ステアリング操作の進化
近年の新型車では、ステアリング周辺に配置されるスイッチの数と種類が急速に増えている。かつてはホーンだけが標準だったが、現在はオーディオ操作や電話、各種走行支援システムの操作に加え、メーターディスプレイの切替や走行モード変更まで、ハンドル上で行うのが一般的だ。
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経済産業省は当初、2024年に「モビリティDX戦略」を策定した。その後、2025年6月に状況変化を反映して同戦略をアップデートしている。自動車分野ではAIや自動化の導入が政策の中心であり、官民協調によるデジタル化や自動運転モデル開発も加速している。メーカー各社は安全性とユーザー体験の両立を目指し、操作性を重視したステアリングスイッチ開発に投資を強化している。
また、2024年の国土交通省調査によると、衝突被害軽減ブレーキ(自動ブレーキ)は2021年から新型国産車、2024年から輸入新型車、2025年12月から継続生産車への義務化が予定されている。アダプティブクルーズコントロールなどの先進運転支援機能の普及率も年々高まっている。
こうした背景から、ステアリングスイッチの数は増加を続けている。各社は最終的に、どのような形の操作系を目指しているのか。その方向性が今後の車両開発の鍵となる。
多機能化の利便性と課題
トヨタやホンダ、スバル、マツダなどの主要メーカーでは、多くの車種でステアリングスイッチの採用が進んでいる。運転支援機能や車載オーディオとの連携を前提とした構成が一般的となっている。
国産車では左側にオーディオやナビ、ハンズフリー通話関連のスイッチ、右側にクルーズコントロール機能のスイッチを配置する傾向がある。ホンダなど一部メーカーでは「操縦に関する機能は右、装備に関する機能は左」という思想を明示しており、この配置により運転中でも直感的に操作できるようにしている。
ステアリングスイッチの主な機能は、オーディオ操作、電話の開始・終了、メーターディスプレイ表示の切替、クルーズコントロールのON/OFFや車速指定、車間距離調整、車線維持支援などである。これにより、運転中に手を離さず操作できる環境を実現している。
一方で、多機能化にともないスイッチの数が増え、操作が複雑になる課題も指摘されている。特にタッチ式スイッチではブラインド操作が難しく、誤操作のリスクが高まる事例もある。2025年にはフォルクスワーゲンの電気自動車(EV)「ID.4」のタッチ式ステアリングボタンが誤作動により事故を招いたとして、米国で集団訴訟に発展した。運転に不慣れな層や高齢者にとっては、操作自体に戸惑うケースもあり、多機能化が必ずしも使いやすさにつながるわけではない。
メーカー側はこの課題を認識しており、人間工学に基づくグリップ形状の改良やスイッチ配置の最適化、ブラインド操作に対応する形状づくりなど、直感的に操作できるインターフェース開発を順次進めている。
乗用車セグメントの拡大
ステアリングスイッチ市場は依然として世界的に拡大している。Global Market Insights社のリポートによると、世界市場規模は2024年に34億ドルに達する見込みである。2025年から2034年にかけて、年平均成長率は1.8%と予測されている。
この成長は、自動車の安全性向上と運転支援技術(ADAS)の普及が背景にある。特に乗用車セグメントは2024年に市場シェアの60%を超え、2034年までに25億ドル以上が見込まれる。
搭載率のデータを確認すると、レベル2(部分自動運転)システムを搭載した車両は2023年時点で世界で約2846万台から3025万台と報告されている。2025年には3218万台まで増加すると予測される。アジア太平洋地域では、中国やインドなどの新興国での自動車生産拡大と規制強化が、成長の主要因となっている。
この状況から、ステアリングスイッチは世界の自動車メーカーに広く採用され、コネクテッドカーや自動運転社会に欠かせないコンポーネントになると見込まれる。
触覚フィードバックによる操作性向上
ステアリングスイッチは今やほとんどの車に搭載されているが、今後どのように進化するのか注目される。
特に音声認識機能の進化が目立つ。トヨタの最新T-Connectナビゲーションシステムでは「エージェント」と呼ばれる音声対話サービスが搭載されており、ドライバーの状況に応じて能動的に機能を提案する仕組みだ。この技術により、物理的なスイッチ操作を減らし、直感的な車両制御が可能になる。
またトヨタは電気自動車「bZ4X」の開発で、トップマウントメーターと異形ステアリングホイールを組み合わせた次世代コックピットを発表した。ただし法規制の関係で日本や欧米では採用されず、従来の丸型ステアリングホイールが用いられている。
ステアリングスイッチの進化には触覚フィードバック技術も重要である。ボタンを押した際の振動や抵抗を適切に組み込むことで、視線を移さずに確実な操作感を得られるようになる。
一方、タッチスクリーンディスプレイの普及により物理的ボタンが減少する傾向も見られた。しかし運転中の操作性や安全性の観点から、近年では物理ボタンに回帰するメーカーも増えている。スウェーデンの自動車メディア「Vi Bilagare」が2022年に実施した調査では、タッチパネル操作は物理ボタンの最大4倍以上の時間を要することが明らかになった。重要な機能はステアリング上の物理スイッチで維持される可能性が高い。
今後は音声認識や触覚フィードバック、タッチパネルといった新技術を活用しつつ、安全で快適な運転環境の実現に向けた開発が進むと考えられる。(木村義孝(フリーライター))
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