■トヨタ「iQ」ベースの「シグネット」にV8エンジンを搭載!
英国ウェストサセックス州チチェスター近郊グッドウッドにて開催される「グッドウッド・フェスティバル・オブ・スピード(FoS)」は、世界最大級の自動車のお祭りである。
世界一カッコイイかも…! マツダの570馬力「RX-VISION」が美しすぎる
2020年は、新型コロナ禍のため1年休止、秋に無観客の代替えオンラインイベントが開催される事態となってしまったが、本来は毎年7月に、その素晴らしさをもっとも端的に示しているのは、メインイベントの「ヒルクライム」といえるだろう。
1万2000エーカーという、我々日本人にはいささかピンと来ないほどに広大なイベント会場のなかでも中核を成すステージ、「グッドウッドハウス」と呼ばれる古城周辺の庭園や牧草地を抜ける私道に設定されたコースを駆け抜けるヒルクライムでは、作られた年代や生産国、あるいは2輪/4輪を問わず、最上級のクラシックモデルや当代最新のスーパーカーたちが持ち前のパフォーマンスを披露する。
もしも将来、自動車が世界遺産の対象になる日が来たならば、選出されても然るべきレベルのクルマたちが続々と走るさまは、まさしく圧巻である。
しかしその一方で、誰もが認める名車ではないものの、個性が際立つ新旧の「キョーレツ」ないしは「キテレツ」なクルマたちが大挙して登場するのも、グッドウッドFoSヒルクライムの大きな特徴といえるだろう。
今回は、2018年のグッドウッドFoSにおいて強烈な存在感を放った3台をセレクト。それぞれの時代における常識に挑戦したかのような個性派たちの雄姿から、「自動車のお祭り」気分をホンの少しでも味わっていただければ幸甚である。
●アストンマーティン「V8シグネット」
2018年のグッドウッドFoSがワールドプレミアの舞台となった「アストンマーティンV8シグネット」は、顧客からのリクエストに応じて、アストンマーティン社のビスポーク部門「Q by アストンマーティン」がワンオフ製作した、正真正銘のモンスターである。
もともとトヨタ「iQ」をベースとするシグネットのボディシェルを流用し、先代「ヴァンテージ」系からダブルウィッシュボーンサスペンションを含めたフロントとリアのサブフレームを移植。
オリジナルでフロントに横置きされる1.3リッター直列4気筒エンジンの代わりに、「ヴァンテージS」の4.7リッターV8自然吸気エンジンが縦置きに搭載されている。
標準型シグネットの最高出力が98psなのに対して、こちらは最高出力430ps/最大トルク50kgmという、まさに怪物の称号に相応しいパワーを発揮するのだ。
駆動方式も、トヨタiQおよびシグネット由来のFFからFRに変更。トルクチューブを介して、シングルクラッチ式シーケンシャルMT「スピードシフト」とディファレンシャルをリアに搭載する。
また大幅に拡幅されたトレッドや、ヴァンテージから流用される大径ホイール/タイヤを収めるために、前後のフェンダーはカーボンファイバー製の専用品が組み合わされている。
一方インテリアについても、バケットシートやロールバー、FIA規格の消火システム、先代ヴァンテージの計器盤を組み込んだ、専用のカーボンファイバー製ダッシュパネルが内装に奢られるなど、スタンダードのシグネットを大幅に凌駕するスポーティな空間が演出されている。
V8ヴァンテージよりも250kgも軽量に仕立てられた、このV8シグネットの0-60mph(約97km/h)加速タイムは4.2秒、最高速度も274km/hとスーパーカーとしても一人前。
グッドウッドの森に自然吸気のV8サウンドを高らかに轟かせ、素晴らしいスピードで快走するさまは、異様というよりもただただカッコ良かったのである。
■「サバンナRX-3」フェイスの「RX-7」とはいかに?
ここ10年ほどのグッドウッドFoSでは、日本発祥のドリフト競技で活躍するドライバーとマシンたちが大人気を博しているとのこと。筆者が訪ねた2018年のヒルクライムでも、ドリフト軍団の「真打ち」的なポジションで登場したのが、このモンスターマシンだった。
●マッドブル「RX-7 Gen7.3」
サイドとリアから見るとアンフィニ/マツダ「RX-7(FD3S系)」なのだが、フロントマスクは「サバンナ」、しかも初代にあたる「RX-3」風に仕立てられていることに目を瞠(みは)らされてしまった。
ドリフトの世界にはまるで疎い筆者は、この異様な風体にただただ驚かされるばかりだったのだが、帰国したのちに調べてみると、ニュージーランド出身の世界的ドリフトスター「マッド・マイク」ことマイク・ウィデット選手が、日本国内のスペシャリストともに作り上げた「マッドブルRX-7 Gen7.3」というマシンであることが判明したのだ。
マッド・マイクはかつて、自身にとって初となる国際イベント参戦用のドリフトマシンとして、1992年式FD3Sをベースとする「FURSTY」を製作。10年以上にわたって彼のパートナーとなってきた。
FURSTYはのちに4ローター仕様の「RX-7マッドブル」へと進化し、マイクに2009年シーズンの「フォーミュラドリフト・アジア」のタイトルをもたらしたという。
そして2017年に「マッドブル」はさらなる進化を遂げる。マイクがもっとも好きなクルマであるというマツダRX-3そっくりに仕立てたフェイスを、マッドブルのFD3S型RX-7ボディに組み合わせているため「Gen.7.3」と呼ばれることになったのだ。
歴代のマッドブルと同様、カスタムメイドの自然吸気4ローター26Bエンジンが搭載されたこのマシンの目的は、マツダのレースヒストリーに燦然と輝くRX-3の活躍を再現するマシンを作ることだったといわれている。
長らくマッド・マイクを支援してきた「レッドブル」のカラーリングに彩られた「マッドブルRX-7 Gen.7.3」。世界が注視するグッドウッドFoSにおける雄姿は、その目的を充分に果たしているかに見えたのだ。
●フィアット「S.76」
異様なほどに嵩の高いボディに、火を噴くエキゾーストパイプ。第二次世界大戦前のレーシングカーたちがひしめくグッドウッドでも、ひときわ目立つ存在だったのが、フィアット「S.76」あるいは「300HP RECORD」、時には「La Belva di Torino(トリノの野獣)」とも呼ばれるレーシングカー兼スピード記録チャレンジマシンである。
1899年の創業から約10年を経て、イタリア最大の自動車会社となっていたフィアットは、創成期のモータースポーツにも目を向け、14リッターの「S74」グランプリカーは、ヨーロッパとアメリカ双方のレースで輝かしい成果を示していた。
しかし、ジョヴァンニ・アニエッリを筆頭とするフィアット首脳陣はそれだけに飽き足らず、次なるチャレンジである世界スピード記録の分野にて、ドイツの「ブリッツェン・ベンツ」が1909年に達成した202.691km/hというスピードを超えることを目指した。
そして当時の人気ドライバー、フェリーチェ・ナザーロと発足間もないレース部門に開発を委ねた結果として1910年に誕生したのが、S.76だったのだ。
ブリッツェン・ベンツが2万1504cc/200psの4気筒エンジンを搭載していたのに対して、フィアットS.76も航空機由来となる2万8354cc、すなわち、実に28リッターという巨大な直列4気筒SOHCエンジンを搭載する。
そのパワーは、110年前の技術水準では異次元とも感じられたに違いない、290-300psに到達したといわれている。
第一次世界大戦などの事情により、公式なスピード記録の達成には至らないまま長らく放置されていたとされるこのモンスター。今世紀に入ってイギリスの愛好家によって修復されたのちにも、その悪魔的な魅力と存在感は健在であった。
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