欧州貴族文化の残照といえる孤高の1台
かつて絵画や音楽などの芸術は、王侯貴族などのパトロンの庇護のもと大きく発展した時代があった。その文脈は、19世紀末から欧米で続々と誕生した初期の自動車の世界でも見られた。すなわち、高品質で知られるメーカーのパワートレーンとシャシーをベースに、好みのデザインのボディを贔屓のカロッツェリアにオーダーメイドし、自らの美意識と権威を世に知らしめるという馬車の時代からの伝統。そんな時代に生まれた1台が、この「アルファ40/60HP“リコッティ”」だ。
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イタリア・ミラノの「新興」メーカーだった「ALFA」
古くから各地の都市国家が栄えたイタリアの人々は、郷土愛が強い。いまなお自身の出身を語る際、かの地では「イタリア人」という前にローマ、トリノ、あるいはシチリアやピエモンテ……など、都市の名や州の名を強調する人々も多いと聞く。そんなイタリアで1899年にいち早く産声を上げたトリノのフィアットに対し、ロンバルディア州の州都・ミラノにも自動車メーカーを興したいと考える人々は少なくなかったようだ。
ミラノの貴族カヴァリエーレ・ウーゴ・ステラは1906年、イタリアの自動車市場に進出を狙っていたフランスのダラックの現地工場「ソシエタ・イタリアーナ・アウトモビリ・ダラック」をミラノ郊外に設立。しかしこの事業はうまくいかず、ダラックはほどなく撤退。ミラノに自動車産業を根付かせたいと考えていた地元の有志はその施設を買い取り、「Anonima Lombarda Fabbrica Automobili(株式会社ロンバルダ自動車製造工場)」として再起動させることとなった。
その社名の頭文字から、そこで作られるクルマの名はALFA(アルファ)とされた。時に1910年。その年初めてアルファを名乗る「アルファ24HP」のプロトタイプが完成。現在につながるアルファ ロメオの誕生である。
ニコラ・ロメオが買収して「アルファ ロメオ」となる
アルファ24HPは早くも1911年にはタルガ・フローリオに参戦(結果はリタイヤ)。24HPの正常進化型の20/40HPや、小排気量の12HPや15HPといったモデルも次々にリリースし、次第にその知名度を高めていく。しかし1914年に第一次世界大戦が勃発したこともあり、ALFAの経営状態は青息吐息。そこに助け舟をだしたのが経営センスにも長けた機械技術者、ニコラ・ロメオだ。
欧州各地で研鑽を積んできた彼が郷土に立ち上げた「N.ロメオ技師有限会社」は、当時すでにイタリア有数の大企業だった。そのニコラ・ロメオが経営難のALFAを傘下に収めたのは戦時下の1915年のこと。戦争が終わった1918年には早くもアルファ20/40HPの生産を再開し、それまでは単に「ALFA」だった車名にニコラ・ロメオの「ROMEO」が加わり、車名が「アルファ ロメオ」となったのはこの時からである。
アルファ史上有数の大排気量モデル「40/60HP」
ここで話を再び第一次世界大戦直前に戻す。歴代のアルファ/アルファ ロメオの中でもとりわけ大排気量のモデルとして知られる「40/60HP」が登場したのは1913年のこと。直列4気筒OHVエンジンのボア×ストロークは110×160mmで、排気量はじつに6082cc。通常の仕様で70馬力を発生したと言われる。ロードカーとして作られたモデルだったが、その大排気量が生み出すパワーを活かしたレーシングマシンも作られてサーキットでも活躍したのも、いかにもアルファ ロメオらしいエピソードだ。
生産台数はわずか27台といわれるアルファ40/60だが、トーピード・ボディのロードカーとスパルタンなレーサーの他に、ワンオフボディをまとったスペシャルなモデルが存在し、それはイタリアではミニカーの題材になるほどの存在だ。それがこのアルファ40/60HP“リコッティ”である。
空力ボディ(?)で速度アップを果たした“リコッティ”
自動車の大量生産が始まる前、メーカーがエンジン/ラジエター、スカットルとシャシーだけのクルマを販売することは普通であった。現代の路上でもキャブとシャシーだけの状態でボディ架装メーカーに陸送されるトラックを見かけるが、それにも似た「分業」の時代だった。
カロッツェリア・カスターニャといえば、1849年にミラノで創業した老舗馬車メーカーだったが、20世紀が始まる頃には自動車ボディの製造にも進出。やがて同社は同郷に創設されたアルファのボディの架装も手掛けるようになる。そして、そのカロッツェリア・カスターニャのパトロンでもあったイタリア貴族マルコ・リコッティ伯爵のオーダーによって1914年に作られたワンオフモデルが、このアルファ40/60HP“リコッティ”だ。
アルファ40/60HPの4座トーピード・ボディの上に架装されたアルミ製のボディは、まるで飛行船か潜水艦を思わせる流線型。その独特の姿から“シルーロ(魚雷)”というニックネームでも呼ばれた。空力学などがまだ未発達だった当時のことゆえ、そのボディは視覚的・感覚的な造形だったはずだが、実車の最高速度はノーマルのトーピードに対し、14km/hアップの時速139kmを記録したという。このアルファ40/60“リコッティ”は、イタリア・ミラノ郊外のアルファ ロメオ歴史博物館に、当時の資料をもとに再現された復元車が展示されている。
* * *
機械文明の精華である最新鋭の自動車と、伝統的なカロッツェリアの技術との融合によって生まれたアルファ40/60“リコッティ”は、まさに欧州貴族文化の残照ともいえる孤高の1台なのだ。
■イタリア リオ製 アルファ40/60″リコッティ” 1/43スケール品番:RIO4284-2 or RIO4284定価:1万4300円(税込)問い合わせ:サンリッチジャパン
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みんなのコメント
「プリマウィンナー号」を思い出しました…w
とくにフロント周りがよーく似とりますなw
ウィンナー号、街中を走ってるところを一度だけ見かけたことがありますが、
あぁいう恰好なのでw最初LPガスローリーか何かと思いましたが…