Maserati Levante Trofeo × Jaguar F-Pace SVR
マセラティ レヴァンテ トロフェオ × ジャガー Fペイス SVR
ポルシェ911カレラ4Sでロングドライブ。タイプ992の濃密な一体感に原点回帰を見た 【Playback GENROQ 2019】
“最強”のプライド
SUVのハイパワー化は止まる所を知らないようだ。非ドイツ製SUVを代表するジャガー Fペイスとマセラティ レヴァンテ トロフェオに用意されるオーバー500psの最強グレードが見せる世界を検証しよう。果たしてその走りと哲学の違いは何か。
「SVRとトロフェオの性格の違いは独伊のクルマの個性とも符号している」
SUVカテゴリーの隆盛は留まるところを知らず、今やドイツ系のプレミアムブランドを例に挙げれば販売の3台に1台はそれだという。
とあらば、当然バリエーションのワイド化にも弾みがつくのだろう。気づけばクーペスタイルのSUVも見慣れたものとなりつつあるし、ハイパフォーマンス系SUVの競争も物騒な領域に達しつつある。
そこに一手を投じるのはドイツ勢だけではない。たとえば、自らの自動車文化とスポーツカーとが切り離せない関係にあるイタリアやイギリスのブランドがその様子を黙ってみている理由はないということだろう。
「レヴァンテの速さはカイエンターボと同等」
マセラティ・レヴァンテのトップグレードたるトロフェオ、その最大のトピックはやはりフェラーリのマラネッロ工場で組み立てられるV8ツインターボを搭載することにあるだろう。ユニット自体はクアトロポルテにも搭載される3.8リッターのそれだが、ECUを専用チューニングとするほか、タービンはじめカムやピストン、コンロッドなどのムービングパーツにも手が加えられ、最高出力は590ps、最大トルクは734Nmに達する。発表されたスペックでは0-100km/h加速は3.9秒。最高速度は実に300km/h超というから、その速さはカイエンターボと同等以上ということになる。
トロフェオは、その強烈なパフォーマンスを外観からは想像させない。よく見ればサイドグリルがやや大きめの形状にも窺えるが、この意匠はスポーツ性を高めたS系のグレードも同じ。リヤに回れどグレード名すら記されず、凹面のスポイラー形状もまたSグレードに準拠したものだ。代わってグレード名が小さく刻まれるのはクォーターピラーのトライデントエンブレム。詳しく見ればブレーキやタイヤなどの差異はあれど、トロフェオの明快な識別点はこの位だろうか。ここまで黙して語らぬトップパフォーマーはそうはないだろう。裏返せばそれはいかにもマセラティらしい自信とみることも出来る。
「Fペイスも破天荒といって差し支えないパフォーマンスだ」
FペイスSVRはジャガー&ランドローバーのスペシャルビークルオペレーションズ=SVOが手掛ける3つ目のカタログモデルとなる。搭載されるエンジンは伝統のAJ-V8。恐らく最後の時が近づいているだろうこの5.0リッターユニットにスーパーチャージャーを組み合わせてのパワーは550ps、トルクは680Nmとなる。同じくスペックを記せば0-100km/h加速は4.3秒、最高速度は283km/h。SUVの形状や質量からくる特性を思えば、こちらも破天荒といっても差し支えないパフォーマンスだ。
SVRのエクステリアは冷却能力を確保すべく設けられた大口径のアンダーグリルやボンネットダクト、リヤバンパーのスリットなどによって結果的には明確にスポーティネスが示されている。他にもルーフスポイラー形状やサイドスカートなどが標準モデルとは一線を画する性能を主張している。内装においてはセミバケットタイプのハイバックシートが只ならぬパフォーマンスを示すアイテムとなるだろう。が、取材車のようSVOのコミュニケーションカラーではなく、グロスブラックグリルとの親和性が高い落ち着いた色味を選べば都会の中にうまく埋もれることも難しくはない、そんな風に躾けられているという印象だ。
「レヴァンテはエアサスの利を活かし、車体の動きはフラットでも乗り心地には丸さがある」
ドライブトレインは共に後輪駆動をベースとするオンデマンド式の4WDだが、トロフェオにはコンベンショナルな機械式LSDが、SVRには左右輪の差動を電子制御でコントロールするeデフがそれぞれリヤ側に装備される。加えてボディコントロールデバイスを活用して旋回時に内輪を摘むベクタリング制御も活用しながら、共に大きな体躯を積極的に曲げていこうという算段だ。車検証記載の車重はコイルサスのSVRが2090kg、エアサスのトロフェオが2340kgとなり、重量配分は共に約51対49に収まる。
タウンスピードから高速巡航にかけての走りっぷりは両車ともにパフォーマンスを忘れる快適さを備えているといっていいだろう。乗り心地的には不利なコイルサスに加えて22インチタイヤを標準で履くFペイスは、さすがに大きめの凹凸や目地段差にはインパクトも車中に伝わるも、大半の路面にはジャガーらしく染み入るようにしなやかな動きをみせる。トロフェオはエアサスの利を活かし、車体の動きはフラットでも乗り心地には丸さがある。共に爆速なだけにスタビリティも気になるが、いずれも安心してアクセルを踏んでいける接地感や安定性を備えていることは間違いない。
「Fペイスのフィーリングは爪を立てて路面をグッと引き寄せるようなコンタクト感がある」
ワインディングに入ると両車のキャラクターの違いは一層際立ってくる。SVRのフィーリングは爪を立てて路面をグッと引き寄せるようなコンタクト感がベースとなっていて、そこに件の旋回デバイスが巧く介入しながら曲げていくという印象だ。対してトロフェオはデバイスの介入感は少なく、エアサスだからといってロールを無理に抑えることもなく、優しい接地感と共に荷重を巧く使いながら曲がっていくという印象だろうか。
近年のマセラティはシャシーワークが優れていて初対面から掌に収まるような応答性をみせてくれるモデルが多いが、トロフェオもまさにそれで、気づけば重く大柄な車体がひと回り以上は小さくなったかのような開放感も感じられる。SVRは回頭性にやや重さがあるも、そこから無類のコンタクト感で正確に舵の向きへと車体を推し進める重厚なタッチが個性だろう。思えばエンジンのフィーリングもそれに準じていて、トロフェオが軽くて滑らかな吹け上がりなのに対して、SVRは剛質で野太いパワー感が魅力だ。これらはいにしえからの両国のクルマの個性とも不思議と符号している。
「セグメントを超えた車両価格にも、SUVの強烈な競争環境を垣間見た」
そして気づけば車格的にトロフェオよりはひとつ下のセグメントとなるSVRが、まさにジャイアントキラーのパフォーマンスを持ってDセグメント級の値札を下げている、そこにSUVの強烈な競争環境を垣間見るのは僕だけではないだろう。
REPORT/渡辺敏史(Toshifumi WATANABE)
PHOTO/神村 聖(Satoshi KAMIMURA)
【SPECIFICATIONS】
マセラティ レヴァンテ トロフェオ
ボディサイズ:全長5020 全幅1981 全高1698mm
ホイールベース:3004mm
車両重量:2340kg
エンジンタイプ:V型8気筒ツインターボ
総排気量:3799cc
最高出力:434kW(590ps)/6250rpm
最大トルク:734Nm(74.8kgm)/2500rpm
トランスミッション:8速AT
駆動方式:AWD
サスペンション:前ダブルウイッシュボーン 後マルチリンク
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
タイヤ&ホイール:前265/40R21 後295/35R21
最高速度:304km/h
0-100km/h加速:3.9秒
車両本体価格:1990万円(消費税8%)
ジャガー Fペイス SVR
ボディサイズ:全長4737 全幅2071 全高1670mm
ホイールベース:2874mm
車両重量:2070kg
エンジンタイプ:V型8気筒スーパーチャージャー
総排気量:5000cc
最高出力:405kW(550ps)/6000-6500rpm
最大トルク:680Nm(69.3kgm)/2500-5500rpm
トランスミッション:8速AT
駆動方式:AWD
サスペンション:前ダブルウイッシュボーン 後マルチリンク
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
タイヤ&ホイール:前265/40ZR22 後295/35ZR22
最高速度:283km/h
0-100km/h加速:4.3秒
車両本体価格:1272万円(消費税8%)
※GENROQ 2019年 11月号の記事を再構成。記事内容及びデータはすべて発行当時のものです。
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