2023年FIA F2第13戦のフィーチャーレース(決勝レース2)前、スプリントレース(決勝レース1)終了時点でランキング3位につける岩佐歩夢(ダムス/レッドブル&ホンダ育成)と、ランキング首位のテオ・プルシェール(ARTグランプリ/ザウバー育成)のポイント差は41点差まで広がっていた。
FIA F2では1大会(1週末)で獲得できる最大ポイントは39点のため、岩佐はフィーチャーレースでプルシェールを先行し、39点差以内に縮めなければ最終戦ヤス・マリーナを前にタイトルの可能性がゼロとなる状況だった。さらに言えばフィーチャーレースのポールシッターはプルシェール。対する岩佐は15番手と後方スタート。ポイント差を縮めることは困難を極める状況だった。
9月3日にモンツァで行われた第13戦フィーチャーレースでは、上位勢を含む多くの車両がスタートタイヤに柔らかめのオプションタイヤ(スーパーソフト)を選択する中、岩佐を含む中段の数台は硬めのプライムタイヤ(ミディアム)を履いた。「15番手からのスタートなので、リスクを背負ってでも順位を上げる可能性のある『プライム→オプション』の戦略を選びました」と岩佐。
スタート直後、ランキング2位につけるフレデリック・ベスティ(プレマ・レーシング/メルセデス育成)がガードレールにヒットしセーフティカー(SC)が導入。4周目にレースは再開されるが、岩佐が13番手走行中にチームメイトのアーサー・ルクレール(ダムス/フェラーリ育成)が第1シケイン進入で止まりきれず、コースサイドにマシンを止め、2度目のSC導入となる。
このSC導入のタイミングでオプションスタート勢は一気にピットレーンになだれ込みタイヤ交換義務を消化。ただ、プライムスタート勢はスタートから間もない状況(ここでオプションに変えてもタイヤが最後まで持たない可能性が大きい)ゆえにステイアウトせざるを得ない状況。岩佐は3番手に浮上するが、SC中にタイヤ交換義務を消化したオプションスタート勢が圧倒的に有利な状況だった。
「スタートはうまくいったのですが、やはりオプション勢のグリップがよく、大きくポジションを上げることはできませんでした。2回目のSCで、ステイアウトせざるを得ない状況になったときには、『今日は勝負権を失った』とも思いましたが、エンジニアと『あきらめないでいこう』と話し、ドライビングに集中しました」と、岩佐はその時の心境を振り返る。
12周目にレース再開を迎えると、岩佐は同じくステイ組のユアン・ダルバラ(MPモータースポーツ)、ジャック・ドゥーハン(インビクタ・ビルトゥジ・レーシング/アルピーヌ育成)を第2シケイン進入でかわしトップに浮上する。ただ、ホームストレート上でゼイン・マロニー(ロダン・カーリン/レッドブル育成)がクラッシュし、12周目に3度目のSC導入となる。
アクシデントがホームストレート上だったため、全車にピットロードを通るよう指示が飛ぶ。ダムスはここで見た目上トップの岩佐のタイヤを交換。ただ、コース復帰すると、先ほどオーバーテイクしたダルバラがタイヤを変えて4番手、岩佐が10番手という状況に。
「3回目のSCでタイヤをオプションに交換したのですが、残り周回数がオプションでは多すぎるのは分かっていました。それでも、ばん回するためにタイヤを交換をすることにしました。作業に若干手間取ったこと、ファストレーンにマシンが連なっていたことで、なかなか入るタイミングを見つけられず、ポジションを失ってしまいました」と岩佐は状況を説明する。
ピットでのタイムロスこそはあったものの、戦略面での不利な状況はこれで打開できた岩佐。ただ、30周のレースのうち17周を残す状況でのオプションタイヤ装着により、タイヤが最後まで持つのかという懸念は残っていた。
16周目にレース再開。すると18周目の第1シケインでデニス・ハウガー(MPモータースポーツ/レッドブル育成)がオーバーラン。さらにランキング4位につけていたビクトール・マルタンス(ARTグランプリ/アルピーヌ育成)はマシントラブルでリタイアする中、岩佐は21周目のターン1でリチャード・フェルシュフォー(ファン・アメルスフォールト・レーシング)をオーバーテイクし7番手に浮上する。
さらに、23周目には岩佐の前を走るジャック・クロフォード(ハイテック・パルスエイト/レッドブル育成)とクッシュ・マイニ(カンポス・レーシング)がターン3で接触、マイニがグラベルでマシンを止め、4度目のSC導入となる。これで岩佐が5番手となるが、この4度目のSC中に最後までタイヤ交換を先延ばしにしたドゥーハンがピットイン。また、ダルバラはタイヤが厳しくなったか、2セット目のオプションタイヤに履き替えることを選択し、岩佐は3番手に浮上。フェラーリ育成のオリバー・ベアマン(プレマ・レーシング)がレースをリードする中、2番手プルシェールの背後という位置まで岩佐は這い上がった。
27周目にレース再開を迎えると、このリスタートの好機を活かしたのは岩佐だった。プルシェールのスリップに入ると、第1シケインへの飛び込みでプルシェールをかわし岩佐が2番手に浮上する。タイヤが厳しい状況には変わりないが、岩佐は翌28周目には自己ベストを更新し、プルシェールとの間合いを確実に広げる。
ただ、29周目にクロフォードがコースサイドにマシンを止め、VSCを経て5度目のSC導入となった。レースはそのままSC先導でチェッカーとなり、ベアマンがプレマ・レーシングとフェラーリの地元で勝利を飾った。岩佐は15番手から2位を獲得。3位にプルシェールが続いたが、プルシェールと岩佐のポイント差は39点となり、岩佐はかろうじて最終戦ヤス・マリーナまでタイトル獲得の可能性を残すことが叶った。
「タイヤがかなり厳しくなっていたので、4回目のSCのときに交換することも考えましたが、エンジニアから『ステイアウトでいこう』と言われ、それに同意しました。終盤、やはりタイヤは厳しくなって、もし5回目のSCが出なければポジションを落としていたかもしれません」と岩佐は振り返る。
「運に恵まれたところもありましたが、自分もチームもそのときどきで最大限のパフォーマンスを発揮できた結果だと思っているので、2位という結果ともに、それができたことがうれしいです」
「最終戦に向けては、予選での速さを取り戻すことが大きな課題です。これから分析して方向性を見つけなければなりません。チームとミーティングを重ねるつもりです。アブダビでは、昨年とてもいいレースができましたが、今年も同様とはいかないと思っているので、しっかり準備して臨みたいと思います」
なお、ランキング3位の岩佐が逆転タイトルを掴むにはランキング首位プルシェールがノーポイントかつ、岩佐が39点(ポール獲得:2点、スプリントレース優勝:10点、フィーチャーレース優勝:25点、トップ10圏内でのファステストラップ獲得:それぞれ1点)を取り切ることが必要。つまり、岩佐は予選でポールポジションを逃すと、その時点でタイトルへの挑戦権は消滅する。プルシェールとのポイント差はそれほどに大きい。
一方でランキング2位につけるベスティがこのレースをノーポイントで終えたことで、ベスティと岩佐のポイント差は14点まで縮まっており、岩佐は十分にランキング2位の可能性を残している状況だ。
2023年のFIA F2第14戦/最終戦は、11月24~26日にアブダビのヤス・マリーナで開催される。引き続き、岩佐とダムスの戦いぶりに期待したい。
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