ROLLS-ROYCE DAWN BLACK BADGE
ロールス・ロイス ドーン ブラック・バッジ
エンスージアスト究極の夢! ワンオフモデル「フェラーリ P80/C」に迫る【Playback GENROQ 2019】
夜明けの海辺へ
究極のオープンエアドライブを楽しめるロールス・ロイスがドーンだ。しかも今回われわれが用意した試乗車はブラック・バッジである。豪華なだけではない、ロールス・ロイスの新たな魅力を引き出したスペシャルモデルを昼のワインディングから夜の街まで走らせた。
「究極を知りたい、最後まで突き詰めてみたいと思うのは人間の本能的な欲求だ」
つい先日、初めてブラックホールの撮影に成功した国際プロジェクトのリーダーのひとり、国立天文台の本間希樹教授を取り上げたTV番組を見ていたら、番組のディレクターが最後の方で「それは何の役に立つのですか?」と問う場面があった。さんざん密着しておいてそんなことを最後に聞くなんて、と私はびっくりしたが、当の本間教授は一瞬詰まりながらも「宇宙の起源を解き明かすことにつながる。私たちがどこから来たかが分かるかもしれません」と丁寧に答えていた。もちろん、ディレクター氏は視聴者の代わりにあえてそんな質問をぶつけたのかもしれないが、多くの人にとっては、未知の真理の解明につながる発見をすごい、と素直に感心するのではなく、それが私たちに何かメリットをもたらすのか? と即値踏みをするのが今では当たり前なのかとちょっと寂しくなってしまった。
科学や学問とはそもそもそういうものではなかったか、と私は思うけれど、それが私や私たちの日々の生活にどんなふうに役に立つのか? と直接的な利益だけを重視して、基礎的な学問研究が疎かにされるのは最近の風潮かもしれない。どのような分野でも、誰も知らないことを発見し、誰も成し遂げていないことを実現すること、究極を知りたい、最後まで突き詰めてみたいと思うのは人間の本能的な欲求だと思ってきたが、今ではあまり理解されないのかもしれない。まあ、それはそれぞれの人の勝手だとしても、自分に興味がないからといって、他人の情熱や好奇心を尊重しないのはいただけない。
「“ドーン”とは、まさに新たな時代の幕開けを象徴する名前」
およそ4500万円もする豪勢極まりない4シーター・コンバーチブルなど自分には無関係、V12ツインターボエンジンなど今の時代に何の意味があるのか、と突き放すことは簡単だし、まったくもってその通りかもしれないが、究極のオープンカーがどんなものなのか、それを買うのはどんな人なのかを想像してみたくはないですか、と私は問いかけたい。もちろんかくいう私自身もロールス・ロイスとは無縁の庶民だが、他人の考え方を端から撥ねつけるのではなく、せめて理解する努力をしなければ、自分の周りの世界は収縮していくばかりではないだろうか。
「ドーン」(DAWN)とは夜明け、あるいは幕開けのことである。ロールス・ロイスの車名は、これまでほとんどすべて、ファントムもゴーストもレイスも人間ではない何か、たとえば精霊や幽霊にちなんでいたが、ドーンはその中で数少ない例外である。今ではカリナンというさらに即物的な名称も使われているけれど、ドーンはかつて使用されていた名称でもある。第二次大戦直後の1949年に発売された比較的小型のモデルが「シルバー・ドーン」という名を与えられていたが、その特徴はスタンダードのファクトリー製ボディを備えた初のロールス・ロイスであったこと。ご承知のようにもともとロールス・ロイスもベントレーも、パワートレインとシャシーを製作販売するメーカーであり、ボディと内装はオーナーの好みに合わせてコーチビルダーを選び、一台のクルマとして仕立て上げるものだった。その意味ではまさに新たな時代の幕開けを象徴する名前だったのである。
「豪華なクルマをさらにクールに仕立てた“ロック”で“パンク”なブラック・バッジ」
現在のラインナップでフラッグシップのファントムよりは小さく、よりパーソナルな2ドアクーペであるレイスのコンバーチブル版がドーンである。2015年のフランクフルトショーで発表されたドーンは、2ドアクーペのレイスをベースとしたオープンモデルであり(ドロップヘッドクーペと呼ぶのが正式だろうが)、「ブラック・バッジ」はゴーストやレイスの場合と同様、スタンダードモデルをさらにスポーティに仕上げたスペシャルシリーズである。スポーティという表現はちょっと安易かもしれないから、もともと豪華なクルマをさらにクールに仕立てた“ロック”で“パンク”なラインと捉えればいいかもしれない。
とはいえ、もちろんロールス・ロイスの場合はその種の“趣味”に眉をひそめる向きもあるだろうが、それもすべて呑み込んで生き残ってきたからこそ今がある。クルマ好きには単なるウルトララグジュアリーセグメントの高級コンバーチブルモデルと捉えるのは難しいかもしれないが、たとえば現在の中国ではほとんどの人がポルシェといえばカイエンだと考えており、スポーツカー専業メーカーだった歴史を知る人はきわめて少なく、356や911に対する情熱などには無関心というか理解してもらえない。ロールスもまたそのような時代を生きているのである。
「工芸品に文句をつけても仕方がない。ただ、その技と努力に敬意を払うべきである」
手触りはしなやかだがガッチリとした作りのシートに滑り込んで最初に目を凝らすのは、巨大なダッシュボードのフェイシアがキラキラ輝く組子細工のような模様に彩られていることだろう。極細(0.014mmという)のアルミ合金のワイヤを編み、カーボンパネルに織り込んだものだという。まるで蒔絵か象嵌の工芸品のような緻密さと華やかさを備えた新しい試みだ。それがどうしたと言う人もいるだろうが、工芸品に文句をつけても仕方がないではないか。その技と努力に敬意を払うべきである。それ以上に個人的に嬉しいのはリムが丸く細く、レザーがしっとり掌に吸い付く感じの大径ステアリングホイールである。もちろん形状は真ん丸で、これだけでロールスを運転しているという実感があるし、繊細で優雅な操作を促す効果があると思う。
4人に十分な広さのキャビンを覆うソフトトップはもちろん電動式で、50km/hまでなら走行中でも開閉できるが、大きな鷲が翼を広げるようにゆっくり盛大に動くので(開閉にはおよそ20秒を要する)、走りながら行うのはちょっと気が引ける。もっとも、作動は常に正確で、あるべきところにピシリと収まる。その張り具合や分厚いレイヤーのしっかりとした造りは見事なもので、これならメタルルーフと遜色ないはずだ。フォールディングルーフはこの20年ぐらいで一番進化した分野ではないだろうか。ドーンの車重はレイスよりも200kgぐらい重いようだが、そのほとんどがこの豪勢な幌の仕掛けに使われているはずだ。
「これだけのパワーがあれば、どんな場面でも優雅かつ十分に素早く振る舞える」
レイスよりは控えめだが、スタンダードのドーンに比べると31psと20NmパワーアップしたというV12ツインターボは601psの最高出力と、840Nmの最大トルクを生み出す。ツインスクロールタイプのターボをバンク外側に各一基ずつ備えるN74B66型6.6リッターV12ツインターボはもちろんBMW製ながら、今ではロールス・ロイス専用となっている。スポーツモードの類は備わらないが、スロットルペダルの踏み方で8速ATのシフトプログラムを変化させる機能が組み込まれている。というより、これだけのパワーがあれば、どんな場面でも優雅かつ十分に素早く振る舞える。
その気になって踏めば、全長およそ5.3m、車重2.6トンを超える巨体を4.9秒で100km/hまで加速させ、最高速度は250km/hに電子制御されるという。豪華で優雅な身のこなしを備えているということは、それを裏付ける精度と信頼性が存在するということだ。重い複雑な機械が遠くで滑らかに緻密に動く気配は格別に上品だ。
「鷲が翼を広げるようにゆっくりルーフを開き春風を受けながら滑るように走る──」
「正しくなされしものは、ささやかなりしともすべて気高し」とは創業者ヘンリー・ロイスが残した有名な金言だが、これだけの質量をコントロールして気品ある挙動を実現するその手腕はまさに尊敬すべきである。ただし、下り坂を気持ちよく飛ばしていると、ブレーキングにはやはりちょっと神経を遣う。地面から浮上して滑っているかのようだったドーンも重力からは逃れられず、簡単にシフトダウンできるパドルのような仕掛けが欲しくなることもあった。
退屈な真夜中のパーティを抜け出して夜明けの海辺まで滑って行くための車がドーンだと思うが、たとえどのような使い方をしてもロールス・ロイスの人々は眉ひとつ動かさないだろう。世界一有名な高級車ブランドは俗世間とは無縁に見えて、実は世の中の雰囲気に一番敏感なのである。
REPORT/高平高輝(Koki TAKAHIRA)
PHOTO/市 健治(Kenji ICHI)
【SPECIFICATIONS】
ロールス・ロイス ドーン ブラック・バッジ
ボディサイズ:全長5185 全幅1947 全高1502mm
ホイールベース:3112mm
車両重量:2560kg(DIN)
エンジン:V型12気筒DOHCツインターボ
総排気量:6591cc
最高出力:442kW(601ps)/5250-6000rpm
最大トルク:840Nm(85.7kgm)/1650-4750rpm
トランスミッション:8速AT
駆動方式:RWD
サスペンション形式:前ダブルウィッシュボーン 後マルチリンク
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
タイヤサイズ:前255/40R21 後285/35R21
最高速度:250km/h(リミッター作動)
車両本体価格:4460万円
※GENROQ 2019年 6月号の記事を再構成。記事内容及びデータはすべて発行当時のものです。
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