生産中止が決まったレクサスのミドルクラスセダン「GS」の魅力とは? 小川フミオが考えた。
ちょっと小さいのがイイ
新型コロナウィルスの感染拡大に伴い、各自動車メーカーの新車発表計画にも狂いが生じているようだ。そんななか、”だったらもうすこし作り続けてもいいんじゃない”と、言いたくなったのは、レクサス「GS」の生産中止が発表されたときだ。
まだまだ現役でいてもよかったのに……と、思うのは、このクルマの全方位的な出来のよさゆえだ。「LS」に対するGSは、メルセデス・ベンツの「Sクラス」に対する「Eクラス」、BMWの「7シリーズ」に対する「5シリーズ」、そしてアウディの「A8」に対する「A6」とおなじ関係。いいクルマが多いカテゴリーだ。大きすぎないボディで、適度に広いサイズが欲しい、ぜいたくなのがいい、走りも楽しみたい……といったユーザーの”わがまま”に応じるために鍛えあげられてきたせいだろう。
それでも、このところ、GSの売り上げが落ちてきていたそうだ。装備が足りないということなのかもしれない。2012年に登場した現行型は、今日の基準をもってすれば、とりわけ最新の安全装備などの面で物足りない、と見られているのだろう。
また、年を追うごとに、世界の市場では、車体の衝突安全基準が厳しくなっている。自動車メーカーはこれに対応するのに四苦八苦していて、モデルチェンジごとに、車体が大きくなっているのは、基準をクリアするためという理由も大きい。
ということではあるけれど、“クルマは楽しくてなんぼ”という好き者には、いまだってGSを勧めたい。生産中止こそ発表されたものの、まだ購入可能だし、記念の限定モデルもあるからだ。
ボディサイズは全長4880mmと余裕があるいっぽう、車重は1.7t未満に抑えられている。最新の衝突安全性能などを盛り込むと、車体はますます大型化するだろう。ちなみに、Eクラスは4930mm、5シリーズは4945mmだから現行GSは若干コンパクトである。
モデル・レンジは大別すると、ガソリンエンジン仕様とハイブリッド仕様にわかれる。ベーシックなラインは「GS300」という2リッター・ターボモデルだ。このエンジン、ごく低回転域から実用的なトルクが出るので扱いやすい。3.5リッターV6も選べるが、GS300でも十分力強い。個人的なオススメはハイブリッドの「GS450h」だ。4.5リッターV8並みの力強い加速が味わえるうえ、低燃費だ。
GSの魅力は、速度域によらず高い操縦安定性を保つ点だ。たとえばクーペの「RC」較べると、ステアリングの切れなどは、やや”おっとり”であると感じられるが、かなりの速度でも安定しているので、クルマへの信頼感が増していく。すばらしい長所だ。
スタイルも、レクサス車のアイデンティティをよく消化している。スピンドルグリルを含むフロントの立体的な造型によって、スポーティなイメージを強調している。GSの性格を的確に表現している。
2005年にトヨタ「アリスト」の後継モデルとして日本市場に登場したGSは、日本におけるレクサス・ブランドの皮切りだった。私は、このスポーティセダンのGSこそ、レクサスの向かう方向性を指し示すモデルなんだろうなぁと考えていたのが懐かしい。
自然吸気が選べるヨロコビ
2020年6月に”一足お先に”というかんじで受注を締め切った、5.0リッターV型8気筒ガソリン・エンジン搭載のスポーツモデル「GS F」も、なくなってしまうとは惜しい。大きなエンジンをぶら下げてはいるが、足まわりの設定もよく、すなおなコーナリングと、加速力と、反応にすぐれたステアリングなど、印象に残る要素がたくさんあるモデルであるからだ。
これからは乗用車の電動化がますます加速し、シャシーも従来のようにICE(内燃機関)中心でなく、大きなモーターやインバーター、あるいは前後モーターを搭載したものがスタンダードになるのではないだろうか。
したがって、GSのようなクルマは希有な存在になりそうだ。ガソリン・エンジンを搭載した後輪駆動のスポーティセダンは、ひょっとしたら、2000万円超のセグメントでしか買えなくなってしまうかもしれない、なんて思ったりする。
しかも、GSはいまどき珍しい自然吸気V6エンジンも選べるのがクルマ好きにとって嬉しい。メルセデスやBMWにはない魅力だ。
現行GSのラインナップは下記のようになる。ガソリンエンジン車が、3.5リッターV6の「GS350」(656万278円~)と2リッター4気筒ターボの「GS300」(588万8056円~)。ハイブリッドが、3.5リッターV6を使う「GS450h」(757万6759円~)と、2.5リッター4気筒の「GS300h」(627万8148円~)だ。GS350のみAWD(全輪駆動)の設定がある。
選ぶパワープラントによって、テイストがけっこう異なる。乗り較べて自分の好みを見つけるのもまた、豊富なバリエーションを持つGSの楽しみだろう。その楽しみのためには、あとわずかな時間しか残されていないけれど。
文・小川フミオ 写真・安井宏充(Weekend)
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みんなのコメント
いかんせん、ライバルであろう
Eクラスや5シリーズと比較すると、特に、デザイン面と安全装備面で見劣りするのは明らかですね。
基本設計が古いので当然なんですが・・・
残念ですがやっぱり売れない車は、淘汰されていく運命ですね。