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【3.5L V8を積んだビュレット】トライアンフTR8 ブランドの最終章へ再試乗 前編

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【3.5L V8を積んだビュレット】トライアンフTR8 ブランドの最終章へ再試乗 前編

トライアンフの最後に残されたTR8

text:Greg Macleman(グレッグ・マクレマン)

【画像】トライアンフTR8 TR4にスピットファイア ライバルMGミジェットも 全84枚

photo:John Bradshaw(ジョン・ブラッドショー)

translation:Kenji Nakajima(中嶋健治)


ブレーキペダルを軽く踏む。長いシフトレバーを引きながら3速から4速へシフトアップする。大切なクルマだから、急がず慎重に。そして再びアクセルペダルを踏み込む。

木漏れ日が差す森の道を、トライアンフのカブリオレで進む。ビュイック由来のV8エンジンが聞き慣れた音を放ち、木々の間で反響する。

今度は強めにブレーキング。タイトな右コーナーを旋回してから再び一度右足に力を込め、ステアリングホイールを戻す。ドライバーのまわりに爽快な風が吹く。積極的な8気筒エンジンの息吹きが、気持ちを刺激する。

TR8は、改めて乗ってみると素晴らしいスポーツカーだ。TRというモデルラインだけでなく、トライアンフという自動車メーカーの最後に残されたクルマだとは、想像しにくい。

英国のスポーツカーを振り返って見ると、何か目に見えない巨大なモノが留まり、同時に止められない力が作用していたように思える。特にブリティッシュ・レイランド傘下のブランドでは。

老朽化した巨大タンカーが、岩場での挫傷を避けきれず進んでいたかのようだ。船長は10名の船員に指示を出す。しかし、それぞれが別の方向に走っていく。避けられない結果だったのかもしれない。

少なくとも、MG MGBとトライアンフ・スピットファイアは、独自性を残して戦った。モダンでスタイリッシュに生まれ変わったTR7と兄弟のTR8にも、巨大な船を救える要素が盛り込まれていたように思う。

ライバルと同傘下に入ったトライアンフ

英国の自動車産業は第二次大戦が終わると、独自性を強めていった。ライバルブランドとの競争から保護するため、経済的な支援が施された。海外に向けては、スポーツカーが積極的に輸出された。

1950年代から1960年代の間に、世界第2位の自動車生産国だった英国は、4位へ転落。MGBとスピットファイアは、手頃でシンプルなスポーツカーとして強さを誇示していたが、市場全体は急速に変化していた。

トライアンフとMGの2台は北米市場で大ヒット。アメリカ人はオープントップの英国製スポーツカーへ強く共感し、広大な大地を駆け回った。しかし1960年代に入ると、ダットサン240Z(日産フェアレディZ)といった競合モデルが台頭を始める。

加えてドル安ポンド高が進み、英国企業の利益率を圧迫。安全基準は引き上げられ、環境規制は強められ、パワーは絞られた。それでも、北米ではブリティッシュ・スポーツに対する需要は持続していた。

英国のメーカーは合併を重ね、1968年にブリティッシュ・レイランドという巨大な自動車会社が誕生。ライバル関係にあったMGとトライアンフは、同じ傘下に収められた。同社の似たモデルが、似た市場で競い合うことになった。

スタンダード・トライアンフは一足早く、1961年にレイランド・モータースによって買収。経営者のドナルド・ストークス卿の洗礼を先に受けていた。遅れて加わったMGは、BGT V8を除いて瀕死の状態だった。

1台へ絞られた次期スポーツモデル

傘下に入った10ものブランドは、合理化が進められた。1974年、MGミジェットの1275cc Aシリーズ・エンジンは、スピットファイア1500用のユニットに置換が決まる。MGファンとしては屈辱的な決定だったといえる。

しばらくすると、両ブランドのフラッグシップモデルは耐用年数の終わりを迎える。独自の次期スポーツカーのアイデアを温めても、不思議ではなかった。

MGはハイドロラスティック ・サスペンションと呼ばれる油圧サスを備えた、ミドシップのADO21を計画。一方のトライアンフは、従来的なフロントエンジ・リアドライブを採用した、通称ビュレットの設計を進めた。

同一傘下にあって、選ばれる道は1つ。オースチン・スプライトや、MGミジェットとMGB、トライアンフ・スピットファイアなどの後継モデルは、TRシリーズやGT6などと一緒に、すべてトライアンフの次期モデルへ統合された。

ビュレットの開発の中で、メカニズムはスムーズに設計がまとまった。活発ながら重さのかさむ直列6気筒エンジンも試されたが、最終的に選ばれたのは、トライアンフ・ドロマイト用の4気筒。スウェーデンのサーブが開発したユニットだった。

初期のビュレットには4速MTが組まれたが、TR7として量産が本格化すると5速MTへスイッチ。ローバーの3.5L V8ユニットもスポーティな仕様、後のTR8として採用が決まっており、ハイパワーにも対応できる耐久性を備えたトランスミッションだった。

イメージを裏切るモダンなデザイン

燃料インジェクションのエンジンに独立懸架式のサスペンションが与えられ、少々複雑な構成になっていたTRシリーズ。TR7では、シンプルさも意識された。

そこで技術者のスペン・キングがリア側に選んだのが、セミトレーリングアーム付きのリジットアクスル。コスト面でも有利で、アメリカ人受けも良い。

一方のスタイリングは少々難産だった。正面衝突と側面衝突の安全性だけでなく、燃料タンクの保護や横転時の安全性に対する北米の規制は厳しく、ボディの設計は簡単ではなかった。

視覚的な足を引っ張ったのが、5マイルバンパーと呼ばれた大きなバンパー。トライアンフに限らず、欧州車のスタイリングをことごとく崩した、不可避の要素だった。

デザインを担当したのは、ハリス・マン。いわゆるスポーツカー的なくさび形、ウェッジシェイプのフォルムは、イタリアのカロッツェリアが生み出すコンセプトカーに影響を受けたものだといえる。

しかし彼が探求したデザインの美しさは、量産までの過程で失われた様子。関わる技術者や口を出す財務担当者が増えるほど、クルマのスタイリングは当初の良さが薄まりがちだ。

トライアンフに、コンセプトカーのベルトーネ・カラボを彷彿とさせるビジュアル・インパクトを与えようとしたのだろう。ブランドのイメージを裏切るような、モダンなデザインをTR7に落とし込もとうと思案したことは否定できない。

結果としてMGBやTR6は、TR7とともに生産が続けられた。

この続きは後編にて。

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