クラシック以外は落ち着き始めている?
2024年3月1日~2日、RMサザビーズがアメリカ・マイアミで開催したオークションにおいてフェラーリ「F355スパイダー セリエ フィオラーノ」が出品されました。F355スパイダーをベースに製作された特別仕様車で、フェラーリはトータルで104台を生産。そのなかの49番目に製作された同車のハンマープライスをお伝えします。
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1990年代に登場したフェラーリの中でも評価の高い1台
1994年5月24日、1990年代に誕生したフェラーリの中でも特に名車と評価され、後継車の「360モデナ」が登場する1999年まで圧倒的な人気と販売実績を誇ることになるV型8気筒ミッドシップ車、「F355」がデビューした。フェラーリの創業者であるエンツォ・フェラーリ亡き後、フィアットから送り込まれた新たな指導者、ルカ・ディ・モンテゼーモロの経営哲学を、世界最高のプレミアム・ブランドたるフェラーリでいかに活かしていくのか。それがモンテゼーモロに与えられた使命だった。
モンテゼーモロが最初に決断したのは、モデルチェンジ・サイクルの短縮化だった。そして同時に常に新しく誕生した新型車が最先端の技術を持ち、世界最高水準のパフォーマンスを得ていることを強くアピールすることを忘れないこと。もちろんそれは、オーナー自身の評価によっても証明されなければならないことであるのは当然だ。
フェラーリはF355の前身である「348」シリーズの段階で、それまでの伝統的なスペースフレームから、ルーフとリアフェンダーでも走力を負担するモノコックへと基本ストラクチャーを変更していたが、F355も基本的には同様の構造を持っていた。
進化が著しかったのは新たにDOHC5バルブヘッドが与えられたほか、排気量の拡大や軽量化などが行われたV型8気筒エンジンや(1996年にはモトロニックなどに一部改良が施された)、1997年に登場したクラッチとシフトフォークの駆動をアクチュエーターに委ねる、いわゆるF1マチックの採用である。
ボディデザインも、シルエットこそ348のそれに似るものの、じつにスムーズでかつスポーティな造形に変わり、走行中のダウンフォースはアンダーボディで得る、グランドエフェクトカーとして設計されているのも話題だった。
シリーズ最後に登場したスペシャルモデルとは
1999年までに販売面で大成功を収めたF355だけに、シリーズ最後にスペシャルモデルを発表しようというのも自然な成り行きである。今回マイアミ・オークションに出品された「セリエ フィオラーノ」は、F355スパイダーをベースに製作された特別仕様車で、フェラーリはトータルで104台(当初の計画は100台だった)を製作。そのうち100台は最大の輸出市場であるアメリカに向けてデリバリーされ、その内訳はF1マチック仕様が74台、6速MT仕様は26台だった。残りの4台はヨーロッパ向け(3台)と南アフリカ向け(1台)というのが詳細になる。
セリエ・スペチアーレに与えられた特別仕様で最も魅力的なものといえたのは、フィオラノ・ハンドリング・パッケージ(FHP)と呼ばれたスポーツ・サスペンションだった。ワンメイクレース用車両のF355コンペティツィオーネに由来するサスペンションキットは、可変ダンパーの制御プログラムの変更や、強化型スプリングを採用。前後のスタビライザーは標準の22mm & 17mmから24mm & 19mmに拡大するなど、実際に見て確認できるものだけでも、サーキット走行を楽しみたいオーナーには、その内容は魅力的に感じるものだろう。
さらにはリアのキャンバーは0.5度増加されるなどの専用アライメント設定や、チャレンジと共通のクイックレシオのステアリングギアボックス、ブレーキシステムもPHP独自のもの。ちなみにブレーキキャリパーはレッド、ゴールド、シルバーの3色から選択することができた。
ほかにもチャレンジ仕様のリアグリルや、インテリアではカーボンファイバー製のインサートやセンターコンソール、ドアシル、パドルシフト、スエード張りのステアリングホイールなど、さまざまな特別装備が満載された。
今回の出品車は100台のアメリカ向け車両のうち49番目に生産されたもので、走行距離がわずか2万1440kmというF1マチック仕様。ネロ(ブラック)・インテリアにアルジェント(シルバー系)・ニュルブルクリンクのエクステリア・カラーというコンビネーションも、落ち着きがあって好ましい。
参考までにRMサザビーズによる予想落札価格は12万5000~17万5000ドル(約1860万円~2610万円)だったが、落札価格は9万5200ドル(邦貨換算約1420万円)と振るわなかった。いわゆる特別な価値を持つクラシック以外は、フェラーリの価格もそろそろ落ち着きを見せ始めてきたということなのだろうか。
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