メルセデス・ベンツEクラスは「大衆車」だった?
クルマに詳しくない人でも、メルセデス・ベンツという名前はおそらく一度は聞いたことがあるだろう。世界最古の自動車メーカーであり、いまや世界で最も人気のブランドの1つとなっている。そして、その中核をなすのがEクラスである。
【画像】洗練性と実用性を併せ持つ高級車の指標【初代メルセデス・ベンツEクラス(124型)を写真で見る】 全25枚
最も高級なモデルがSクラス、その次がEクラスという順で、俗に “アッパーミドル” とも呼ばれるポジションにある。累計販売台数は1600万台を誇り、メルセデス・ベンツにとって欠かせないモデルであるが、自動車業界に与えた影響も計り知れない。
Eクラスはもともと、1976年に「コンパクト・クラス」という呼称で発売された(W123型)。従来のSクラスより小型で、各国でタクシーや救急車に使われるなど実用車として親しまれた。つまり、スリーポインテッドスターの高級車であることに変わりはないが、かなり大衆を意識したモデルでもあるのだ。
コンパクト・クラスは、主力モデルにふさわしくエンジンのラインナップも豊富で、2.0L 4気筒ガソリンの「200」、インジェクション付き2.8L直6ガソリンの「280E」、3.0L 5気筒ディーゼルの「300D」など数多くのバリエーションが用意された。1978年にはTシリーズというステーションワゴンも追加され、実用重視のユーザーの要望に応えた。
その後、さらに小型のモデルが登場したため、1985年発売のW124型は「ミディアム・クラス」と呼ばれるようになる。この頃から、メルセデス・ベンツの中で中核的なポジションを確立したと言える。
現在の「Eクラス」という呼称は、1993年から正式に使用されるようになった。以降も時代に合わせてバトンを受け継いでいき、昨年発表された最新のW214型は第6世代に数えられる。確かに上級ではあるが、普及もしっかり視野に入れるという姿勢は、初代から変わっていないように思える。
オーバークオリティからコストダウンへ
初代W124(1985-1995)
2度のオイルショックを乗り越え、エコを重視する時代に登場したW124は「高性能」と「高効率」の両立を目指し、軽量化と空力性能を追求。日本では1986年から販売開始された。当初ミディアム・クラスとして発売され、1993年から現在のEクラスに名称変更。70~80年代のメルセデスを代表する、柔剛併せ持った堅牢なデザインで、「最善か無か」の最後の時代を象徴するモデルである。
第2世代W210(1995-2002)
引き続き安全性やエコを重視しながら、新型のW210では新たに「コストダウン」を優先事項とした。ヘッドライトも丸目4灯の斬新なデザインとするなど、購入層の拡大を狙った。1999年の改良ではESP(横滑り防止装置)を標準装備とし、さらに安全性を高めている。より多くの人の手に届くように、というのは聞こえが良いが、目に見えるコストダウンや好みの分かれる外観は批判も呼んだ。
先を見据えた大胆なチャレンジ 革新と失敗
第3世代W211(2002-2009)
先代W210との繋がりを感じさせるデザインだが、SBC(電子制御ブレーキ)や高張力鋼板の使用拡大など、最新の製造・安全技術を盛り込んだ新世代のEクラスである。ボディも大型化した。しかし、その先進性ゆえにトラブルにも見舞われ、SBC関連で大規模なリコールに発展。後に改善されたが、安全面におけるメルセデスの信頼性を揺るがす事態となった。
第4世代W212(2009-2016)
W211を踏襲しつつ、新しいデザイン要素を取り入れたW212は、空力性能がさらに向上したほか、快適装備や安全装備も充実。また、歴代初のハイブリッドも導入するなど革新性に揺るぎはない。しかし、4灯分割のヘッドライトは好評を得られず、ついに後期型で廃止されてしまった。新しさや大胆さを追求しても、必ずしもユーザーの心に響くわけではないということをこの数年で学んだのかもしれない。
手堅い進化 IT技術をフル活用したモダンな高級車
第5世代W213(2016-2023)
丸みを帯びた流線型のフォルムが与えられたW213は、カメラやセンサー類を多用する高度な運転支援システムにより、安全面と快適性で新しい一歩を踏み出した。PHEVの初導入や、オフロード志向の第3のモデル「オールテレーン」を設定するなど、ラインナップにも大きな動きが見られた。一見するとライバルに比べて保守的だが、中身でしっかり進化を感じさせるのはメルセデスの妙か。
第6世代W214(2023-)
待望の最新世代W214型Eクラスは1月12日に日本で初披露された。発売は2月を予定。内外装を一新し、パワートレインもすべて電動化。コネクテッド技術による機能性とエンタメ性の強化も見逃せない。さらに、車内の “自撮り” 用カメラを使えばオンライン・ミーティングや動画撮影も可能だという。しかし、本当にそのような使い方をする機会があるだろうか? ZoomやTikTokならスマホでいいのでは……と思わずにはいられないが、あくまで1つのギミックとして楽しめばいいのかもしれない。
「発展」の最先端を征く 世界に欠かせない1台
Eクラスの歴史は、メルセデス・ベンツにとって決して成功の連続ではなく、挑戦と失敗の繰り返しでもある。考えてみれば、Eクラスという存在そのものがすでに挑戦的なモデルと言えるだろう。
コンパクト・クラス、ミディアム・クラスとして登場したEクラスは、上位のSクラスより小さいモデル、言わば「大衆」を意識して作られたモデルだ。一部のユーザーにしか手が届かなかった高級なデザイン、性能、快適装備、安全装備を「大衆化」したという点で、大きな意味を持つ。
裕福ではない一般的な家庭で育った筆者としては、スリーポインテッドスターを輝かせるEクラスは憧れの対象であると同時に、長らく縁の薄いクルマという印象であった。しかし、Eクラスの設計哲学は多くのクルマに影響を与えたと言われている。
上流階級のみが味わっていた先進的な技術は、やがて時間の流れとともに大衆化し、より多くの人々がその恩恵を受けられるようになる(自動車の普及もそうである)。それが真の発展であり、Eクラスはまさにその先端に立っているのではないだろうか。
ミディアム・クラスもといEクラスは、今後もメルセデス・ベンツの中核として、また世界のプレミアムセダン/ステーションワゴンの指標として進化を続けていくに違いない。
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みんなのコメント
同年式の日本車と比べると、走る曲がる止まる全てに置いて超越していたから。