80周目のダンロップコーナー進入。自身初優勝に向けトップを走っていたmuta Racing GR86 GTの平良響は、一瞬の隙を突かれた。
インに入ってきたGT500車両が想像よりも膨らんできて、アウト側にいた平良へと寄ってくる。コースアウトしかかった平良は失速、その隙に2番手リアライズ日産メカニックチャレンジGT-Rの名取鉄平が一気に平良のテールに迫った。
リアライズGT-Rがポール・トゥ・ウイン。ピット作戦的中のmuta GR86が惜しくも2位【第2戦GT300決勝レポート】
最終パナソニックコーナーを立ち上がった2台は1.5kmのホームストレートを並走すると、タイヤがよりフレッシュな名取がTGRコーナーでトップに躍り出た。
残り10数周でこぼれ落ちてしまった勝利。だが、平良はまだ諦めてはいなかった。「絶対に1回は仕掛けよう」。そう心の中で決めていたのだ。
93周目にフィニッシュを迎えるまで、コントロールラインで2台のギャップが1秒以上に開いたのはわずかに1ラップのみ。平良は常に名取のテールを射程に収め、チャンスを伺った。
最終ラップを前に、ピットの加藤寛規監督からは「なんでもいい、最終ラップ、最終コーナー、抜けなくてもいいから仕掛けろ。ミスを誘え」と無線も飛んだ。その言葉どおり、0.8秒差で最終ラップに突入していった平良は第3セクターでリアライブに急接近。最終コーナーではインに飛び込んだが、名取を抜くことはできなかった。
「悔しいですね」
表彰式を終え、報道陣の前に姿を現した平良は開口一番、素直にそう切り出した。
「トップで僕が任されたあとに2位に落ちてしまう。しかも最後抜けるチャンスがあったのに抜ききれず……本当に僕の責任というか、もうひとがんばりしないとな、というところです」
クリーンエアで走ることができれば、自分たちの最大限のタイムを出せる。そう考えた2号車陣営は、スタートドライバーの堤優威を1周目の終わりにピットへと呼び戻し、1回目の給油義務を消化。スタンダードな給油戦略を採ったリアライズ日産メカニックチャレンジGT-Rらに対して、“裏”を走る作戦で勝利を目指した。これはすなわち、残りのレース距離をほぼ“均等割り”にすること、そして“表のトップ”とかち合う最終スティントを、チームに新加入した平良に託すことを意味していた。
戦略どおり、良い流れでレースは経過していった。46周目に堤から平良へとバトンが渡されると、暫定首位のリアライズから67~68秒と、射程圏内で好走を続けた。ピットからも常にリアライズのタイムが伝えられ、平良は“見えない敵”と戦い続けていた。
61周目にリアライズが2度目の給油義務とドライバー交代を終え、ピットアウト。好走が実り、平良は9秒ほどのマージンを手にし、実質の首位に立っていた。
しかし、2度目のピットを遅らせていたK-tunes RC F GT3の高木真一に追いついてしまったことで、歯車が狂い始める。当然ながら同一ラップのため、自力で抜くしかない。
「あれで一気に(リアライズに)追いつかれてしまいましたね」
平良は数周をかけて高木を攻略。それから10周後に、冒頭のダンロップコーナーでの決定的な場面を迎えることになった。
「今回はGT500の抜かれ方も学べたので、次戦以降は抜かれ方や組み立て方をレベルアップして挑みたいと思います」と務めて前向きな言葉を口にした平良。
報道陣の質問が堤へと移ると、平良はもう一度「悔しい!」と口にし、その場に座り込みタオルで顔を覆った。
■目標はWEC。SFLと合わせ、2023年が“勝負の年”に
沖縄出身・22歳の平良は、2020年にFIA-F4のタイトルを獲得。2021年からは全日本スーパーフォーミュラ・ライツ選手権に参戦し、今年は3年目の“勝負の年”を迎える。
また、GT300ではこれまでもK-tunesのレクサスRC FやaprtのGR86からエントリー経験があるほか、スーパー耐久でもハコ車の経験を積んでいる。
そんなトヨタ育成ドライバーである平良が掲げるのは、「将来的に、WEC(世界耐久選手権)のドライバーになること」という明確なキャリア・ゴールだ。目標として口にするだけではなく、2022年のWEC富士戦の際には、自ら志願してTOYOTA GAZOO Racing・WECチームに帯同していた。
「あれは僕としてはすごく刺激的でした。結局、自分が目指すものが何かを知らないと、どうやって目指していけばいいかも分からない。せっかく日本でレースがある機会なので、『見に行かせてくだい』と僕の方からGRにお願いして、あの中に入れさせてもらいました。無線も聞かせてもらって、英語力がまだまだ足りないな、ということを実感させてもらっただけでも、大きな刺激となりました」
目標は高く掲げながらも、まずは国内最高峰に上り詰めなくてはならない。平良自身もをそれを強く認識しているゆえ、今回のレースには悔しさが残るのだ。
今回の第2戦では第3ドライバーとしても登録された加藤監督は、GT500絡みでライバルのオーバーテイクを許したシーンについて「あれはもう、経験ですね。でも、(最終ラップに)見せ場は作ったんじゃないですか」とこのチーム2戦目での平良の働きぶりを評する。今回は熾烈な争いとなったQ1・B組をトップ通過するなど、その速さは加藤監督も認めるところだ。
「ただ、プロを目指すのであれば、いまのレベルでもまだ足りない。もっともっと頑張らないと、上(のカテゴリー)にいる人はどけられない。でも比較的いろいろとやってくれるので、吸収は早いと思います」
また、渡邊信太郎エンジニアも「めちゃめちゃいいですね」と富士での予選後に平良を高く評価していた。
「まず、人間性がすごくいい。これは重要です。チームへの溶け込みも、非常にいいですね。しかも、ドライコンディションで、ちゃんとした状態でこのマシンに乗ったのは今日(予選日)が初めてだったのに、練習走行でトップタイムをマークして、いきなりQ1に行ってもらって。それでも安心して送り出せるくらいのパフォーマンスがあります」
「あと、勉強熱心ですね。クルマのメカニズムとかにもめちゃめちゃ興味があって……セットアップの面でも、何かを変えてどうなることが予測されるのか、とか、なぜこれを変えるとこう変わるのか、とか突っ込んで聞いてきたりします。速さも見せてくれているし、我々としては加入してもらって、非常に助かっていますね」
悔しい敗戦となったものの、GT300で“勝てるパッケージ”に身を置いたことを証明するレースとなった平良。スーパーフォーミュラ・ライツと合わせ、スーパーGTでも2023年は勝負の年となりそうだ。
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