アウディスポーツの精神を象徴するモデル、それがR8だ。自然吸気の5.2L V10エンジンをミッドシップし、4輪を駆動するスーパースポーツカー。富士スピードウェイで、その本質を解き放つ機会に恵まれた。(Motor Magazine2021年3月号より)
自然吸気エンジンの快音は渾然一体となり饗宴が始まった
アウディの幅広いラインナップの中でも、R8こそはサーキットを走るのにうってつけのモデル。ただし、私自身はR8をサーキットで本格的に走らせたことがなく、タイヤのグリップ限界を越えたR8を操ったこともまだなかった。
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もっとも、助手席からであれば、限界を越えたR8の様子を垣間見たことがある。この時ハンドルを握っていたレーシングドライバーは、コーナーの進入でわずかなドリフトアングルを作り出すと、大胆かつ繊細なアクセルペダルワークでその姿勢を維持した後、最終的にはコーナー出口に向けて一直線に立ち上がっていったのである。
そんなドライビングを試すには、最初に行わなければならない儀式がある。それは、ハンドルに設けられているパフォーマンスモードスイッチの操作だ。チェッカードフラッグが描かれた小ぶりなスイッチを押すとスタビリティコントロールの介入が弱まり、ドライビング次第ではオーバーステアを引き出すことができるのだが、さすがにこれは公道上で試すものではない。そこで私は、今回のサーキット試乗でパフォーマンスモードを試してみようと心に決めていたのだ。
パフォーマンスモードを選んだ私はピットレーンからメインストレートに合流すると、アクセルペダルを一気にフロアまで踏み込んだ。ムチを入れられたV10ンジンは吸気音も高らかに回転数を上げていく。低回転域では5.2Lの大排気量が潤沢なトルクを発揮する。その後も、いかにも回転モーメントが小さそうなシャープな吹き上がりを示しながら、レブカウンターの針は急上昇していく。
6000rpmに近づき、クライマックスを迎えつつあったエンジン音は、そこを越えると精密なメカニカルノイズの饗宴へと一変。そしてその刹那、私は脳内に直接、電気信号を送られたかのような激しい興奮に襲われたのだ。そうした時、最新のターボやハイブリッドのようにわざとらしいレスポンスを示すことなく、常に一定のリズムで滑らかにレスポンスする自然吸気エンジンの魅力に、改めて心を打たれる。
そして1コーナーに向けてブレーキング&シフトダウン。あえて大きめのヨーモーメントを残しながらターンインすると、果たせるかな、テールがスムーズにスライドしてオーバーステアの姿勢を示した。「これだ!」私は心の中で小さく叫びながらカウンターステアを当てると、R8は従順に反応してくれて、滑らかにリアのグリップを回復する。
もっとも、テールスライドが顔を出したのはまだタイヤが温まっていなかった1周目だけで、2周目以降は公道と同じように高いスタビリティを発揮し続けた。それでも、瞬間的にせよ限界を引き出せたことで、R8と私の距離はこれまでにないほど縮まった。これもまた、スーパースポーツカーの楽しみといって間違いないだろう。(文:大谷達也/写真:井上雅行)
アウディR8クーペV10パフォーマンス5.2FSIクワトロ主要諸元
●全長×全幅×全高:4430×1940×1240mm
●ホイールベース:2650mm
●車両重量:1670kg
●エンジン:V10DOHC
●総排気量:5204cc
●最高出力:466kW(620ps)/8000rpm
●最大トルク:580Nm/6600rpm
●トランスミッション:7速DCT(Sトロニック)
●駆動方式:4WD
●燃料・タンク容量:プレミアム・83L
●WLTCモード燃費:-
●タイヤサイズ:前245/30R20、後305/30R20
●車両価格(税込):3031万円
[ アルバム : アウディR8クーペV10パフォーマンス5.2FSIクワトロ はオリジナルサイトでご覧ください ]
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みんなのコメント
メルセデスに引き抜かれ、黄金期の立役者になった。
結局、イルモアもアンディコーウェルも全てコスワース出身者。
メルセデスは自社開発出来ないので、それをマネージングしているだけである。