この記事をまとめると
■「レースは走る実験室」と昔からよくいわれている
これぞクルマ好き究極の夢! 「F1エンジン」を積んだモデル5選
■四輪レースの最高峰「F1」で培われた技術がそのまま市販車に採用されることは稀だ
■F1の技術はスーパーカーに多く採用されるがわずかながら一般的な量産車にも活かされている
F1由来の技術ってどのくらい市販車にある?
「レースは走る実験室」というのは、かの本田宗一郎氏がいったとされる名言で、モータースポーツからのフィードバックにより量産車をレベルアップさせようという姿勢は、多くの自動車メーカーが持っている。
そして、モータースポーツというのは、エンジニアなどを鍛える場であると同時に、マーケティング的にいえば、ブランド価値を高める場でもある。そのため、四輪モータースポーツの頂点といえるF1に由来するテクノロジーを採用したと喧伝しているクルマは数多い。
しかしながら、本当の意味でF1直系テクノロジーを搭載したといえるスポーツカーは決して多くない。なぜなら、F1の技術をそのまま公道に持ち出すのは無理があるからだ。
一例を挙げると、F1のエンジンを冷えた状態から始動させるには事前に冷却水や潤滑油をヒーターで温めておく必要がある。大富豪が展示用に所有するならまだしも、自動車メーカーが量産車として保証をつけて販売するクルマにF1エンジンをそのまま載せるということは現実的ではない。
では、エンジン以外であればF1由来のメカニズムを量産車に載せることは可能だろうか?
F1直系テクノロジーの代表例として知られている技術としてフェラーリ「F1マチック」がある。1997年、量産モデルの「F355」に初採用されたパドルシフトによって変速操作のできるセミオートマチック・トランスミッションだ。
パドルシフトを市販車に用いたという意義は大きいが、フェラーリF1がパドルシフトを実践投入したのは1989年のことなので、意外に時間差はある。もちろん、トランスミッションの構造からしても別物。あくまでイメージとしてF1との共通性をアピールしたという風に理解するほうが実態に近いといえる。
現時点でもっともF1に近いハードウェアといえるのは「メルセデスAMG ONE」であろう。
最強時代のメルセデスAMGペトロナスF1チームのノウハウを活かしたパワーユニットは、1.6リッターV6ターボに2種類のモーターを組み合わせたもので、このハイパーマシンではさらにフロント駆動用にふたつのモーターが搭載されている。トータル出力は1000馬力以上、シャシーは軽量かつ高剛性なカーボン製というのもF1マシンを思い起こさせる。
一般庶民に向けた技術もF1由来だったりもする
ハイパーカーと呼ばれるカテゴリーにおいては、F1で実績のあるデザイナー(設計者)のキャラクターを前面に押し出すことでF1由来というブランディングをしている例は多い。
そうした手法のルーツであり、最高傑作といえるのが「マクラーレンF1」だろう。
1988年、マクラーレン・ホンダとして16戦中15勝という金字塔を打ち立てたマクラーレンF1チームのチーフデザイナーであるゴードン・マーレー氏が設計したスポーツカーは、運転席をキャビン中央に置いたセンターシートで、助手席はその左右斜め後方に置くという1+2レイアウトが特徴的なハイパーカー。
もともとはレーシングカーではなく、あくまでストリートモデルとして開発されたにもかかわらず、日本のスーパーGTやル・マン24時間耐久などツーリングカーをベースとしたモータースポーツにおいて大活躍をしたのは記憶に残るところだ。
とはいえ、マクラーレンF1は名前にF1と名付けているものの、ミッドシップに積んでいるのはBMW製の6リッターV12エンジンであり、F1マシンとの関連性はそれほどなかったのも事実だ。
最近では、レッドブルレーシングのデザイナーであるエイドリアン・ニューウェイが設計に関わった「アストンマーティン・ヴァルキリー」がF1直系のハイパーカーと呼ばれることもあるが、こちらもエンジンは6.5リッターV12であって、パワーユニットは別物となっている。
F1由来のエンジン技術を採用しているというふれ込みなのが「マセラティMC20」のV6ツインターボエンジンだ。
バンク角90度のV6エンジンという点ではF1直系ともいえなくはないが、MC20の排気量は3リッターであり、レギュレーションで1.6リッターとなっているF1のエンジンとは別物といえる。ただし、F1エンジンが究極の熱効率を求めて採用している副燃焼室テクノロジーを用いているという点においては、F1からのフィードバックが感じられるといえる。
いずれにしても、ここで紹介したハイパーカーは数千万円から数億円という価格帯となり、庶民にはまったく縁のないモデルである。その意味で注目したいのは「フォーミュラ1由来」のエネルギーマネージメント技術により省燃費性能を高めたというルノーのハイブリッドシステム「E-TECH」だ。
減速エネルギーを充電に利用する回生ブレーキの制御、シームレスなトランスミッションといったE-TECHの構成要素においてルノーF1の知見が活きているというのは、おそらく事実だろうが、エンジン横置きのハイブリッドパワーユニットをF1直系というのは少々無理があると感じる。冒頭で記したようにマーケティング的な狙いが見え隠れする。
もちろんそれは悪いことではなく、ユーザーがF1由来のテクノロジーということで満足できるのであれば、モータースポーツ活動の正しい成果といえる。
思えば、1980年代にホンダがF1にエンジンコンストラクターとして復帰したころ、量産車では燃料供給装置として電気信号によって制御するインジェクターが登場。ホンダは、インジェクションシステムの名前を「PGM-FI(プログラムド・フューエル・インジェクション)」と名付けた。その名前は現在でも使われている。
そして、1980年代にはFI(エフアイ)をF1(エフワン)と空目するユーザーが多数発生した。ちょうどF1でホンダエンジンが活躍を始めたことや、久しぶりにホンダの量産DOHCエンジンが復活したこととあわせて、ホンダエンジンはF1テクノロジーのフィードバックというイメージが独り歩きしたが、それがホンダのブランディングにおいてプラスに働いたことは間違いない。
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みんなのコメント
知見の積み重ねで、こういう場合にこの部品をこう使っちゃいけないとか、新しい物を作る時にベースになる知識と経験があるのと無いのとではスタート位置がすでに違うんですよ。
子どもや高齢者のような短絡的な考え方は改めないと。
F1に限らず、レース技術が一般車に普及したものは結構ある。