クルママンガの代名詞にして金字塔、『頭文字D』(しげの秀一著)でのすばらしい「名勝負」を紹介していく本企画。今回紹介するバトルは、プロジェクトDとしては初の茨城遠征! 対戦相手はこれまた初めて組みすることとなる中年オヤジたち! 数々の修羅場をくぐり抜けてきたとされる「峠の神様」を相手に、拓海はどう立ち向かうのか?
(第28巻 Vol.370「決戦当日」~第30巻Vol.394「ゴッドフットはオレが倒す」より)
文:安藤修也 マンガ:しげの秀一
■連載第1回 激闘の「vs.RX-7(FD3S)編」
■連載第2回 ハンデ戦「vs.シビック(EG6)編」
■連載第3回 至高の存在「vs.RX-7(FC3D)編」
■連載第4回 因縁の「vs.ランエボIV編」
■連載第5回 高橋涼介大活躍 「RX-7対ランエボIII編」
■連載第6回 エンジン載せ替え対決「ハチロク対ハチロク編」
■連載第7回 ついに拓海がプロと対決「vs.シビックR編」
■連載第8回 名車と恋の行方編「RX-7vs.RX-7編」
■連載第9回 非力なれど名車編「vs.カプチーノ編」
マツダ最上級SUVに新型登場! 日本未発売「CX-9」の知られざる実力とは?
【登場車種】
■先行:トヨタ・スプリンタートレノ(AE86型)
→ドライバーは藤原拓海。プロジェクトDのダウンヒル(下り)担当。父親である文太がインプレッサWRXを購入して以降、毎朝の日課である配達を、ハチロクとインプで交互にこなすよう言いつけられる。結果、ハチロクとインプレッサのひとり妄想バトルを毎日繰り返したことで、ドライバーとして大きな成長を果たすことに
■後追い:ホンダ・S2000
→ドライバーは城島俊也。職業は医者。シャツはインする気難しそうなオヤジだが(笑)、拓海からはオーラが見えている。茨城の走り屋界隈では「ゴッドアーム(神の手)」と称されるハンドルさばきの達人で、ステアリング操作を右手1本だけでこなすのが特徴。ドリフトでもない、グリップでもない、そのちょうど中間で走るという。愛車のS2000は、車高を落として吊り下げ型リアスポイラーをつけた、硬派なマシンに仕上げられている。
【バトルまでのあらすじ】
今回のバトルの舞台は茨城。たぶん筑波山だろうと予想される峠道で、あの東堂塾より強敵と言われるチーム「パープルシャドウ」と争う。拓海の相手は、後輩たちを制して、「若さと健康を保つため」(?)に中年暴走族が参加することとなった、「ゴッドアーム」こと城島俊也だ。
コースは、「全長は短いがポイントがしぼりにくい」「路面のうねりが大きいし、スパッと一発で決まらない」(高橋啓介談)、「だらだらと旋回する出口の見えないコーナー多い」(拓海談)と、プロジェクトDの2人も、走行前から苦言を呈するが、この舞台が傑出したバトルを生み出すことになる。
【バトル考察】
拓海は、スタート前に高橋涼介から言われる。「今までのなかで一番てごわい相手だ。弱点はない」「耐えろ」。まったく勝機の見えないバトルだとわかり、この時点では拓海ファンなら爪をかじらずに見ていられるものではないだろう
案の定、スタートしてしばらくすると、先行する拓海は後方から嫌なオーラを感じ取る「モヤモヤとまとわりついてくるこの圧力……!! クソオヤジ(←文太のこと)とイヤになるくるらいそっくりなんだよなァ」。うん、たしかにそれはイヤだけどね(笑)。
また、ここで誰よりも拓海のことをよく知る盟友の啓介が、くわえタバコでチャーミングに語るシーンがインサートされる。「1本や2本で終わるバトルじゃない。まだまだ軽いジャブの応酬程度さ」。そしてその読み通り、1本目はなにごともなく終わり、2本目がはじまる。次は拓海が後追いだ!
追走しながらその速さを吸収してしまう技術は天下一品。それがこれまでの拓海最大の武器でもあった。しかし城島オヤジは、常識はずれのドライバーだった。拓海がベストと考えていたラインと違う、セオリーじゃないラインを走る。そして、ワンハンドゆえの独特のリズムで、見ていてうっとりするほど気持ちよく曲がっていく。後追いのクルマはそのせいで、リズムがおかしくなってくるのだ。
6本目まで走っても決着がつくことはなく、ここで涼介がガソリン補給の中断を申し出る。が、タイムを見ると、S2000が先行した2本目、4本目、6本目はすべてタイムが揃っている。つまり、こちらを幻惑するためにあえてペースを抑えて走っていたのだ。
たまらず涼介から拓海へアドバイスが追加される。「このコースの側溝と路側帯が使えることはお前も気がついてるだろ」と。
そして運命の7本目、ついに「ゴッドアーム」が牙をむいた。コースの前半の連続S字で、なんと側溝越えを披露したのだ! かつて拓海がロードスター戦(第18巻参照)で披露した同技の衝撃を思い出してアドレナリンが止まらない! そして、あざやかに追い抜かれてしまう。
城島オヤジは、ここからタイヤを温存するのをやめ、残りのグリップを使い切って走り去ろうとする。しかし、タイヤが限界なのはハチロクも同じだった。条件が同じ時、S2000より軽いハチロクがその真価を発揮する。差が開かない。そして拓海は得意の変則ミゾ落としで差を詰め始める!!
さらに拓海のもうひとつの必殺技、ヘッドライトを消すブラインドアタックが炸裂! ミゾ落としとのダブル技でインをとった! 思わず城島オヤジもワンハンドステアをやめ、両手でステアリングをにぎる。これこそ予定調和を破綻させた瞬間! 魂を震わせるほどのインパクトだ。「ギリギリまで車高をさげたこっちのクルマでは、あれと同じことはできない。下まわりがスカスカな旧車ならではのウルトラCだぜ」(城島談)。
そして8本目。スタミナでは分が悪いのがオヤジ世代。「疲労で集中力がなくなる前に一本だけ見せてやる」と、先行する城島オヤジは、ベストタイムを出しに行く時のラインを使い、レコードラインアタックを敢行。ここにきて、額に汗して必死にドライビングしながらも、拓海はいつもの学習能力を取り戻している。「すごい、ドリフトっていうのかわかんないけど、あれはドリフトだよな。まったくすげーや…!! 理想的だ!!」。
なんとか差を縮めようと、ミゾ落としをたてつづけに使う拓海。右コーナーでまたも溝落としを使った刹那だった。「ホギャアアッ」と音を立てながら落ち込む右フロント。ステアリングをにぎる拓海の手にいやな感触が伝わった。痛恨のサスペンション損傷!! 縁石をつかう変則的なミゾ落としを多用したため、サスペンションに負担がかかっていたことと、縁石を乗り越える際のスピードコントロールをミスしたのが原因だ。
思わず「負け…た…!!」とつぶやく拓海。これまで見たことのない苦悶の表情である。しかし、この状況をミラー越しに見ていた城島も、また限界であった。「体力の限界!」とばかりに、スピンしてS2000は停車し、城島は路肩で吐くのであった。失速しながらも、ハチロクが先にゴールラインを割ったことで、リザルト上は勝利。まさに奇跡! 長時間におよんだバトルだが、ランタイムをまったく感じさせないほど読み応えのあるバトルである。
なお、レース後、恒例のプロジェクトDによるタイムアタックはハチロクの故障により中止(ダウンヒルのみ)。城島は、ハチロクがタイムアタックしていたらコースレコードを抜かれていたかもしれないと語っている。曰く「ここ一番のスピードと集中力はオレの想定を超えたレベルだった。あの若さにしてあの完成度…おそるべしだね」と。拓海の走りは決してパーフェクトではなかったが、この城島のコメントが、バトルのエンディングをパーフェクトに仕立ててくれている。
■【バトル丸ごと掲載】(第372~373話)
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■掲載巻と最新刊情報
『頭文字D』28巻(しげの秀一著)
『MFゴースト』8巻(しげの秀一著)
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みんなのコメント
そんなところに道はないはずだ。
ふざけんな、お前いったい、どこ走ってんだ!
という場面が好きでした。