2020年7月23日に世界初公開となった、トヨタの新型クロスオーバーSUV「ヤリスクロス」。先日開催されたメディア向け試乗会では、筆者も含め、多くの参加者がその走りに魅了されていた。
昨年末のコンパクトSUVライズに始まり、新型ハリアー、RAV4 PHV、そして海外でカローラクロスを発表と、続々と新型SUVを登場させている、トヨタ。
価格判明でヴェゼルを凌駕!? 新型ヤリスクロスは格安189万円スタート!!
だが、トヨタは決して、手を抜いてはいない。ヤリスクロスは、ヤリスをリフトアップしただけのSUVではなく、トヨタの開発部隊がこだわりぬいて設計した、トヨタ渾身のSUVなのだ。
今回、ヤリスクロスの担当エンジニアの方達から伺った開発秘話も交え、元開発エンジニアの視点から、ヤリスクロスに込められた、こだわりの技術について、考察していく。
文:吉川賢一/写真:池之平昌信
【画像ギャラリー】ヤリスクロスの全貌を目撃せよ
■驚きのダイレクト感! 悪天候だからこそ感じたハンドリングの手応え
このところ続けざまに登場したトヨタSUVだか、トヨタ開発陣がこだわり抜いた渾身のSUVがいよいよ登場だ
残念ながら、ヤリスクロスの試乗会当日は、会場周辺を局地的豪雨が襲い、クルマを走らせれば、路面に溜まった水が、スプラッシュマウンテンのように吹き上がる、という悪条件だった。そのため、確認ができたのは、加速性能とハンドリング、ブレーキングといった動性能が中心となった。
ヤリスクロスの特筆すべき長所は、ハイブリッド/ガソリン共通で感じた「操舵フィーリングの良さ」だ。
走り始めてすぐ、ステアリングの剛性感が高いことに気づかされる。「ハンドルが重い」ということではなく、タイヤとステアリングがまるで直結しているかのような「ダイレクト感」と、ステアリングから腕に戻ってくる「自然な手ごたえ」によって「芯」の強さを感じるという素晴らしい操舵フィーリングなのだ。
215/50R18の大径タイヤ(ガソリン車には16インチタイヤ)を装着していること、ヤリスに対してリフトアップしたこと、などから、車両応答性は大味なのかと想像していたが、いい意味で期待を裏切られた。
16インチ仕様であっても、大まかな操舵フィーリングは変わらずに良い。しかも大雨で接地感を失いやすい路面条件だったのに、だ。これには驚かざるを得なかった。
■自然な操舵感を実現するカギとなる技術は「車体」にあり!
あいにくの重たい曇天、おまけに思い出したように局地的豪雨が襲うという悪条件ながら、性能の片鱗を見せつけた
ヤリスクロスの開発エンジニアによると、ヤリスクロスでは、リアサス(トーションビーム式)に、国内ヤリスよりもトレッドを50ミリほど広げた欧州ヤリスのパーツを用いており、その分においても安定感は増したそうだが、根本的に運動性能を高めたのは、GA-Bプラットフォームによる車体の進化だ、という。
GA-Bプラットフォームは、ヤリスにも採用されたコンパクトカー向けの次世代車体だ。
ヤリスの前型である、ヴィッツのプラットフォームは、登場から10年を超えており、他社に対する競争力は、もはや持ち合わせていなかった。そこで、GA-Bプラットフォームへの刷新の際、ボディ設計は、「理想設計の追求」から始めた、という。
ヤリスクロスがリアサスを流用した欧州仕様のヤリス。日本仕様よりマッシブな印象だ
部分的な補強だけではなく、エンジンはエンコンの真ん中におく、サイドメンバーは真っすぐに通す、といった設計理念を入れ込み、設計を一から見直したのだそうだ。
さらに、上屋側ではステアリングメンバーとインパネ、そしてカウルトップまでを環状構造となるように強化した基本骨格を形成し、アンダーフロアでは衝突対策のためにレインフォース(補強部材)を追加した。
これは、欧州車が補強する部位と同じだ。その結果として、これまで出せなかったハンドリングの「味」を出すことができたのだ。
この説明を聞いて「なるほど、そういうことか」と納得した。筆者をはじめ、多くのジャーナリストが感じた「しっかり感」は、こうした効果の積み上げでつくられたものだったのだ。
■車体接合に溶接と接着剤を併用することによってもたらされた動的質感の向上
どっしりとした安定感は単なる“車高アップグレード“ではないことを認識させる
このような、GA-Bプラットフォームによる車体の進化に大きく貢献したのは「接合」だ。接合とは、プレス成型したボディパネル同士を、スポット溶接したり、レーザーによって連続的に溶接する加工のこと。
理想的な接合は、パネル同士が連続体となる状態だが、コストをかけられないBセグメントのヤリス(ヤリスクロス)には、高価な連続溶接の採用は難しかった。
そこでヤリス(ヤリスクロス)では、理想の連続溶接に近づけるため、スポットの打点のピッチを狭め、かつ、より連続的に接合したいバックドアなどの開口部には、構造用接着剤を積極的に用いたという。接着剤を使用することにより、振動減衰を狙ったのだそうだ。これによって、動的な質感がぐっと向上した。
しかし、こうした新しい製造方法には、生産部門の全面的な協力がないと実現しない。技術的には素晴らしくても、安定した生産が難しい構造や工法ではモノにならないのは、筆者も嫌というほど経験してきたので、よく分かる。
■エンジニアに聞く開発秘話「生産技術の革命は社内の信頼獲得から」
開発と生産の気持ちの良い信頼関係から生まれた期待のSUV。それがヤリスクロスだ
ここに至るまでは、トヨタ社内でも逆風の嵐だったそうだ。もともと、開発部隊と生産部隊の間には、高い壁があった。
それが、2015年ごろに行った社内組織改善(カンパニー制)により、開発から製造までが一貫した組織になったことが、功を奏したという。「運動性能をここまで引き上げる」というストーリーと、生産方法の改革も含めた戦略をもって、開発と生産が意見を共有していったそうだ。
どんな仕事でもそうだが、相手を動かすには、優れた技術を押し付けるのではなく、まず信頼を得ることだ。この当たり前のことを愚直に続けたことで、稀に見る「優れた車体」が作れるまでに至った。しかも、今後のクルマにもこの水準の技術を入れ込むことができるという、ボーナス付きだ。
■トヨタの未来のコンパクトカーはどこに行きつくのか?
欧州市場ではライバルになるアウディQ2。プレミアムブランドにどこまでヤリスクロスは立ち向かえるのか?
トヨタの凄さは、下位であるGA-Bプラットフォームから、最上位のレクサスのGA-Lプラットフォームに至るまで、こうした設計的なコミュニケーションが、社内で完璧に図れていることだ。
欧州市場でも戦う、ヤリスクロスのライバルは、フォルクスワーゲンT-CROSSやアウディQ2、ルノーキャプチャーといった欧州コンパクトSUV達だ。
依然として、欧州車の性能の壁は高い。大雨の影響で、試乗会の際には、ロードノイズや車体振動といった音振性能を確かめられなかったが、ヤリスクロスがどこまで食い込めているのか、今後の試乗がとても楽しみだ。
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みんなのコメント
質問したことに回答は行わない。「関係部署にお伝えします」だけで、何も回答がない。
「カイゼンのトヨタ」と、絶大な信頼を得ているが、最近は購入した車両の問題点に目を向けない。
昔の話に成りますが、モーターショー・東京本社で、私から真摯に話を聞いて頂きました。結果、2件の安全対策を実施して頂きましたが、その様な状況は、今のトヨタ自動車(株)に見られなくなった事に、将来の貴社が心配です。