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70年生き抜いた「ベルトーネ」スパイダー アルファ・ロメオ・ジュリエッタ(2) 試作と思えない完成度

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70年生き抜いた「ベルトーネ」スパイダー アルファ・ロメオ・ジュリエッタ(2) 試作と思えない完成度

量産に向かなかったベルトーネのデザイン

ピニンファリーナ社の案を選んだアルファ・ロメオの判断には、いくつか理由が考えられる。1つ目は、ベルトーネ社が既にクーペのジュリエッタ・スプリントを量産していたことだ。

【画像】ベルトーネのスパイダー アルファ・ロメオ・ジュリエッタ フィアットのバルケッタとジュリアも 全122枚

生産効率を高めるため、多くの技術支援がアルファ・ロメオから投じられていた。同一のコーチビルダーへの依存を、あえて避けたと考えられる。

2つ目は、大胆な曲線ボディは複雑だったこと。フロント部分の成型はかなり難しいと考えられ、ボンネットはシングルヒンジで剛性不足も懸念された。ボディ面と一体の寝かされたテールライトは、認可が降りる可能性も低かった。

ベルトーネによる2台目のプロトタイプでは、テール周りのデザインが改められている。それでも、キャビンの快適性はピニンファリーナ社に届いていなかった。またアメリカ市場は、脱着式のサイドウインドウではなく、実用的な巻き上げ式を望んでいた。

最終的にホフマンの手を離れたジュリエッタ・ベルトーネ・スパイダーは、1958年にフロリダ州のセブリング・インターナショナル・レースウェイで目撃されている。それ以降は、ニュージャージー州のアルファ・ロメオ・ディーラーに展示された。

1970年代に入ると、ニューヨークタイムズ紙へスパイダーBATとして販売広告が掲載。1986年1月には、自動車雑誌のオートウイーク誌に記事が載り、3年後のコンクール・デレガンス、ペブルビーチでお披露目されている。

ほぼオリジナル状態で70年間生き抜いた

AUTOCARの姉妹メディア、クラシック&スポーツカーで売りに出されたのは2000年。当時の希望額は17万5000ドルで、オーナーは特別なモデルだと理解していたようだ。

この情報を発見したカーマニアのクリストフ・プンド氏は、ジュリエッタのコレクターとして知られる、とあるスイス人へ連絡。2人はアメリカへ飛び、キース・ゴーリング氏とスーザン・ディクソン氏という、アルファ・ロメオ・マニアから買い取った。

ジュリエッタ・ベルトーネ・スパイダーは、欧州へ輸送。当初はそのスイス人が所有していたが、最近、クリストフのコレクションへ加わったという。

改めて真っ赤なボディを眺める。ほぼオリジナル状態を保ったまま、70年近く生き抜いてきたことには驚かざるを得ない。リアバンパーは、惜しくも失われているけれど。

もう1つ、燃料の給油口はトライアンフTR3用のキャップへ交換されている。本来は、トランクリッドを開けなければ給油できなかったため、この方が遥かに実用的だ。

カーブを描くフロントガラスには、上部のフレームが備わらない。ボンネットは長く伸びやか。3枚のヴェリア社製メーターにはアルファ・ロメオのロゴがあしらわれ、表示は英語。スピードはマイル表示で、アメリカ前提の設計を窺わせる。

油温と油圧計が備わり、スポーティな志向も物語る。走行距離は、5万7500kmを超えたばかりだ。

内側にストラップの付いたドアは軽く、簡単に閉まる。シートは低く、ペダルへ向けて足を伸ばす。美しいステアリングホイールが、手元に来る。

量産モデルと勘違いするほど高い完成度

ダッシュボード中央にシンプルなボタンが並び、ライト類とアクセサリーを操作できる。ステアリングコラムにシフトレバーはなく、センタートンネルから伸びている。トラディショナルなアルファ・ロメオ的に。

小さなイグニッションキーをひねると、1290ccのツインカム4気筒エンジンが目覚める。ボリュームは大きくないが、咳き込むようなドライな唸りは耳障りが良い。回転上昇は、明らかに鋭い。

発進させると、クーペのジュリエッタ・スプリントと雰囲気は近い。軽いアルミニウム製ボディをまとい、走りは活発といえ、操縦系はソリッドで反応は正確。スポーツカーとしては、拍子抜けなほど快適性も高い。

同時期の英国製ロードスターのように、路面の凹凸へ身構える必要はなし。職人が手作りしたワンオフのプロトタイプではあるが、量産車と勘違いするほど完成度は高い。

切り落とされたフロントガラスを越え、優しい風が髪をなびかせる。イタリアの大地を北上し、アルプス山脈を抜け、フランスの平原を目指すようなグランドツアーを想像せずにいられない。空を映す湖には、ラグジュアリーなボートが浮かんでいるはず。

この素晴らしい1台は、有能なコーチビルダーの技術と情熱的なデザイナーの想像力を蒸留するように、丁寧に生み出された。アルファ・ロメオとベルトーネ、両社の歴史へ名を刻む道標的なスパイダーとして、今でもマニアの気持ちを刺激するプロトタイプだ。

協力:クリストフ・プンド氏、ラ・ギャラリー・デ・ダミエ社

番外編:量産を実現したルドルフ・フルスカ

アルファ・ロメオ・ジュリエッタの設計を率いたのは、オラツィオ・サッタ・プリーガ氏とジュゼッペ・ブッソ氏という2人。だが、その製造責任者を務めたのは、フェルディナント・ポルシェ氏の元で経験を積んだルドルフ・フルスカ氏だった。

グリフィス・ボルジェソン氏の著書「アルファ・ロメオの伝統」の中で、ルドルフが1日250台というジュリエッタの量産を達成させたことへの記述がある。「フォルクスワーゲンでの目標は1日1000台でした。わたしも、この大量生産の計画へ参画したんです」

「フェルディナント・ポルシェ氏は、アメリカ・ディアボーンを訪問。フォードの創業者、ヘンリー・フォード氏にプロジェクトへの意見を求めています。計画への適任者や、ドイツへの移動に興味を持っている技術者がいないか、質問もしていました」

「フォードの協力を得て、30名のチームがドイツへ赴任。わたしも、多くのことを学びました。彼らは、議論で無駄に時間を費やすようなことはなく、自らのやり方に確信を持っていました。戦争が起きなければ、良いクルマができていたでしょう」

戦後、ルドルフはアルファ・ロメオへ出向。ポルシェとフォードから得た経験が、ジュリエッタの生産に活かされることとなった。当初から量産は問題なく進められ、成功が導かれたのだった。

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みんなのコメント

2件
  • tac********
    おら、ダスティン・ホフマンが卒業で乗ってたデュエットがいいなぁ。
  • kaz********
    フロント周りを見ると、8Cコンペティツィオーネを連想しますね。
※コメントは個人の見解であり、記事提供社と関係はありません。

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