この記事をまとめると
■ボルボEX30の氷上試乗会がスウェーデン・ラップランド地方で開催された
安全神話だけじゃない? 世界的に見れば小メーカーのボルボが日本で伸びる理由とは
■凍結湖上に作られた全長3.7kmで大小75のコーナーをもつクローズドコースにて試乗
■2WD・AWDともにスポーティであるが、ボルボ伝統の安全哲学を感じることができた
北極圏近くのラップランド地方でEX30の実力を試す
いよいよ日本列島に本格的な春が訪れた。とはいえ、GW連休まで天候や路面の急変に備え、スタッドレスタイヤから夏タイヤへ履き替えることを控える寒冷地のドライバーも少なくないだろう。地球のどこかもっと寒い場所ならなおさらだ。
今回はスウェーデン国内で北極圏近くのラップランド地方にて、ボルボEX30の氷上ドライブに参加した。「ザ・ビッグ・ウィンター・ドライブ」と名づけられた試乗会は、何とボルボが冬の間だけ凍結湖の上に作り上げるという、全長3.7km、大小75ものコーナーをもつクローズドコースで行われた。もちろんスラロームやエルク・テスト(彼らにとってはトナカイ・テスト)と呼ばれる、急な車線変更を試すトラックも併設されている。
すでにEX30は日本国内に導入されているが、ボルボが久しぶりにリリースしたコンパクトカーにしてピュアBEV、かつコンセプトから生産過程に至るまで徹底的にカーボン・フットプリントを削減した一台だ。
目に触れる部分では、楚々とした外観と、リサイクル素材を目いっぱい用いた内装が特徴となる。日本仕様と同じRWDの2駆で420Nm・185kW(約251馬力)の「シングルモーター・エクステンディッドレンジ」と、やがて上陸するであろうAWDの670Nm・300kW(約408馬力)仕様「ツインモーター」も、今回の試乗では用意されていた。
試乗車はすべて20インチ仕様で、日本ではすでに禁じられたスタッドタイヤを履いていた。真冬は終わったとはいえ、それだけ氷や凍結路面が固いのだ。
まずはクラウドブルーの2WD仕様で、ESPオンのままコースを周回。公道では試せないような速度でコーナーに進入すると、駆動されないフロントがもっと逃げるかと思っていたが、スタッドタイヤを食い込ませてEX30は予想以上に機敏で、剛性感の高い操舵感を保ってくれる。
ある程度の速度域で前荷重を作ればリヤ側もブレークするが、スライドしてアングルがつくまでは穏やかで、少しアクセルを戻してやればひと呼吸おいて推進力が回復する。
続いてはセンターのタッチディスプレイ内、車両設定からESPをオフにし、同じように周回してみた。もっと扱いにくくなるかと思いきや、いい意味で肩透かしを食らった。同じような速度域でもESPが介入しない分、リヤ側のスライドが早く始まる。かといって、コーナーの進入でアングルをつけて直線的に立ち上がろうとしても、完全オフにはなり切らないESPがドライバーに代わってグリップを探ってくれ、アクセルペダルを前後させつつグリップ回復待ちの局面が訪れる。つまりESPをきかせている間とドライビングのリズム感としては変わりなく、いずれトラクションをかけるにはひと呼吸、間合いを置く印象だ。
ドライバーをスポーティに急き立てるよりも、ゆっくりとステアリングとアクセルワークのための時間を与えてくれる、そういうセッティングといえる。EVだけに、全長4.2mのボディに420Nmの強大なトルクを備えるとはいえ、荒々しく氷雪路面で多大なエネルギーロスを伴いながらパワースライドを誘発することはないのだ。
AWDはよりパワフルでスポーティな走りをみせる
ところがAWDのツインモーターでは、様相は一変する。前輪にもトルク配分を行うため、そもそも真っ直ぐ加速するだけでも、効率がよく速い。すでにコーナー進入時、より高い速度を維持できるのだ。ESPオンのままではリヤのブレーク・アングルは控えめだが、後輪側から前輪側にトラクション配分が移るぶん、アクセルオンで待ちの局面がほとんどなく前輪側が引っ張ってくれる。
とはいえAWDにしてはカウンターステアを当てさせるタイプのハンドリングでなかなか忙しいが、RWDの2駆仕様より断然、パワフルでスポーティだ。
さらに、ESPオフにするとツインモーター仕様は、スライドさせられるアングルが明らかに深くなる。次のコーナーに向かって前輪側のトラクションに引っ張られる感覚はESPオンのときと似ているが、後輪側のトラクションが回復してAWD状態でグリップした瞬間、次のコーナーへワープするようなEVならではの強烈な加速が立ち上がるのだ。この加速感を自分の操作で作り出せるようになると、俄然ツインモーターが面白くなってくる。
ESPはいずれオフにしてもスタンバイしているとはいえ、氷の上で670Nm・408馬力ものトルク&パワーが手の内に入って来る経験は、痛快そのもの。EVゆえに制御の頻度が高められるからと、ひたすらトラクションオフとグリップ走行に徹させるのとは、真逆の発想だ。
というのも人口密度が極端に低く、万が一に事故でも起きたら救援に駆けつけることが難しい極地では、衝突や衝撃を和らげるパッシブ・セーフティは元より、ドライバーが自ら挙動を御することができるアクティブ・セーフティが重要なのだ。
「滑らない氷結路面・凍結路面なんてありえないからね。どんなにドリフト・アングルがついた状態からも、立て直せることが最重要なのさ」と述べながら、テストドライバーのひとりが筆者を隣に乗せ、アイストラックでツインモーター仕様を操って見せてくれた。
ESPはオフ、つまり介入遅めモードだ。氷の上とは思えないハイペースで、時計の振り子のようにテールスライドを誘発する。ときには60度近くリヤを振り出して、そのままフェイントモーションとしながら次のコーナー進入へ繋げるような、無駄のなさが印象的だった。
これまでBEVは自動運転と親和性が高いと、巷ではいわれてきた。が、レベル3のような条件付きや、一部のEVメーカーが積極的に喧伝する半自動運転の体たらくを例に挙げるまでもなく、動的なコントロール性が担保されもせず、ドライバーが信用できない機能では意味がない。BEVの時代にもアクティブ・セーフティを重視すべきというボルボの姿勢は、ボルボ伝統の安全哲学の延長でもあるが、BEVの捉え方の転換点ともいえるのではないか? そこにもEX30の、BEVとしての新しさがあるのだ。
試乗車(2WD仕様)の主要諸元表
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アナログスイッチが皆無で全てタッチパネルなのも、咄嗟に操作したい時に脇見を誘発して危険では?
安全最優先のボルボなら、改善を希望します。