを15psほど上乗せ、265psまで増強しつつキャリーオーバーすることになったのだ。
名だたるセレブたちが競って購入するほどの爆発的人気に
かくして誕生したEタイプは、Dタイプからの継続性を強調した車名が与えられた一方、当時から世界最大のスポーツカー市場であったアメリカでは、すでに高い人気を博していたXK150の後継車であることもアピールすべく「XK-E」と呼ばれた。
そして、かのエンツォ・フェラーリをして「世界一美しい」といわしめたとされるスタイルに高度な設計、同時代のアストンマーティン「DB4」の約半分に相当するリーズナブルな価格なども相まって、チャールトン・ヘストンにディーン・マーティン、そしてスティーブ・マックイーンなどのセレブリティたちが先を争ってXK-Eの注文書にサインするほどの爆発的人気を博すことになったのである。
そしてEタイプは、その北米市場のリクエストに合わせるかたちで、次第にその仕様を変えていくことになるのだが、そのあたりのお話はまた別の機会、たとえばV12エンジンを搭載した「Eタイプ シリーズ3」に、いつか試乗するときにでも譲ることにしよう。
この時期の英国製スポーツカーの世界観を明快かつ魅力的に示す1台
今回ご登場いただいた真紅のEタイプは、1964年式。つまり3.8L時代のシリーズ1最終型で、ボディタイプはオープンモデルの「OTS(Open Two Seater)」である。
この時期のシリーズ1は「フラットフロア」と呼ばれる最初期型よりもダッシュボード下の床を一段低めたことで、足もとのスペースが若干広められているのが特徴。またEタイプではこの個体を含めて左ハンドル仕様が多いのは、当時の英国政府の輸出重視政策にのっとり、その大部分がアメリカなどの右側通行国に輸出させるためにつくられたからである。
だからこのEタイプOTSは新車さながら、あるいはそれ以上に美しいかに映るコンディションも相まって、この時代の英国製スポーツカーがもたらした世界観を、ある意味もっとも明快かつ魅力的に示してくれる1台ともいえるだろう。
高くて深いサイドシルをまたいでキャビンに収まってみると、最初に意識するのはスパルタンな掛け心地のシート。4.2L時代になると、四角いシートバックに厚めのクッションを組み合わせた、やや平板な革張りシートに変更されるのだが、この時代は美しい「おむすび」型シートバック形状で、クッションが薄いバケットタイプが選ばれていた。
そしてイグニッションキーを回して、チョークレバーを下方にスライドする。整備が行き届いているせいか、スターターボタンを押すと名機XK型直列6気筒DOHC・3781ccエンジンは即座に始動し、早々にチョークを戻しても安定したアイドリングを続ける。
カッコだけではない、本質からして優れたスーパースポーツ
3.8L時代のEタイプには、XK120~150ゆずりの英国MOSS社製4速トランスミッションが組み合わされる。発進後にノンシンクロ+ストレートカットの1速で引っ張ると、「フェーンッ」という擬音で表記したくなるような、独特のギヤノイズが聴こえてくる。
でもそのあと2速、3速とシフトアップしていくとギヤノイズは霧消し、以前乗ったことのある4.2L版のSr.1よりも明らかにスムーズなエンジンフィールが感じられるようになってくる。3.8LのXKユニットは「ヴォォォーンッ!」という張りのあるバリトンを朗々と聴かせながら、心地よいシルキーな吹け上がりで、トルクフルにスピードを上げていくのだ。
そして、カーブの続く道に差しかかると、Eタイプが単なるGTではないことも解ってくる。早め早めのステアリング操作を心がけると、意外なくらいクイックにノーズが切り込んでくれる。もちろん、空力効率のためトレッドが狭い独特のプロポーションゆえに、横方向のグリップは充分とはいえないながらも、コーナー手前で充分に減速し、スロットルコントロールも丁寧に行うことで、スポーツカーらしいコーナーワークが楽しめる。
さらに特筆すべきは、乗り心地の良さである。路面の荒れた一般道でも不快な突き上げなどは最小限で、ジャガーの代名詞「ネコ脚」って、きっとこんなものだったんだろうな……と実感することになったのだ。
見た目も走りも、ヒロイックなカッコよさが横溢しているジャガーEタイプは、1960年代ポップカルチャーのアイコンともなった。それは、スタイリングだけには留まらない「よくできたスポーツカー」あるいは「魅力的な自動車」であることも大きな要因といわねばなるまい。
今回はそんな当たり前のことを、あらためて再確認するテストドライブとなったのである。
■車両協力 ヴィンテージ湘南 http://www.vintage-shonan.co.jp
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