もくじ
ー 生産台数の少ない1M
ー 比較対象はケイマンR
ー 動力性能は1Mが有利か
ー 十分な存在感
ー トルクが魅力の1M
ー ピュアスポーツらしいケイマン
ー どんな場所でも楽しめる
コンパニオン大特集(5) 東京オートサロン2019 画像70枚
生産台数の少ない1M
(AUTOCAR JAPAN誌99号の再録)
逞しいルックスを持ち、運転しても素晴らしい1シリーズMクーペだが、思い出してほしいのは、過去10年のMモデルと違って生産台数がきわめて限られているということだ。BMW M社にとってアメリカに次ぐ大きなマーケットである英国でさえ、450台の割り当てしかない。そして、すでに少なくともその2/3が売約済みだという。
それが何を意味するのか? ひとついえるのは、おそらくBMWは後悔しているということだ。1台4万ポンドの1Mクーペをもっと生産し、経済危機から回復し始めた市場に向けて自信を披瀝すべきだったと…。しかし他方、このクルマを少量生産に決めた事実は、M社にさらなる前進のチャンスをもたらすものにもなる。
全体の生産台数に上限があるなかで、より幅広いマーケットにアピールできる(それゆえ妥協もせねばならない)モデルの生産を多少とも減らせば、そのぶんだけM社は自らの守備範囲をもっとダイナミック方向に極めていくクルマを作ることができる。
初代E30型M3が94年にE36型へとモデルチェンジして以来、Mモデルのユーザーの幅が広がってきたが、だからこそBMWはより焦点を絞ったモデルを切望してきたのだ。
比較対象はケイマンR
時間はかかったが、その日がやってきた。もしもこの1Mクーペが言い訳無しのクルマでなかったら、M部門が進むべき道を見失ったと批判しても構わない。しかしうれしいことに、そんな懸念は無用だ。
ピュアなMモデルファンは、3ℓツインターボについて「ターボエンジンはMカーに相応しくない」と評するかもしれない。135iをベースにM3のパーツを組み込んだだけのクルマだと思う人もいるだろう。これはひどい誤解だ。しかし決定的なことは、1Mクーペがあり余るほどのパワーでドライバーを興奮に誘い、とくにウェット路面ではそれなりのドライビングスキルを要求するということである。
ハンドリングも乗り心地も、そこに漂うのは野生の本性だ。多くの人の好みに合うようなものではない。快適さとコントロールの難しさ、実用性と興奮、スリルと危うさ…1Mクーペが見せる世にも稀なバランスは、このクルマがターゲットとする人たちがまさに待ち望んできたものだろう。そうだとすれば、もう脇目をふる必要はない。
1シリーズMクーペは妥協ないドライバーのためのクルマであり、しかし同時に、望めばいつでも洗練された快適なクルーザーに変身してもくれる。では、このことがどれほど素晴らしいのか? 比較対象としてポルシェ・ケイマンRを用意した。
動力性能は1Mが有利か
1Mクーペより1万2000ポンド(約160万円)ほど高価だが、われわれが今年試乗したなかで最も魅力的なハンドリングの持ち主である。BMWにとっては手強すぎる相手だが、アウディRS3と比較するよりもわれわれが欲しい答えが出るはず。第一義的には1Mクーペのハンドリング性能を見極めたいのだ。
まず手始めにスペックを見ると、すべてが1Mクーペに有利なように思える。僅かだがパワフルだし(ケイマンRの331psに対して340ps)、トルクはずっと大きい45.8kg-mで、オーバーブースト時は50.9kg-m。ケイマンRは37.6kg-mだ。
車重が200kgほど重いことを埋め合わせて、実際の路上での動力性能もライバルを少し凌ぐ。対するポルシェの武器は、専用のミドシッププラットホーム、標準装備のカーボンセラミックブレーキなど。しかし、ありとあらゆるものをぶち込んで開発されたBMW Mが、ハンドリングに関してもポルシェに負けている点は何もないように思われる。
ベースとなった135iに比べると、1Mクーペは大径のブレーキディスクを備え(フロントが360mm、リアが350mm)、トレッドが広く、地上高は低く、シャシーは遥かにアグレッシブなセッティングだ。そうはいってもケイマンRと横並びで眺めた第一印象は、見る人の視線を引くことを第一に考えたマッチョなスタイリングの派生車でしかない。
十分な存在感
美しいプロポーションのケイマンに対して、1Mクーペのデザインは「適切な暴挙」というべきだろう。大きく張り出したホイールアーチは19インチを収めるためのもの。ボディサイドは起伏に富み、フロントフェンダーにはエアアウトレットまである。
見る者の心を引き込むに十分な存在感を持つスタイリングだ。そして、そのボディビルダー的なデザインテーマはエンジンに火を入れた後も続き、ケイマンのフラット6が奏でる控え目で穏やかなアイドリング音をあざ笑うように、4本出しのテールパイプから豊かで深いサウンドを響かせる。
インテリアは素晴らしいものとそうでもないものとの面白いミックス。美点は座り心地の良いシート、やや太めの革巻きステアリング、センターコンソールの視覚的質感を高めるスウェード調の仕上げ、そして実用に耐える後席……など。一方で「それほどでもない」と思う筆頭は、このクルマのキャラクターに対して平凡すぎるメーターである。
全体として、乗り込んだ瞬間に「おぉ、スペシャルなクルマだ」と感嘆の声をあげるような空間ではない。質感は上々だし、試乗車にナビ(オプション)が付いていたのは歓迎だとはいえ、インテリア以外にコストを費やしたクルマという印象だ。それは多かれ少なかれBMWも認めていることである。
トルクが魅力の1M
しかし問題は、1MクーペからケイマンRに乗り換えた瞬間に、よりエキゾティックなマシンのシートに座っているという明らかな感覚に包まれることだ。ケイマンのインテリアは純粋主義デザインの決定版とまでは言えないかもしれないが、このRに限れば、装備の少なさはあきれるばかり。エアコンもオーディオも標準では付いてこない。
「レス・イズ・モア」のデザイン思想も、ここまで極端だと馬鹿げた感じだ。しかし同時に「ポルシェだ」という雰囲気は十分で、それゆえ1Mクーペのインテリアがいささか地味に思えてしまう。ケイマンには本物を感じるのに対し、1Mクーペは装備が多いにもかかわらず質素な匂いが漂うのだ。
そして、真っ向対決で2台の比較試乗をスタートすれば、BMWの魅力が声高に蘇ってくる。まず何より、1Mクーペは速い。もちろんケイマンRが遅かろうはずもないのだが、最大の違いは低中速域でのトルクだ。
ケイマンの場合、5000rpm以上にどれだけ素早く持ち込めるかがすべて。それ以下の回転域では正直に言って、このフラット6は活気に欠ける。対する1Mクーペは、ほとんどどんな回転域でも、どのギアを選んでいようとも、アクセルを踏み込めば猛然と加速。3000rpmから6000rpmまでの広い範囲で、ケイマンRを圧倒する。
試しに3速/1500rpmからの全開加速をサイド・バイ・サイドで比べたところ、1Mクーペが7000rpmでリミッター作動となった瞬間、ケイマンRに70~80mの差をつけていた。4速で、5速で、さらに6速でも同じ比較を行ったが、両車の差は広がるばかりだ。
ピュアスポーツらしいケイマン
スロットルレスポンスはケイマンRのほうが俊敏だし、1Mクーペの6段M/Tはケイマンほど素早くシフトアップできないのだが、1Mクーペの直線の速さは疑いない。
では、直線加速におけるケイマンの武器は何かと言えば、フラット6が高回転域で披露する甘美な味わい。1Mクーペは6000rpmを超えると息切れしたような感覚になるのに対し、ケイマンはまさにそこから美しい歌声を奏で始める。
もちろん乗り心地や操舵感、ハンドリングでも両車の違いは明らかである。今回の試乗はスコットランド北部の高原で行ったのだが、ミドエンジンのケイマンは、こういう山間部を縫う道を飛ばすのに最適のピュアスポーツカー。とくにハンドリングは最高で、フロントタイヤに何が起きているかの情報を的確に伝えてくれる。シャシーも素晴らしい。高速コーナーを攻めるときのバランスは、思わず息を飲むほどだ。
しかしわれわれがもっと驚いたのは1Mクーペである。図太いトルクの余裕がワインディングでも功を奏すのだが、それだけではない。ハンドリングはまさにMの名に相応しいもの。操舵応答は十分に正確だし、スイッチを押して「M-デフ」(多板クラッチ式の可変デフロック)を作動させれば、ある程度のスリップアングルが許容されるので、ストッロル操作でクルマの姿勢を調整できる。
どんな場所でも楽しめる
比べると、1Mクーペのほうが硬めの乗り心地で、ロールが小さい。ステアリングは正確だがケイマンほどのインフォメーションは感じられず、とくにウェット路面では緊張させられる。とはいえグリップのレベルもコーナーを駆け抜けるスピードも、ポルシェにまったく負けてはいない。そしてもっと大事なことは、1Mクーペが提供してくれるドライビングファンだ。
疑いなくBMWは、どんな道でも、どんなコンディションでも、運転して最高に楽しいクルマを作った。DSCをオフにすれば、それが何を意味するかを分かって運転する限りにおいて、ケイマンにはない種類の楽しさを味わえるだろう。
では、ポルシェの勝機は? 1MクーペはMモデルのあるべき姿を取り戻したという点で歓迎すべきクルマであるのに対し、ケイマンRは誰が運転しようと、どんな道でどんな速度で走ろうと、他のクルマでは得難い経験をもたらしてくれる。
その事実だけで1Mクーペよりも高く評価するに十分だ。しかし、そのケイマンRが相手であっても、それでも1Mクーペはとてつもないコストパフォーマンスの持ち主だ。これはまったくもって、疑いない事実なのである。
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