ブガッティヴェイロンの後継モデルにあたるシロン。そのシロンの新たなグレードとしてブガッティは2021年6月に「シロン・スーパー・スポーツ」を発表した。
ブガッティ最後の純内燃機関モデルとなるシロン・スーパー・スポーツ。そのエンジンは1600psという圧倒的出力を叩き出す。
ブガッティ最後の純内燃機関モンスター降臨!! 1600psのシロン・スーパー・スポーツ試乗からわかった「究極のハイパースポーツカーである理由」
ブガッティが「究極のハイパースポーツカーである理由」とは何か? F3参戦経験もあるモータージャーナリスト、木村好宏氏がシロン・スーパー・スポーツに試乗した。
文/木村好宏、写真/木村好宏、BUGATTI
■ル・マン観戦時にブガッティ買収を思いついたという逸話は……
ブガッティ シロン・スーパー・スポーツは8L、W16気筒クワッドターボエンジンを搭載し最高出力1600ps、最大トルク1600kgmを発揮。0-100km/h加速は2.4秒、時速200kmまではなんと5.8秒で到達してしまう
私はなぜかブガッティに縁がある。それもクラシックモデルではなくて、VWグループ傘下に組み込まれたあとの新生ブガッティである。
最初の遭遇は1999年の東京モーターショーにおけるプロトタイプのワールドプレミアで、この時は当時のVW会長、Dr.ピエヒとインタビューした時だ。
「ブガッティ・プロジェクトは私にとってF1参戦と同じような挑戦である。」、「モータースポーツ最高峰のF1はゲームチェンジのために常に無意味なレギュレーションの変更があって、無駄な投資が必要となる、ゆえに私はこのプロジェクトで市販車の最高峰を目指す!」と彼は語った。
また、巷で囁かれていた、ル・マン観戦時に町のおもちゃ屋で息子にブルーのブガッティのミニカーを買ってあげた時にブガッティの買収を思いついたという逸話だが、確かに息子にミニカーを買ったが、買収への決定は別の時だったと笑いながら真相を加えた。
その後、最初の市販車であるヴェイロン16.4を2007年に試乗するチャンスに恵まれ、続いて2016年にはヴェイロンの最終バージョンであるタルガトップのグラン・スポーツ・ヴィテッセもテストしている。
■ブガッティ最後の純内燃機関は驚異の1600ps
そして今回、ヴェイロンの後継モデルであるシロンの最終バージョン、すなわち純内燃機関を搭載する最後のブガッティである「シロン・スーパー・スポーツ」の試乗も体験することができた。
シロン・スーパー・スポーツはこれまで以上の最高速度を目指して開発がスタートした。そのためにまず8LW16エンジンの最高出力を1600ps、最大トルクを1600Nmにまで引き上げた。
ボディ関連ではフロントにダウンフォースを得るためにエアカーテン、そして過流を40%低減するデザインのテールとディフューザーを採用し、Cd値は0.35から0.37の間に抑えながらリフトを44%低減するなど徹底的なリファインメントが行われた。
そして2019年8月、完成されたプロトタイプのシロン・スーパー・スポーツ300+で、ブガッティのテストドライバー、アンディ・ウォレスはVWグループのプルービングコース、「エーラ・レシエン」で490.48km/h(304.7mph)を記録したのである。
今回、スーパー・スポーツの量産が始まったのをチャンスに、ごくかぎられたジャーナリストがブガッティのフランス本社での試乗に招待されたのだが、この試乗会ではなんとこの速度記録を達成したアンディ・ウォレスがエスコートをしてくれるという光栄に浴したのである。
実は筆者はアンディとは1987年のF3シリーズ参戦中に何度か会ったことがあり、彼も私のことを覚えてくれていた。
■デザインは細部にまでこだわりを見せる
内装には上質なタンレザーとカーボンがふんだんに使われ、黒いエアアウトレットにはチタンが使われている
シャトー・ブガッティの前に置かれた長さ4700mm、幅2200mm、高さわずか1200mmのシロンSSは漆黒のボディに包まれており、ドアを取り巻く伝統的アイコンであるCラインと、そこから後方に伸びたリアフェンダーが視覚的にもハイスピードでの安定性を訴えている。
まずは、アンディのドライブで指定された公道上のテストコースを回る。
カントリーロード、オートルートを含むおよそ100kmのコースで、アンディは操作系を簡単に説明しただけで、なんとスーパーマーケットの駐車場に停めて選手交代を促す。
いくらブガッティの故郷とはいえ、ドライバー交代の短い間にあっという間にスマホをこちらに向けた人たちで一杯になる。
上品なタンレザーとカーボン、剥き出しのアルミに包まれたインテリアは本物の塊で普通ならばプラスチックですませるはずの黒いエアアウトレットはなんとチタン製である。
好ましいことに表示はアナログでタッチパッドなどは見当たらない。
■ブガッティ史上最も洗練された1台に
ふつうのクルマと比べて何よりも大きな違いは、目の前にあるスピードメーターでそのスケールは通常の2倍、500km/hまで刻まれている。
当たり前だが250km/hは、まだ半分の12時位置にしか過ぎない。
スターターボタンを押すと、予想していた以上に押し殺したようなおとなしいサウンドが低く響いてくる。
ドライブモードは普通のクルマではスタンダード・セッティングに相当するEBを選択して、スロットルを慎重に踏み込む。1600psのスーパー・スポーツは思ったよりもリニアでジェントルな加速を開始する。
乗り心地はこれまでに乗ったヴェイロンよりもずっと洗練されていて、路面からのショックの吸収はもちろん、ロードノイズも非常に小さい。
また、ステアフィールも大幅に改善されており、狭い田舎道のワインディングや交差点でもそのサイズを忘れるほど敏捷な動きをする。
確かに斜め後方の視界は絶望的だが、走行中は後方から迫ってくるクルマなどないので問題はなく、駐車はバックアップカメラのおかげで難しい作業ではなくなっている。
■比類なき加速力 素晴らしき減速時安定性 驚くべき直進安定性
ブガッティと言えば最高速度に特化したクルマと思われがちだが、今回のシロン・スーパー・スポーツはヴェイロンよりもずっと洗練されたている。乗り心地の向上やロードノイズ低減。内燃機関ならではの加速と減速時の姿勢は極めて安定している
やがてオートルートの空いた直線路に入り、一瞬だが、スーパー・スポーツの片鱗を見るためにスロットルを踏み込む。
すると、ほんのわずかな躊躇いを見せた後に周囲の景色がSF映画のワープ画面のように強烈に後方へ流れる。
しかも、それはテスラモデルSやポルシェタイカンなどのBEVとは違って唐突ではなく、息が長い。
つまり、100km/hまでの数秒は間違いなく遅れを取るが、その先の160km/h、そして200km/hに達するまでには間違いなくシロンのほうが上手だ。
驚くのはその直進安定性で、ステアリングホイールに軽く手を添えておくだけで、あっという間に人には言えないほどの速度に達した。
公道上ゆえに即座にブレーキペダルを蹴飛ばすように踏み込むとミシュランパイロットスポーツ・カップ2は素晴らしいグリップで減速性能を発揮し、強烈なG加速度を体験させてくれた。
もちろん、姿勢は安定しており、補正舵角を当てる必要なく、まっすぐに減速する。
■シロン・スーパー・スポーツは究極のハイパースポーツカーである
およそ1時間のテストはあっという間に終わった。最新のブガッティに乗って最も感銘したのはその洗練度で、それはエンジン、シャシー、そして操作系の各部に及んでいた。
ブガッティはその価格と希少価値から、しばしば「投機の対象」とクルマの本質から外れた評価がなされている。
しかし、その究極のスポーツカーとしてのパフォーマンスそして魅力は間違いなく究極のハイパースポーツカーであり、この背後にいる多くの開発スタッフの努力の結晶だと感じた。
最後に、それでも語らなければならないのはこのシロン・スーパー・スポーツの価格だ。
欧州では税抜きで350万ユーロ(約4億7200万円)。
ちなみにこの試乗車を含め、限定生産30台のすべてがすでに幸運でリッチなオーナーの下に届けられることになっている。
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みんなのコメント
直線番長は魅力無いけどなぁ。