国際的なラリー競技に出場すべく、開発・生産されたホモロゲーション(認証)用モデルのなかでも、とくに印象的なモデルをモータージャーナリストの小川フミオが振り返る。
レアで高性能なホモロゲ・モデル!
“ホモロゲ車”はクルマ好きの憧れだ。ホモロゲーション用のクルマってなに? という向きに説明すると、プロダクション・カー(量産車)を使った競技に出走するため、定められた(最小)生産台数をクリアするべく、作られたクルマのことである。
魅力をごく端的に解説すると、レア、高性能、そして(見方によるけれど)スタイリッシュさであると思う。
ラリーの場合、モンテカルロでラリーが始まったのは1911年のこと。そのときはまだホモロゲ車の決まりはなかったものの、ラリーで勝つことは、クルマ好きのなかでおおいに評価された。
モンテカルロ・ラリーは、かつて王の召集に応じて騎士が各国から集まった時代をなぞり、欧州各地から参戦車両がモナコをめざすという、なかなかドラマチックな形式だった。そののち、モンテカルロの雪山を舞台に、苛酷なラリーが繰り広げられるようになった。
モータースポーツでの好成績は、いつの時代でもブランドイメージを押し上げ、量産車の販促にも役立った。そのため、とりわけ量産車にちかい姿の車両のほうが望ましく、その意味で、d公道を走るラリー競技のホモロゲ車は、いまにいたるまで人気なのだ。
最新の例では、トヨタ・ガズーレーシングが限定発売した「GRヤリス」がそういうクルマだ。世界ラリー選手権(WRC)に出走するために作られたもので、量産型ヤリスと似たスタイルではあるものの、中身は別だ。たとえばシャシーは、フロントは新型ヤリスと共用の「GA-B」であるいっぽう、リアは「GA-C」といいうように専用設計である。3気筒エンジン、6段マニュアル変速のトランスミッション、そして4WDシステムからなるドライブトレインは専用で、やはり専用の、アルミニウムとカーボンファイバーによる軽量ボディを載せる。
話を世界ラリー選手権にもどすと、メーカー間の競争が熾烈化した1970年代から1980年代にかけては、“ラリー専用車種”ともいえるモデルがいろいろ作られた。当時存在したレース用カテゴリーでは「グループ4」そしてのちの「グループB」に属するモデルがそうだ。
1980年まで続いた「グループ4」では、連続する12カ月に400台以上の生産が求められた。現在の2500台からするとだいぶ少ない。1981年に規約が改定されて誕生した「グループB」では、それがわずか200台になった。レアになるわけだ。
というわけで、ここでは、あまたあるラリーマシンのなかから、とりわけ思い出ぶかい車両を選んでみた。
ランチア・ストラトス
あまたあるクルマのなかで、五指に入るほど好きなモデルだ。ラリーがなかったら、生まれなかっただろう。500台の生産(予定)だったが、発売された1974年はオイルショックの只中だったため、思うように売れなかったのは残念だ。
ストラトスは、ラリーで勝つために開発された車両である。小まわりが効くようにホイールベースは軽自動車より短い2184mm。いっぽうハンドリングのためのトレッドはフロントで1430mmと、たとえるなら1980年代のポルシェ「911ターボ」と同等のワイドさだった。
最大の魅力は超がつくほど個性的なスタイリングだ。ホイールリム径は14インチであるものの、タイヤの扁平率は70パーセントあるので(つまり35サイズに18インチ径の組み合わせに相当する)ボディのコンパクトさに対して4輪の存在感が大きい。
前後のオーバーハングが短いボディは、スタイルのためというより整備のため。コクピット背後に、2418ccのV型6気筒エンジンを横置きに収めたフードは大きく開くばかりか簡単に取り外せる。競技中の整備性を向上させるとともに破損したとき、交換を容易にするためだ。
私はこのクルマに乗り込んだとき、ドアの内側のポケットにヘルメットが入れられるスペースがあったのにびっくりした。クラッチペダルは鬼のように重く、間違って床を踏んでいるのでは? と、思ったほどだった。
ストラトスは、日常で使うには不便だ。機能面含めて、別の星の価値観でデザインされたみたいだ。デザインを担当したベルトーネ/マルチェロ・ガンディーニの天才はすごい。いまでもほれぼれする。
アウディ・スポーツクワトロ
Audi quattro最近、自宅近所の中古輸入車専門店で、アウディ「オールロードクワトロ」(1999年)が売りに出ている。100万円を切る価格でもあり、かなり魅力的だ。“クワトロ”という響きに惹かれるあたり、自身は、1980年代から1990年代にかけてのクワトロシリーズが本当に好きなんだなぁ、と、思う。
アウディとモータースポーツのイメージをがっちりと結びつけた立役者が、1980年にデビューした「クワトロ」だ。別名「ウルクワトロ(Ur-Quattro)」。“Ur”はオリジナルを意味するドイツ語の接頭辞である。
全長4.4m、量産車の車重は1.3t。くわえて全輪駆動システムで話題になった。アウディでは当初よりラリー選手権に投入する計画だったものの、世間では、ラリー車としては重くて戦闘力が劣るのでは? と、言われたものだ。
結果は、ものすごい成績をしめした。雪上を含む悪路で、競合車を大きく引き離す高性能ぶりで、立て続けに優勝を記録。以降ラリーでは「4WDでないと勝てない」と、他社も悟ることになったほど。
The start: First Audi quattro was presented at the Geneva Motorshow in march 1980スタイリングは、同じ年に発表された「アウディクーペ」をベースにしている。ウルクワトロの特徴は、ホイールアーチの部分がフェンダーごとふくらんでいる、いわゆるブリスターフェンダーを採用している点。当時、ブリスターフェンダーは稀少で、この点でも目立っていた。
アウディではこのあと、1983年にショートホイールベースの「スポーツクワトロ」を市販化する。その後、ラリー規則の変更に伴い、いまに続く「S」ラインを1990年に発表した。そののち、よりスポーティな「RS」ラインを設けて、レースと関連づけたイメージを大事にしている。
ランチア・デルタ・インテグラーレ(初代)
ここまで長く”愛される”とは思わなかった。ランチアが「デルタHFインテグラーレ」という名で、ラリー選手権用のホモロゲーションモデルを本格的に開発、発表したのが、1987年のこと。だいぶ前だ。
どこが魅力かというと、「ラリーで勝ちたい」という開発陣の思いがカタチになっている点だろう。工業製品なのにどこか人間くさい。ラリーのホモロゲーション・モデルの魅力は、そこにつきる。このクルマはその代表格だ。
ベース・モデルを、徹底的にラリー用に改造したのがいわゆるインテグラーレ・モデル。さらにその源泉をさぐれば、ゴルフの対抗馬として、フィアット「リトモ」のフロアパンを使い、ジョルジェット・ジュジャーロ(ジウジアーロ)のイタルデザインにデザインをまかせたランチア「デルタ」(1979年)にまでいきつく。
思い起こすと、ランチアではこのデルタに、年を追うごとにスポーツモデルを追加していった。「GT」(1982年)、「HFターボ」(1983年)、さきに触れた「HF 4WD」(1986年)といったぐあいで、そのたびに、私はけっこう興奮したものだ。どんどん高性能化していくのをみているのはおもしろかった。
初代のインテグラーレは1995cc直列4気筒2バルブエンジンだったが、1989年に4バルブ化し、181psの最高出力は、196psに向上した。1992年には210psの「HFインテグラーレ16vエボルツィオーネ」、そして1993年には215psの「HFインテグラーレ16vエボルツィオーネII」にまで”進化”した。
ラリーでは、アウディ「クワトロ」やプジョー「205ターボ16」などすさまじいマシンが投入されたグループBカテゴリーが廃止になったため、インテグラーレはグループAでめざましい活躍をしたものだ。1987年から1992年まで連続してメイクス選手権を獲得している。
日本では、バブル経済まっただなか。アルマーニなどのファッション、料理、ルネサンスブーム、そしてエンツォ・フェラーリ死去によるフェラーリ車の価格急騰など、イタリアにまつわるものが常に話題になっていた。インテグラーレのカッコよさはそんな時代背景といつも背中合わせにあったように思うのだ。
もちろん軽量ボディにハイパワーエンジン。4WDだけれどアウディのような安定性よりも、とにかく運転の楽しさを主眼にしたような挙動を示す運転特性……と、インテグラーレは熱かった。
内装はけっこうシャレていた。ミッソーニと共同開発したシート地なども採用されていた。そもそもデルタと4ドア版のプリズマにはゼニアのファブリックが使われていた。
「耐久性なんて考えたことがない。速くって、競技車両の評判に傷がつかないことこそが大事なんだ!」
これはランチア(デルタ)インテグラーレがWRCで優秀な成績を収めていた1990年代に、ランチアの車両開発者が、市販のホモロゲモデルについて語ったことばだ。
当時は「なんておそろしい!」と、思ったものの、いまでも、元気に公道を走っているインテグラーレを見かけるから、ちょっと安心する。
スバル・インプレッサ・WRX(初代)
ひとことで言うと、嬉しくなるようなクルマだった。モータースポーツ部門であるSTI(スバルテクニカインターナショナル/当時の表記はSTi)と組み、「インプレッサ・WRX」をベースにパワーアップした「WRX STi」はいまも刺激的ではないか。
インプレッサはセダンが1992年に、スポーツワゴンは1993年に発表された。1989年登場の「レガシィ」(全長4545mm)よりひとまわりコンパクトな4350mmのボディを持ち、スポーティなイメージを前面に押しだすという割り切りのいい製品戦略が奏功して、すぐにスバルの金看板になった。
そのイメージの牽引役が「WRX」であり「WRX STi」なのだ。標準モデルでもっとも排気量の大きな仕様が115psの1820ccエンジンだったのに対して、WRXは1994ccで240ps。ケタちがいだった。
「WRX STi」ではさらに280psにパワーアップ。くわえて、機械式LSD(リミテッドスリップディフ)や、前後輪のトルク配分調整機構など、スポーツ走行のための装備も豊富だった。
しかも初代は、車重が1100kg少々に抑えられている。これこそ、運動性能における大きなメリットだ。軽快なハンドリングと加速感には、いま乗っても、いや、いまだからこそシビれるはずだ。
WRC参戦も、インプレッサの人気に拍車をかけてきた。1995年にはコリン・マクレーの操縦で、メイクスとドライバーズ、ふたつの選手権を獲得したのだ。1996年と1997年も、メイクス選手権を手中におさめている。
三菱ランサー エボリューション(初代)
三菱自動車のモータースポーツを象徴するモデルが、「ランサー・エボリューション」だ。
1992年に初代が登場。以降、「II」(1994年)、「III」(1995年)、「IV」(1996年)、「V」(1998年)、「VI」(1999年)、「VII」(2001年)、「VIII」(2003年)、「IX」(2005年)、そして最終となった「X」(2007年)と続いた。
共通するのは、2.0リッターガソリンターボエンジン、全輪駆動、モータースポーツのホモロゲーションをとるための限定生産、そしてベース車両とおなじタイミングでのモデルチェンジだ。
モータースポーツのために開発された、と、鳴り物入りで登場したのを、昨日のことのようにおぼえている。「I」は2500台の限定で売り出されると3日で完売した。ランエボはつねにそういうモデルだった。
Iは、先代「ランサー」のシャシーを受け継いではいたものの、250psの最高出力を誇る1997ccの直列4気筒ガソリンターボ・エンジンを搭載し、車重は、公道を走る「GSR」で1240kg、競技用の「RS」にいたっては1170kgと、“超”をつけたくなるぐらい軽量だった。これも大きな魅力である。
ランエボは、溶接のスポット増しなどで剛性を高め、かつ補強パーツも装着。外観上は、大型のエアダム一体型バンパーや、やはり大きなリア・スポイラーなども派手派手しく目をひいた。
マイナーチェンジを重ねるごとに外観はどんどんレーシーになった。トミ・マキネンのドライブで、1996年のWRCでドライバー選手権を獲得した「III」は、クルマとしても、非常にダイレクトな運転フィールや、空力パーツ類による高速安定性などが強く印象に残っている。
個人的にランエボを代表するモデルは、第2世代の「IV」ではないか? と、思っている。左右輪の駆動差を電子制御で最適化し、ハイスピードでのコーナリングを可能とする「アクティブヨーコントロール(AYC)」の採用は衝撃的だった。
改良を受けるたびに、どんな装備が盛り込まれるのかを確認するのが、ランエボ最大の楽しみだったといってもいい。
一般的には、第3世代最後の「IX MR」が、スポーツセダンとしての完成度ゆえ、もっとも人気が高い。AYCをさらに進化させた「スーパーAYC」をはじめ、アイバッハと共同開発したスポーツ・ダンパー、効率があがったターボチャージャー、そしてエンジンのファインチューニング……。こういうスペックを知るのも楽しい。
WRCにおけるランエボの活躍は、1996年以降、1997年にふたたびドライバーズ選手権、1998年にドライバーズとメイクスふたつの選手権、1999年にドライバーズ選手権獲得と、かなりなものである。
文・小川フミオ
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みんなのコメント
アルタリアカラーのストラトスは別格。
去年の暑い頃だったかな。
某所で写真のと同じアリタリアカラーのが国道走ってるのを見ました。
当然レプリカだろうけど。
興奮しましたよ。