ボルボ V90クロスカントリーは控えめな佇まいで、新千歳空港の立体駐車場に止まっていた。「デニムブルーメタリック」という濃いブルーグレイのボディカラーのせいもあるだろう。全長4940mm、全幅1905mmの大柄なボディであるが、コンパクトに見える。
ドアを開けると、キャメルのレザーで覆われた華やかなインテリアが広がった。1月下旬の北海道ゆえ、外気温計は「0℃」を表示している。運転席に収まると、急いでハンドルヒーターとシートヒーターのスイッチをオンにした。身体を包み込むようなシートがじんわりあたたまり、思わずホッとする。
どんなグレードを選んでも“ベストチョイス”──ボルボ XC40試乗記
今回の試乗会は、3つのグループにわかれておこなわれた。最初のグループは東京から北海道・千歳まで1泊2日のロングドライブ。2番目は新千歳空港を起点に丸1日道内を走る。最後のグループはひとつ目と反対に、千歳から東京までボルボで向かう。いずれにしても長距離をじっくり乗ってほしいというのがイベントの意図だ。
僕が参加したのは2番目のグループだ。新千歳空港からスタートし、夕方また空港に戻ってくればいいとのことで、行き先は自由。ただしこの日の北海道は生憎、夕方から大雪との予報で、夜は飛行機が欠航になるのでは? と、心配されるほどだった。したがって、あまり足を伸ばすのは控え、小樽まで往復200kmほどのドライブを、のんびり楽しもうと決めた。
試乗したのは昨年夏、日本に導入された「V90クロスカントリー D4 AWD」だ。2.0リッター直列4気筒ディーゼルターボエンジンを積むモデルで、応答性に優れる小型ターボと高出力を得るための大型ターボ、ふたつのターボチャージャーを組み合わせ、190psの最高出力と400Nmの最大トルクを発揮する。
僕は空港を出発し、小樽へ向かう高速道路に乗った。幸い雪はまだ降り出していない。道は除雪されていたものの、部分的に雪が残っている。しかし、電子制御4WDがもたらす安心感は大きい。
前車に追従し、自動的に加減速をコントロールしながら車間距離を保つACC(アダプティブ・クルーズ・コントロール)とともに、「パイロット・アシスト」を併用すれば、車線中央の走行を維持すべくステアリングアシストが作動する。ドライバーは前方や路面の状況に集中できるから安全だし、疲労もぐんと軽減されるから安心だ。
くわえて、SUVとステーションワゴンの中間ぐらいの、高すぎず低すぎずの視点の高さもちょうどよく、運転中の安心感を高める。V90クロスカントリーの全高は、ベースモデルのV90より55mm高く、最低地上高は210mmを確保しているゆえに視点が高くなったほか、悪路走破性も高まっている。
小樽に向け、高速道路を走るV90クロスカントリーの車内はいたって静かだ。ちなみに、僕は走り出してからしばらくのあいだ、これがディーゼルエンジン搭載モデルとは気づかなかった。ディーゼル特有の「ガラガラ…」といった音がまったく聞こえなかったからだ。
低回転域から力強いディーゼル・エンジンは、8速ATと組み合わされる。太いトルクを活かし、早め早めにギアをつないでスピードを乗せていく。1900kgの車重に対し、190psのパワーは、スペックだけを見れば物足りないのでは? と思ったが、運転する限りまったく不足を感じなかった。
「やさしさ」と「逞しさ」の共存
小樽の街へ近づいた頃、予報どおり雪が降り出した。路面がうっすらと白くなっている。しかし、V90クロスカントリーのハンドルを握っていると、不思議と天候の変化が気にならない。走らせるうちいつの間にか、クルマへの大きな信頼が生まれているのだ。
乗り心地はとてもいい。路面の様子はしっかり伝えるが、“ゴツゴツ”ではなく“コトコト”といった感じで、当たりが柔らかくドライバーを疲れさせない。たっぷりとしたサイズで身体全体を包み込むようなシートの出来のよさは、昔からボルボの美点であり、V90クロスカントリーにも受け継がれている。
以前、ボルボのエンジニアが「スウェーデン人は厳しい冬のあいだ、家のなかでいかに快適に過ごすかを考えている」と、教えてくれた。続けて「ボルボのインテリアが居心地よく快適なのは、家のなかと同じように快適に過ごせるようにしているためだ」と、述べた。19個のスピーカーを備える「Bowers&Wilkins」のサウンド・システムで音楽を聴きながら、ゆったりとした気分に浸り、冬の北海道を走っていると、その言葉が説得力をもって思い出された。
高速を降り小樽に入る。観光地らしく、街は多くの観光客で賑わっていた。雰囲気のいい撮影場所を探して路地をぐるぐると走り回まわっていると、ボディの見切りのよさと、大柄なサイズにもかかわらず、意外に小まわりが効くのに気づいた。また、ダッシュボードの中央に収まる9インチのインフォテインメント用ディスプレイにくわえ、フルデジタルのメーターパネルにマップが表示されるのも、知らない町を走るにはとてもありがたい。
雪はますます強くなるものの、ふと道の端にクルマを止めた。雪景色に佇む姿を眺めてみたくなったのだ。真横から見る、伸びやかで優美なボディと、リフトアップされ逞しさを増した足まわりの対比が印象的である。白く染まっていく風景のなかで、V90クロスカントリーの魅力は「やさしさ」と「逞しさ」の共存であるのでは? と、思うのであった。
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