第52回ADAC・ラベノール24時間・ニュルブルクリンク(通称ニュルブルクリンク24時間レース)は、2024年5月30日~6月2日にかけて争われた。
2020年に10年ぶりの復帰を果たし、ニュルでのタイヤ開発プログラムを再開したTOYO TIRES。ニュルブルクリンクで数々の入賞実績を持つドイツのRing Racingとパートナーシップを結び“TOYO TIRES with Ring Racing”として、日本人ドライバーの木下隆之を含む磐石のラインアップで挑んだ5年目の戦いを追う。
トーヨータイヤ装着車がNLS開幕戦でクラス優勝飾る。次戦はニュルブルクリンク24時間予選レース
* * * * * *
■TOYO TIRES、RING RACINGとともに挑むニュル24時間、5年目の挑戦
これはもう、ニュルブルクリンクの女神がいたずら心で描いた物語の、ひとつの悲劇のシーンのような気がする。
「24時間に四季がある」
autosport No.1597 2024年7月号のこの連載で僕は、冒頭にこう記している。青空に浮かぶ白い雲が突然に黒く変色するやいなや、それまでの乾いた路面は瞬時にずぶ濡れのウエットになる。
世界一過激なコースと恐れられるニュルブルクリンクを制するには、柔軟な環境適合性と恐怖に立ち向かう覚悟が必要であると。
その原稿を執筆したのはひと月以上も前のことだが、不思議なことにその予言は的中してしまった。いや、脚色したはずのその表現ですら十分ではなかったようで、ノルドシュライフェの女神はサディステックな舞台作家のように、さらに無秩序にレースを混乱に落とし込んだのだ。
2024年のニュル24時間レースの参加台数は、総台数130台に達した。最速GT3マシンのSP9クラスが24台。GT4マシン限定のSP10クラスが15台。我々、TOYO TIRES with Ring Racingの2台のトヨタGRスープラ GT4 EVOは、激戦区であるSP10クラスに挑戦し続けている。
近年のニュル24時間レースには、“世界最速の草レース”と呼ばれた過去の面影はない。ワークスが必勝体制で最新のマシンを送り込んできている。タイヤワークスである我々、TOYO TIRESもそれに組み込まれる。
もはや“24時間耐久レース”は、淡々とラップを刻みながら完走しても評価されない。常に息をつめて、過激なコーナーに挑み続けなければ勝機はやってこない。『24時間スプリントレース』。僕は、いつもそう表現している。
それが故に、レースは危険度を増している。決勝から遡ることひと月前に開催された予選では、多重クラッシュが多発した。
特に夜間帯は恐怖すら感じるほど危険だった。生い茂る木々によって覆われたノルドシュライフェでは、月明かりさえ期待できない。そんな中、速度差が最大で100km/hもあろうGT3やGT4のマシンが小排気量マシンの脇をかすめていくのだから、接触しないほうが不思議である。
おそらくローパワーマシンも避けようにも避けられないのだろう。迫り来るハイパワーマシンをバックミラーに確認した瞬間には抜き去られた後だ。そもそも深夜にミラーで後方確認することは不可能。遠慮のないハイビームで瞳孔がやられるだけだ。
塹壕(ざんごう)で身を伏せるかのようにして、あるいはダンスを踊るように身をひるがえして大砲から逃れなければならない。おのずと残骸がコースサイドに積み重なっていく。
■戦闘力を増した『PROXES Slicks(プロクセススリック)』を武器にクラス優勝を目指す
そんな過激なレースに我々、TOYO TIRES with Ring Racingは170号車と171号車の2台のトヨタGRスープラGT4 EVOを投入。僕は171号車をドライブすることになった。チームメイトはハイコ・テンゲス、ミハエル・ティシュナーの2名だ。
迎え撃つライバルも強豪揃いだった。
常にトップ争いを演じてきたBMWは4台のM4 GT4を送り込んできていた。ポルシェはBMW同様に4台の718ケイマン GT4を投入。最高速度の高さを武器に、ハイスピードバトルを優位に進める腹積りだ。メルセデス-AMG GT4は1台が参戦する。
もっとも警戒すべきはアストンマーチン・バンテージAMR GT4だった。前哨戦ともいえるNLSニュルブルクリンク4時間耐久開幕戦では、我々より10秒も速いタイムで予選を制した。
BOP規制のターゲットにされかねないと判断すると第2戦からはBOP対象外のSP8Tクラスにスイッチ。そして、そこでも圧勝。その速さを維持したままニュル24時間レースでは、再びSP10クラスに戻ってきた。策士である。
対するTOYO TIRES with Ring Racingは、BOPでの救済がないままのトヨタGRスープラ GT4 EVOで戦った。
強力な武器は、持ち込んだ新開発の『PROXES Slicks(プロクセススリック)』が想像以上の戦闘力を秘めていることだ。宮城県の仙台工場で生産したおよそ500本をドイツに持ち込むなどして構築した必勝体制が勝利への拠り所だった。
ただし、サディステックな女神はアナーキーにシナリオを書き換える。レースウイークすべてのセクションを晴れから雨に、あるいは激しい雨で濡らしていたかと思えば抜けるような青空で路面を乾かすのだから、女神の戯れにもほどがある。
ウエット路面をスリックタイヤで凌いだその翌周に、せっかく履き替えたウエットタイヤでドライ路面を攻めさせられるなど、混乱が繰り返された。黒い雲のはるか上空で、右往左往する我々エントラントを女神が、腹を抱えて笑っているのではないかと想像したのだ。
挙句の果てに彼女は、決勝のグリット整列時にはカラカラに乾いていた路面を、フォーメーションラップ中に濡らしはじめた。
「さらに意地悪をするの?」
スリックスタートを選択した僕は、フォーメーションラップをかろうじてスピンすることなく終えると、青点灯するスタートシグナルをかすめて緊急ピットイン。天候に翻弄されたスリックスタート派は僕だけではなく、雪崩を打ったようにマシンが列を成してピットイン。予期せぬタイヤ交換戦争が勃発する。
■ニュルの女神に翻弄された決勝レース。「想像したことのない」展開で幕引き
さらに女神は悪戯の手を緩めようとしない。雨から晴れ、晴れから雨、そしてまた雨から晴れを繰り返しながら、悪戯の手口が切れた頃には、さらに霧でサーキットを覆うという暴挙に出たのだ。
1周25.3kmのあっちの視界は晴れていながら、こっちは濃霧で前車のテールライトだけを手掛かりにコースをなぞるありさま。
路面コンディションがコロコロと変わるなか、霧も視界を奪うのだから、もう人間には打つ手がなかった。高速で突き進む繭の中にいる感覚である。
我々、TOYO TIRES with Ring Racingは瞬発力よりも24時間を安定して走らせることを戦略としていたから、予選アタックも封印し、24時間後のゴールを想定していた。そこまでは予定通りに、予選11番手から5番手にまでヒタヒタと順位を挽回。天候に翻弄されながらも、トップの背中も見えはじめた。
だが、猛追はそこまで。7時間38分の走行時点で濃霧となり赤旗中断。水墨画のように色を失った。霧がついには晴れることがなく、最終的にはセーフティカー先導のまま24時間レースが終了したのである。
『史上最も過激な24時間レース』は『ニュル史上最も短い24時間レース』になった。
我々がカウントした周回数は44周。そのうちの5周はゴール前のセーフティカー先導走行だから、レーシングスピードを刻んだのは39周だ。しかも、安定した路面で走ることができた周回は一度もない。
これほど激動の展開は聞いたことも見たことも、想像したこともなかった。“完全”な不完全燃焼である。
ともあれ、これがニュルブルクリンク24時間なんだよなぁと、戦いを終えたいまでも心をモヤモヤとさせながら妙に納得している自分が不思議でならない。
ニュルブルクリンクの女神は、今年も乱暴なシナリオを書き綴った。24時間に四季を描きながら、雨季と乾季を混在させたのだ。
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