この記事をまとめると
■タクシー不足などの問題解決のために本格導入に向けた議論が行われている「ライドシェア」
いま成田空港で横行する「白タク」! 対策としてあがる「ライドシェア解禁」の声は安直すぎる
■行政や政治家レベルではライドシェアとはどういうものかという認識に大きなズレがある
■ライドシェアを既存システムに押し込めようとする動きにデジタル化の遅れを感じた
ライドシェアの導入検討がいよいよ本格化
政府レベルでもライドシェアサービス(以下ライドシェア)の日本国内導入について活発な議論が行われるようになった。ライドシェア導入には問題が多々あるといった、導入へ向けての消極的な報道が多いように見受けられる。
また、コロナ禍となってから離職が目立つようになったタクシー乗務員に関しては、その後に新型コロナウイルス感染拡大が沈静化してインバウンド(訪日外国人観光客)が日本を訪れるようになってもタクシー不足は解消されておらず、全国的にタクシー不足が問題となっている。
タクシー事業者が思うように人材を集められないなか、にわかにタクシー不足解消の救世主として注目されたのが「ライドシェア」となっている。すでに大手タクシー事業者を中心に、スマホアプリによるタクシー配車サービスに加盟しているケースも多く、アプリで目的地などを入力して、タクシーの配車要請を行うというものが普及しており、このスマホアプリ配車は、ライドシェアと流れは似ているものとなっている。
タクシーのスマホアプリ配車は、それに加盟しているタクシー会社のタクシーを配車してもらうサービスとなる。しかし、諸外国のライドシェアとは、あらかじめ登録している、自家用車で希望者を目的地まで運ぶことができるドライバーと、そのような一般ドライバーの車両で移動したいという人を、スマホアプリ上でマッチングさせるサービスであるということが大きく異なる。
つまり、ライドシェアの基本はアプリによるマッチングサービス業となり、諸外国では旅客運送事業という認識ではないのだが、日本では「タクシーに近い旅客運送事業」という認識で議論が進んでいるように見える。
神奈川県がライドシェア導入へ検討を進めているが、神奈川県の案では、タクシー事業者がライドシェアサービスを行うドライバーの面接を行い、登録や研修などを行う窓口、いわばライドシェア車両及びドライバーの運行管理を行うことが求められている。
この時点で、日本国内における行政や政治家レベルでは、ライドシェアとはどういうものかという認識に大きなズレがあるといえよう。メディアでは事故が起きたらということがよく取り上げられるが、純粋なライドシェアは単にマッチングサービスとなるので、その後の事故などのトラブルでは、当事者同士の問題、つまり利用者の自己責任に任されることになる。
神奈川県の案では、既存のタクシー会社がちょっと変わった、新しいタクシーサービスを開始するようにも見えてしまう。
単なるマッチングサービスと捉えれば、そもそも自賠責保険は義務加入であるし、ライドシェアに参加する車両には任意保険への加入を登録条件にすれば問題がないともいえる。車両管理も乗用車ですら日常点検義務があり、世界的に厳しい車検制度があるのだからこれも問題ないと言える。
車内でのドライバーによる犯罪抑止については、マッチングサービス会社のクラウドサーバーへ自動的に映像が蓄積できるような、指定ドライブレコーダーの装着を登録条件にすれば抑止効果も高まるというもの。
ただ、このままではまずいとするのが、いまの導入へ向けての論議となっているようである。
日本と海外では大きく異なるライドシェアの認識
日本の行政当局は、既存のシステムのなかに新たな形のビジネスを押し込もうとしてくる。カーシェアリングも結果的には、「カーシェアリング的レンタカーサービス」として分類され、“わ”ナンバー扱いとなり、通常のレンタカー事業の派生扱いとなっている。
ロシアの首都モスクワでもカーシェアリングサービスは盛んだが、乗り捨ては完全に自由。道路端に使用済みのシェアリング車両が駐車されているのはよくあることだが、利用したい人がその車両が乗り捨てられているのを確認して、自分が登録して乗り込み使っている。東京都内などでもお馴染みの「シェアリング自転車」とほぼ変わらない使い方だ。基本的に借りた営業所に返却するレンタカーと同類ではない、まったく独自のサービスとして展開されているのである。筆者はこれはとても便利だなと思い見ていた。
日本はクルマ関連に限らず、がんじがらめで規制がかけられているケースが多い。そして、世界がデジタル化を進め、さまざまな革新的サービスが登場しても、日本国内では多くの規制が邪魔をしてなかなか普及させることができない。
ライドシェアもまさにそのとおり。消費者も行政の規制が厳しすぎるので、何か問題が発生すれば行政当局の責任問題を追及する(流れとしては当たり前)という流れが定着しており、欧米やその他の諸外国のように、自己責任という話を持ち出すとたちまち炎上してしまうことも多い。
諸外国でもそこまで自己責任を負いたくないという人はライドシェアサービスを利用しないし、利用しても事故リスクの低い短距離移動にしか使わないなど、使い分けができているので、ただちにタクシーに深刻な悪影響が出るというわけではない。
アメリカにおけるライドシェアサービスドライバーによる利用者への性的暴行事件が多いのが心配との話もあるが、ある鉄道の駅では「東口のタクシーは運転手さんが怖い」と、わざわざ西口のタクシーを利用する若い女性が多いという話があるので、日本のタクシーが絶対的な安心感を得て利用されているというわけでもない。
ライドシェア導入より、「タクシー業界の規制緩和を」という話もあるが、タクシーに乗っていわゆる「1メーター」と言われるような短距離の目的地を告げると、ドライバーに舌打ちされたり嫌味を言われることがまだまだある状況では、短距離移動で利用したくても嫌な思いはしたくないので手控えた人も多いはず。
ライドシェアは原則論でいけばドライバーは副業で従事することになり、諸外国で見る限りは空いた時間に従事することになる。したがって、利用距離の長短にはあまりこだわらず、短距離移動にも使いやすい。日本でも短距離移動では便利な移動ツールになるはずである。
ただし、ライドシェアで自家用車を使いだせば、運転頻度は多くなるので事故発生リスクも増してしまう。そのまま一般乗用車と同じ任意保険では、任意保険料全体の値上がりにもつながるので、ライドシェア用任意保険の設置などが必要となるだろう。
政治家の先生は、海外へ行っても、もちろんライドシェアなどは利用しないだろうから、どんなものなのか実感が沸かないのかもしれない。ライドシェアを既存のシステムに新しいサービスとして半ば押し込めようとしているようにも見える。
いまのライドシェア導入検討の動きを見ていると、日本の社会がデジタル化に乗り遅れている現状の根深さと言うか、その原因がどこにあるのかといったものが見えてきたように思えた。
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みんなのコメント
私的には、利用者より、利用される側がかなり危ない気がする。