周波数感応式ダンパー獲得 選択肢はHVのみ
当時最新の技術を搭載した、2代目XC90の発売は2015年。その頃、ボルボの未来は新たな親会社、ジーリー・ホールディング・グループが握っていた。
【画像】高い安心感と成熟度 ボルボXC90 B5 競合クラスの上級SUVたち 電動のEX90も 全162枚
この10年足らずで経た、変化の大きさに驚いてしまう。電動の小型SUV、EX30と、大型SUVのEX90をリリース。電動ワンボックスのEM90も控えている。いずれも、ジーリー傘下の他ブランドと、プラットフォームを共有している。
XC90も、現在はマイルドとプラグインのハイブリッドのみ。短くないモデルライフを乗り切るため、フェイスリフトも実施された。
ライバルは幅広い。ヒョンデ・サンタフェなど、ハイブリッドの7シーターSUVだけでなく、フォルクスワーゲン・マルチバンなどワンボックスとも比較されるだろう。EX90とも比べられるだろうし、ランドローバー・ディスカバリーとも市場は被る。
今回のアップデートで、サスペンションには周波数感応式ダンパー(FSD)を採用。センサーなどを用いるアダプティブとは異なるが、負荷に応じて減衰特性が変化する。
通常は、フロントがコイルスプリングで、リアが横置きのリーフスプリング。だがオプションで、オフロードなどで車高を40mm持ち上げられる、エアスプリングも選べる。
英国仕様のトリムグレードは、コア、プラス、ウルトラの3種類。ガソリンのマイルド・ハイブリッドにはB5、プラグインにはT8が振られる。今回試乗したのは、主にB5 ウルトラだ。
新フロントグリルと11.2インチ・モニター
スタイリングは、主にフロントまわりが一新された。スラッシュのデザインを展開させた新しいグリルを獲得し、ヘッドライトはスリムに。とはいえ、ボクシーなシルエットは変わらない。
美しく落ち着いたインテリアは、概ね従来どおり。レイアウトは考え抜かれ、各機能の操作性は良い。ダッシュボードには、11.2インチの新しいタッチモニターを実装。スカンジナビア・デザインを端々から感じられる。
インフォテインメント・システムは、グーグルの技術がベースなものの、アップル・カープレイも利用できる。タッチモニターは縦に長いが、カーナビの利用中はマップが横長で表示され、画面の下半分が無駄なように思えた。
実際に押せるハードスイッチのショートカットキーがあり、ナビやメディア、電話などの機能を一発で呼び出せる。エアコンの操作パネルは、その下にあり扱いやすい。
スクエアなフォルムのおかげで、車内空間は広大。3列目でも、身長175cmほどの筆者なら快適に座ることができる。
荷室容量は、3列目も使う場合で302L。T8では、262Lへ狭まる。パワーテールゲートは標準で、バンパーの下で足を動かすと、自動的に開閉してくれる。2列目のシートもフラットに倒すことができ、必要なら広大な荷室空間も生み出せる。
動力性能は充分以上 やや賑やかなエンジン
XC90 B5のパワートレインは、2.0L 4気筒ガソリンターボ。250psと36.8kg-mを発揮するマイルド・ハイブリッドで、0-100km/h加速は7.7秒でこなす。
高負荷時にやや張り詰めたノイズが聞こえてくるものの、数字通り、動力性能は充分以上。殆どの条件で、必要な加速をすぐに得られるはず。四輪駆動で、乾燥した路面でトラクションが失われることはない。ブレーキは強力で頼もしい。
T8では、スーパーチャージャーとターボチャージャーが組まれた、2.0L 4気筒ガソリンに駆動用モーターが組み合わされる。システム合計での最高出力は467ps。0-100km/h加速は5.5秒を切り、特に中間加速はB5より確実に速い。
これも、高負荷時にはエンジン音が聞こえがち。それでも、電気アシストのおかげでB5より静かではある。
トランスミッションは、8速オートマティック。右足へ軽く力を込め、積極的な加速を求めると、キックダウンの反応が遅れる場面も。だが、普段はDに入れっぱなしで不満はないだろう。
B5の燃費は、カタログ値で11.6km/L。実際には、10.5km/L程度だと考えたい。T8には、14.7kWhの駆動用バッテリーが載り、最大70kmを電気だけで走行可能。こまめに充電すれば優れた燃費を得られるが、電欠時はB5を下回るはず。
乗り心地は大改善 高い安心感と成熟度
乗り心地は、従来のXC90では少し硬すぎる印象もあったが、新しい周波数感応式ダンパーで大幅に改善。スプリングはソフトになり、減衰力は強化されている。快適性は驚くほど上昇しつつ、足取りが軽く感じられるようになった。
荒れた路面でも、ホイールがバタつく様子は減少。うねるような凹凸を通過しても、ボディがフワつく素振りが抑えられ、揺れはサルーンへ近いといえる。ツギハギの多い、市街地の路面にもしっかり対応。ロードノイズも小さい。
エアサスペンションを組むと、快適性は更に向上する。オフロードの走破性も高まるはず。予算に余裕があるなら、ぜひ選びたい。ただし、通常のサスペンションとの差は従来ほど大きくない。ドライブモードを切り替えても、エアスプリングは変化しない。
ステアリングは安定志向。ロックトゥロックは3回転で、レシオの速さはBMW X5などと同等といえる。反応は素早くリニアで、一貫性がある。
グリップ力は高いが、ステアリングホイールへ伝わるフィードバックは薄め。しかし限界が迫ると、ボルボらしく、安全にドライバーへ実感させてくれる。挙動は予想しやすく、運転の楽しさは高くなくても、安心感と成熟度は高い。
クラス最高の実力の1台 好適な選択肢
ボルボは先日、2030年までにバッテリーEV専門ブランドになる、という方針を撤回した。今回のXC90のフェイスリフトは、その一端を示すものだろう。
この大型SUVは、重要な稼ぎ頭になってきた。新しいインフォテインメントシステムとサスペンションを獲得し、2024年にもクラス最高の実力を備える1台にある。
細かく比較すると、プラグイン・ハイブリッドのXC90 T8の場合は、X5やメルセデス・ベンツGLEの方が電気で走れる距離が長いとわかる。XC90 B5では、英国価格はディスカバリーの方がお手頃で、アウトドア感が好ましいと感じる人もいるだろう。
このクラスで4気筒エンジンなことに、物足りなさを感じなくもない。それでも、プレミアムでミニマリスティックなデザインを大型SUVへ求める人にとって、XC90は好適な選択肢といえるだろう。
◯:快適指向な走り 優れた実用性 上品で使いやすいインテリア
△:4気筒エンジンの印象が荒い トップ・トリムグレードは高価 プラグイン・ハイブリッドの性能ではライバルの方が上
ボルボXC90 B5 ウルトラ(欧州仕様)のスペック
英国価格:7万6085ポンド(約1484万円)
全長:4953mm
全幅:1923mm
全高:1776mm
最高速度:180km/h
0-100km/h加速:7.7秒
燃費:11.6km/L
CO2排出量:191g/km
車両重量:2080kg
パワートレイン:直列4気筒1969cc ターボチャージャー+ISG
使用燃料:ガソリン
最高出力:250ps/5400rpm
最大トルク:36.8kg-m/2000rpm
ギアボックス:8速オートマティック(四輪駆動)
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みんなのコメント
ドイツの御三家よりは完全にワンランク下のブランドなので。