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フォルクスワーゲン・グループは2017年秋に宣言していた「ストラテジー2025」で、電動化戦略の具体的なロードマップを明らかにした。その内容は、グループで2030年までに電気自動車(EV)など車の電動化に200億ユーロ(約2兆5000億円)を超える投資を行ない、2025年までに80車種の新型車両を投入するというものだった。が、根本的な見直しが行なわれ、大きく舵をきることになった。
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ストラテジー2025では、ディーゼルエンジン搭載車を縮小するということを意味するのではなく、アメリカでのZEV規制や、世界最大の市場で、しかもフォルクスワーゲンのシェアがきわめて高い中国政府の電動車政策(ニューエネルギー車導入:NEV規制)に対応するための戦略だった。その戦略に合わせ、車載電池の性能向上のほか、工場設備や充電設備などインフラ整備にも力を注ぐとした。そして電動化モデルを80車種ラインアップし、うちEV車が約50車種、プラグインハイブリッド車が約30車種。グループの各ブランド全体で300車種が展開されているが、それぞれの車種に電動化モデルを最低1車種はラインアップするとしている。この基本的なロードマップを策定し、発表したのはマティアス・ミュラー会長であったが・・・
電動化戦略2017から2018へ大転換
フォルクスワーゲン・グループは、2018年春に、グループの経営戦略そのものを根本から見直すに至った。これはグループを統括する取締監査役会による企業統治体制の大改革を意味している。
フォルクスワーゲン・グループは、より効率的なグループ経営を目指すとし、グループを「ボリューム」、「プレミアム」、「スーパープレミアム」、「バス・トラック(TRATON AGとして分社化)」、「車載コネクティビティ&IT」、「購買」という6つの事業分野と中国事業に再編成することにした。またこの事業再編成と合わせて、マティアス・ミュラー取締役会会長兼CEOが退任し、新たにフォルクスワーゲンの乗用車の責任者ヘルベルト・ディース氏が取締役会会長兼CEOに就任した。
このことは、フォルクスワーゲン・グループがブランドの集合体であり、個々の事業単位における相乗効果を体系的に活用し、意思決定を迅速化するとしている。そして、改めて商品戦略を策定し、より具体的なロードマップを2018年秋に発表した。
EV専用工場とフォルクスワーゲン製バッテリー
2023年までの5年間で電動化や自動運転など、次世代分野に440億ユーロ(約5兆6000億円)を投資すると発表した。前年にミュラー会長が発表した投資額の2倍以上だ。そしてドイツ国内のハノーバー工場、エムデン工場の2プラントをEV専用工場に転換するほか、将来的には自社での電池生産にも乗り出すという。
440億ユーロという投資額は、グループの全投資額の約1/3に相当する。電動化と自動運転開発、デジタル化の3分野に集中的に投入するという。なおこの投資額には中国への投資は含まれず、したがって、自動車業界では空前の投資額となる。
2019年からEVを量産するドイツ東部のツヴィッカウ工場に加え、現在はパサートを生産しているエムデン工場を22年にEV専用工場に刷新。商用車バンを生産するハノーバー工場は、「ワーゲンバス」のEV版となる「I.D.BUZZ」を生産する。3工場の合計で年間約80万~100万台のEVを生産する計画で、これはもちろん他の自動車メーカーでは考えられない生産台数だ。
またEVやPHEVにとってカギとなるリチウムイオン・バッテリーは、これまで韓国のサムソンなどから購入していたが、EVの量産に合わせ自社の内製か合弁による生産の方向に舵を切っている。ディース会長は「我々の計画では年間150GWhのバッテリーが必要だが、現在のヨーロッパでの生産能力は20GWhしかない」と危機感を抱いている。
新プラットフォーム戦略
そしてフォルクスワーゲン・グループの電動化戦略の基盤となるのがプラットフォーム戦略だ。エンジン車のためのモジュラー・プラットフォームであると同時に、PHEVやEVにも適合する「MQB」、そして、アウディ「e-tron」などで採用するエンジン車/電動車用「MLB evo」、そして新世代のピュアEVの「ID.シリーズ」で採用する「MEB」という3種類が基盤となる。
さらにアウディ、ポルシェが採用するプレミアムEV向けの「PPE(プレミアムプラットフォーム・エレクトリック)」、その上の超高級スポーツカー向け「SPE(スポーツプラットフォーム・エレクトリック)」も新たにラインアップされる。SPEは、ポルシェが開発主導し、アウディR8のEV版で、ランボルギーニなどに採用される構想だ。もちろんPPE、SPEはMEBとは違って少量生産が前提のプラットフォームだ。
EV用モジュラープラットフォーム「MEB」
フォルクスワーゲンは2018年9月にモジュラー・エレクトリックドライブ・マトリックス(MEB)を初公開した。このMEBは「すべての人のための電気自動車プラットフォーム」で、当然ながら手頃な価格で魅力的な電気自動車を実現するための基盤技術だ。言い換えると、これまではニッチ商品であった電気自動車を、ベストセラーカーへと導くためのプラットフォームと位置づけられている。
フォルクスワーゲンのeモビリティ担当のトーマス・ウルブリッヒ取締役は、「MEBの開発はフォルクスワーゲン史上で最も重要なプロジェクトの一つであり、ビートルからゴルフへの移行に匹敵する技術的なマイルストーンになります」と語っている。
そしてMEBを使用して、フォルクスワーゲン・グループは2020年までに10万台の「I.D.」、「I.D. クロス」モデルを含む15万台の電気自動車を販売する計画だ。そして2025年までに100万台の電気自動車を生産し、将来的にはグループ全体で、このMEBを使用して1000万台の電気自動車を生産するとしている。
これまでの常識を破る、電気自動車としては途方もない台数の生産を目指すということは、なによりもスケールメリット(量産効果)を最大限に活かすためだ。
フォルクスワーゲン・グループが採用した革新的なモジュラープラットフォーム「MQB」は、すでにグループ全体で5500万台が生産されたという。MEBはまさにこのMQBの電動車化バージョンであり、他の自動車メーカーでは考えられない大量生産を前提としており、フォルクスワーゲンの「I.D.シリーズ」だけでなく、アウディ、シュコダ、セアト、商用車など、グループ全体で使用されることになっている。もちろんMEBは、従来からのMQBと並行して展開され、MQBは内燃エンジン付きのハイブリッド、PHEVまでをカバーする。
MEBのモデルラインアップ
MEBを採用した最初の車両「I.D.」は、2019年末にツヴィッカウ工場でロールアウトする予定だ。またこれに合わせ、「フォルクス・ウォールボックス」と名付けられた手頃な価格の家庭用充電システムの販売を開始する予定だ。もちろん急速充電、普通充電のインフラも自動車メーカー/電力会社の合弁会社である「IONITY」に参加し、欧州全体の高速道路で充電ステーションネットワークを開発・拡張しつつある。
MEBは、純粋な電気自動車専用に設計したモジュラーアセンブリーマトリックスを採用しており、車両構造を電気自動車専用に再定義。スペース効率の点で、内燃エンジン車用より大幅な改善を成し遂げているのだ。またI.D.ファミリーのすべてのモデルは、急速充電に対応するよう設計される。
そして車両コンセプトとデザインを、これまで以上に柔軟に構成できることも特長で、コンパクトカーからSUV、MPV/ミニバンに至るまで、自在に適合できるのだ。もちろん生産性にも十分配慮され、内燃エンジン車より高効率、合理的に量産することができるようになっている。
フォルクスワーゲン・ブランドとしては、すでに電気自動車として「I.D.」、「I.D. CROZZ(クロス)」、「I.D. BUZZ(バス))」、「I.D. VIZZION(ビジョン)」の4タイプを公表しており、車両技術の開発はすでに終盤に差し掛かっているという。最初に2020年初頭に発売される「I.D.」はシリーズの牽引役で、手頃な価格、4ドア・ボディ、コネクテッド機能を備えたコンパクトカーだ。
MEBを採用するクルマは、十分な航続距離、スペース効率、使い勝手、快適性、運動性能などを高い次元で満足させる新たなモビリティを実現できるとされているが、なによりも革新的な点はそのパッケージングにある。
フロントに内燃エンジンが存在しないため、通常よりフロント・アクスルを大幅に前進させることができ、超ロング・ホイールベース、ショート・オーバーハングになっている。この結果、室内の広さ、使い勝手はこのコンパクトクラスの常識を打ち破っている。I.D.を例に取ればボディサイズはゴルフと同等だが、ホイールベースはパサート並になっているのだ。
MEBの構成
MEBの特長は駆動モーター、1速のギヤボックスをリヤ・アクスル部にコンパクトにレイアウトし、フロア部は完全にフラットなリチウムイオン・バッテリーの搭載スペースになっている。そしてフロントにはパワーエレクトロニクス、補機、12Vバッテリーなどを配置。ちなみにI.D.コンセプトカーの段階では駆動モーターの出力は170ps(125kW)で、0-100km/h加速は8秒を切るレベル、最高速は160km/hとされている。なおバッテリーの容量は、ユーザーの希望に合わせて数種類が用意され、バッテリー容量によりWLTPモードでの航続距離は330~550kmとされている。
バッテリーは、「I.D.」ファミリー向けに、従来のe-ゴルフ用とは異なり、よりシンプルな構造で大幅にパワーアップしたシステム・パッケージで、アルミ製パッケージケースを採用している。高い冷却性、容量の柔軟性を持っており、大小さまざまな容量を選択することができる。なお、現時点ではバッテリー・パックは、サプライヤーに合わせラミネート型、角型のいずれにも対応できる設計だ。これまでのフォルクスワーゲンのバッテリー開発部門は、現在は先端技術研究所に集中移管され、この研究所がバッテリーセルのサプライヤー対応部署となっている。
またMEBは、初の車両エレクトロニクス・アーキテクチャー「E3」と、車両全体の制御のための統一OSとして「vw OS」を採用している。「E3」は車両内のすべてのECUを統合した集中ECUとして働く。この新しい集中ECUはコネクティビティを活用し、インターネット通信によりソフトウエアの更新を行なうことができる。
このようにフォルクスワーゲン・グループはMEBを導入し、他の自動車メーカーとは比較にならないレベルの量産規模で、純電気自動車の分野でリーダーシップを確立することを目指している。現在の所、この戦略、投資規模に対抗できる自動車メーカーはないので、フォルクスワーゲン・グループの手腕を見守る他はないのである。
フォルクスワーゲン 関連情報
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