2台の強さと速さが光ったシーズン10
2024年3月、東京ビッグサイトの周辺を舞台に日本初の四輪公道レースとして開催され、大きな注目を集めた電気自動車を使用したモータースポーツ「ABB FIAフォーミュラE世界選手権」のシーズン10も、7月21日に最終ラウンド「ロンドンE-Prix」での2レースで、1月から続いたシーズンの各タイトルに決着がついた。
「EタイプのインパクトをEVで再現したい」ジャガー・マネージング・ディレクターが語る電動化への姿勢
例年以上の接戦となったシーズン10(2024年1月13日から2024年7月21日まで)からは、開発が許されているリヤのモーターやギヤボックス、ディファレンシャルギアといったコンポーネントの製造メーカーに対し「マニュファクチャラータイトル」が新設され、2025年からオールエレクトリックブランドへ生まれ変わることを宣言し、今シーズンはジャガーTCSレーシングとエンビジョンレーシングの2チーム計4台に供給していたジャガーが、合計455ポイントを獲得して初代チャンピオンに輝いた。
同時にジャガーのワークスチームである「ジャガーTCSレーシング」は、ふたりのニュージーランド人ドライバーを擁し、全16レース中4勝、14回の表彰台フィニッシュに加え、レース中の最速タイムを7レースで記録、予選でも4回のポールポジションを獲得。強さと速さを兼ね備えたチームは、2位のチームに36ポイント差をつけ計368ポイントを獲得しチーム・ワールド・チャンピオンシップも制覇してみせた。
なお、ジャガーがモータースポーツの世界タイトルを獲得するのは、1991年のスポーツカー世界選手権(SWC)以来33年ぶりの出来事である。
今シーズン2台のマシンのシートを託されたミッチ・エバンスとニック・キャシディは、ともにニュージーランド出身のドライバーで、お互いをよく知る2ふたりだ。そのコンビネーションが存分に発揮されたのが、4月に行われた第8戦モナコE-Prix。
レース中に一時的なパワーアップが可能になるアタックモード。このモードはレース中にコースの外側に設けられたアタックゾーンを通り、1回起動させなければならないのだが、その分タイムロスが生じ後続マシンの急接近を許す。そのアタックモードの使用に際し、ふたりのニュージーランド人ドライバーは互いに後続を巧みにブロックし、僚友が十分なマージンを持ってコースに復帰できるよう手助けするチームプレイを見事に完遂してみせたのだ。
その結果、チームはワンツーフィニッシュを果たし大量ポイントを持ち帰ることに成功、選手権を大きくリードした。まさにモナコE-Prixの1戦は、今シーズンのチームチャンピオンを象徴するレースとなった。
ドライバーランキングでもミッチ・エバンスがモナコE-Prixでの優勝を含むシーズン2勝を挙げランキング2位、長年日本で活躍した僚友のニック・キャシディもシーズン2勝を挙げランキング3位を獲得。キャシディはエバンスを上まわる8度の表彰台獲得を記録したものの、レース中の不運にも泣かされることが多く、東京E-Prixの前後3レースでわずか4ポイントしか獲得できなかったのは痛手だった。
両ドライバーともドライバータイトルを射程圏に入れながら臨んだ最終ロンドンE-prixでは、エバンスは2レースで2位と3位を獲得しながらも、タイトルには惜しくも手が届かなかった。
2025年にEVブランドへ生まれ変わるジャガー
ドライバーランキングのトップ5に2名のチーム所属ドライバーを送り込めたのは、ジャガーTCSレーシングだけであった。そのことを考えるといかにマシンが優れ、チームは巧妙な戦略を立案し、それをドライバーが正確に実行できたのかが証明された結果と言えよう。
ジャガー・ランドローバーのモータースポーツ担当マネージングディレクターであり、その表情豊かで常に感情を前面に出す姿勢からテレビ中継にもよく登場する、ジャガーTCSレーシング・チーム・プリンシパルを務めるジェームズ・バークレーは、今回のタイトル獲得について次のように述べている。
「これはジャガーTCSレーシング、ジャガーブランド、そしてこの成功に貢献したすべての人にとって本当に歴史的な瞬間です。この世界選手権における勝利は、チーム、ドライバー、パートナー、ファン、そして世界中のJLRの同僚たちのものです」
「ジャガーは豊かなレースの歴史を持っており、2016年にフォーミュラEプログラムを開始したとき、その伝統にさらに貢献することを決意しました。電気自動車レースの頂点である2024 ABB FIAフォーミュラEのチームタイトルを獲得したことは、全員の努力と勝利への不屈の精神にふさわしい報酬です。ミッチとニックの両名には感謝します。ドライバーズタイトルの栄冠まであと一歩に迫りながらタイトルを逃したことはふたりにとってつらいことですが、彼らは1年を通して信じられないほど素晴らしい走りを見せてくれました。来年もタイトルを争うことは間違いありません」
「これまでの私たちの旅に関わってくれたすべての人に個人的に感謝の意を表したいと思います。これはジャガーTCS レーシングにとって素晴らしい瞬間であり、この信じられないような偉業を一緒に楽しみましょう!」
東京E-PrixでフォーミュラE参戦100戦目を達成し、F1とまったく同じコースレイアウトで行われるモナコE-Prixを制覇。いくら予選で下位に沈んだとしても必ずといっていいほど上位に進出し、「振り返ればジャガーがいる」というほどレース中に強さを見せたジャガーTCSレーシング。ジャガーは2030年までのフォーミュラE長期参戦にもコミットメントしているので、当面この強さは継続されることだろう。
英国の伝統的ブランドは、2025年に向けてオールエレクトリックのモダンラグジュアリーブランドへと再構築されようとしている。そのようななかでのマニュファクチャラーとチームの同時タイトル獲得は、来たるブランドの再構築に大きな弾みが付く結果といえよう。
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