日産の偉大なGTカー、スカイラインの歴代モデルの中でも、「鉄仮面」と呼ばれた6代目R30型スカイラインの後期モデルは、強烈な存在感を残したモデルだった。現在40~50代のクルマ好きにとっては、もはや説明不要の伝説の名車と言っていいだろう。現在でも愛好家の多い、このモデルの人気の秘密を探っていこう。
文:立花義人、エムスリープロダクション
写真:NISSAN、ベストカー編集部
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【画像ギャラリー】「史上最強」といわれた、6代目(R30型)スカイラインの人気の秘密を紐解く
ほろ苦いデビューだった、R30型スカイライン
1981年8月に登場となった、6代目となるR30型スカイライン。キャッチコピーは「新しい愛のスカイライン」。これは3代目スカイライン(通称:ハコスカ)の「愛のスカイライン」から、新世代に切り替わったことをアピールするものであり、プレステージ性を高めた内外装デザインとその動力性能に注目が集まった。アメリカの人気俳優であり、プロレーサーでもあったポール・ニューマン氏をCMに起用したことも、日産の本気が伝わってくるものであった。
日産ファンを歓喜させた2000RS。「4VALVE」の文字が静かにライバルを牽制する
しかしながら、ライバルのセリカがDOHCエンジンを搭載していたのに対し、R30型スカイラインは当初、年々厳しくなる排ガス規制の影響でDOHCエンジンが搭載できず、大きく遅れをとったデビューだった。
ところがそのわずか2ヶ月後の10月、日産としては8年ぶりとなるDOHCユニット搭載の「2000RS」を追加発表、走りのスカイラインを待ち望む日産ファンを歓喜させる。2000RS は、2.0L 直列4気筒16バルブ(1気筒あたり4バルブ)のDOHCエンジン「FJ20E型」(最高出力150ps/6,000rpm、最大トルク18.5kgm/4,800rpm)を搭載。セリカが2バルブDOHCであることを挑発する「4バルブなしにDOHCは語れない」というキャッチコピーは大きな話題となった。
「2000ターボRS」登場でGTカーとしての地位を確固たるものに
R30型スカイラインはレースに復帰を果たしたことでも注目を集める。1982年、2000RSのイメージを持つボディに、モータースポーツ専用のLZ20B型ターボエンジンを搭載した、なんと570ps以上のモンスターマシン「スカイライン スーパーシルエット」が登場。2000RSのイメージカラーでもある赤と黒のツートーンカラーでサーキットを激走する姿でファンを虜にした。
このマシンはミニカーで有名なブランドの名称と合わせて「トミカスカイライン」と呼ばれ、シルエットフォーミュラの代名詞ともなった。市販車の面影を残すド派手な姿に、子供も大人も熱狂した。
スカイライン スーパーシルエット。「トミカスカイライン」と呼ばれ、シルエットフォーミュラの代名詞となった
市販モデルの方はといえば、1983年に日本初の4バルブDOHC+ターボエンジンである「FJ20ET」型(最高出力190ps/6,400rpm、最大トルク23.0kgm/4,800rpm)を搭載したグレード「2000ターボRS」が登場。歴代のスカイラインの中で最高出力のユニットであったことから「史上最強のスカイライン」というキャッチコピーが与えられ、これによって、GTカーとしてのスカイラインの地位は確固たるものとなった。
そして同年8月、マイナーチェンジが実施され、R30型は冒頭で紹介した後期型に。グリルレスに薄型のヘッドライトという大胆なデザイン変更が行われ、その独特のフロントマスクから「鉄仮面」と呼ばれた。翌年2月にはFJ20ETエンジンにインタークーラーが装着され、最高出力は205ps/6,400rpm、最大トルクは25.0kgm/4,400rpmにまで引き上げられた。
このタイミングで、8ウェイ電動マルチバケットシート、パワーステアリング、パワーウインドウ、カセット付きラジオといった豪華装備の最上級グレード「ターボインタークーラーRS・X」が設定された。インタークーラーの有無はフロントエプロンの左側にインタークーラー冷却用の開口部があるかないかで見分けられる。
グリルレスに薄型ヘッドライトの「鉄仮面」。豪華仕様の「ターボインタークーラーRS・X」も設定された
厳しい排ガス規制の中、ファンの要望にバシッと応えた
R30型スカイラインが登場した1981年といえば、70年代前半まで続いた高度経済成長期も終わりをみせ、産業公害と環境汚染というツケの顕在化、第1次石油危機の勃発、さらには、70年代後半の円相場の急騰、といったネガティブな要素がいくつも重なり、日本経済の先行きと自動車産業に暗い影を落としていた時代だった。
しかし、スペシャルティカー人気やスーパーカーブームの名残がある時代であったことから、R30型スカイラインは、決して「時代錯誤」なモデルではなく、むしろクルマファン待望の一台として受け入れられていた。
先ほども触れたように、年々厳しくなる排ガス規制とユーザーの望む動力性能のギャップを、伝統ある「スカイライン」というモデルと日産の技術がどこまで埋めてくれるのかということにファンの不安と期待が高まっていたわけだが、4バルブDOHCエンジン搭載の「2000RS」という答えがスパッと与えられたことで、R30型はここまで人気となったのだろう。
そしてシルエットフォーミュラでの活躍、「2000ターボRS」の追加、「鉄仮面」の登場、インタークーラー搭載というパズルのピースが、「やっぱり走りのスカイラインだ!」と歓喜する日産ファンの前で次々にバシッとはまっていったのだ。
今改めて「鉄仮面」の姿を見ると、グリルレスのデザインに薄型のヘッドライトという斬新なデザインは、すっきりとしたシンプルな印象を与えながらも、GTカーとしてのただならぬオーラと威厳を感じさせる。穏やかな表情と、その奥に収まる歴代最強のパワーユニットとのギャップがさらに高揚感を掻き立てるのだが、排ガス規制で骨抜きにされてしまった動力性能を、見事な技術で挽回した日産の誇らしげな表情にも見える。
シンプルで穏やかな表情の裏側に収められるそれまでのスカイラインで最強のユニット「FJ20ET」
スカイライン2000ターボRSは、それまでで最強のパワーユニットを搭載していたにもかかわらず、「GT-R」の称号は与えられなかった。理由は「4気筒だから」だそうだが、GT-Rではないことがかえってスカイラインというモデルの価値を高めた。スカイラインは高性能を長距離でゆったりと、時には刺激的に楽しむ大人のツーリングカーであるということを、見事に具現化したクルマだったと思う。
このコンセプトは現行型の13代目スカイラインにも通じている。電動化の波が押し寄せていても、セダンが不人気であっても、スカイラインはクルマの楽しさを教えてくれる憧れの存在であり続けて欲しい。
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