1950年代のイセッタを想起させるマイクロEV
欧州で販売されている電動マイクロカー、シトロエン・アミは、正式には自動車ではない。クワッドサイクルという、別のカテゴリーに該当する。乗り心地や走行音は、8000ポンド(約153万円)以下の低価格が許させる。
【画像】現代版イセッタ登場! マイクロ・マイクロリノ 欧州の電動マイクロカーたち 全106枚
それでは、今回試乗したマイクロリノはどうだろう。ボディサイズはアミとほぼ同じだが、英国価格はその2倍もする。
マイクロリノは2016年に発表され、欧州では2022年に発売された電動マイクロカー。スイスのマイクロ・モビリティ・システムズ社が提供する、初めての量産モデルだ。
同社は、1990年代後半に折りたためるスクーターで創業。事業拡大のため、1950年代のマイクロカー(バブルカー)、イセッタを想起させるバッテリーEVの製造へ大きく舵を切った。
スタイリングは、紛うことなき現代版イセッタ。フロントガラスごと開くフロントドアを備え、丸いヘッドライトが突き出ている。ちなみに、これはサイドミラーも兼ねている。三輪だったイセッタと異なり、マイクロリノは四輪。リバースギアも備わる。
グレートブリテン島ではクレイジー・ホース社が代理店で、2025年に1000台の販売を想定している。南部のリゾート地などで、小さくない需要が見込めるという。
大きなキャンピングカーのオーナーも、目的地での移動手段として便利だろう。英国価格を考えると、小型ハッチバックのトヨタ・アイゴXやキア・ピカントなどと比較される可能性も高い。
全長2519mm フロントドアの2シーター
マイクロリノを市街地で運転すると、レトロフューチャーな見た目で沢山の視線を集める。子どもたちは喜び、バスの乗客の1人は窓を開けて「それは何?」と大声で聞いてきた。もちろん、頻繁にスマートフォンが向けられる。
寸法は全長が2519mmで、全幅は1473mm、全高は1501mm。オリジナルのイセッタよりだいぶ大きい。それでも、現代の交通の中では明らかに小さい。実は、オリジナルのモーリス・ミニやフィアット500より、少し大きいだけでもある。
技術的には、現在のバッテリーEVとして一般的なもの。駆動用モーターが1基載り、2本のリアタイヤを駆動。スチールとアルミが用いられたモノコック構造のフロア部分に、リチウムイオンの駆動用バッテリーが敷かれている。
フロントドアを開いて運転席へ座ると、普通の小型車のようで安心感がある。平均的な大人が2名乗れるベンチシートが備わり、運転姿勢も窮屈ではない。ステアリングコラムの角度は調整できないが、アミより長時間でも快適だろう。
その長いコラムは車内側に固定されており、乗り降りする時はステアリングホイールを避ける必要がある。しかし、ドアは電動で開閉してくれる。つり革のようなハンドルを、強く引く必要はない。
ボトルホルダーやグラブハンドルは標準装備。送風位置などを選べる小さなタッチモニターは、アップル・カープレイへ対応する。試乗車には、オプションのプレミアム・インテリアと、ポータブル・スピーカーが追加されていた。
都心の流れへ問題なく交われる 最高速は90km/h
ドライバーの正面には、メーター用モニター。スピードとドライブモード、バッテリーの状態が表示される。必要な情報を確認しやすい。
内装は、基本的には高めの価格を納得させるものながら、ドアの内張りは安っぽいかも。ハンドブレーキやシフトセレクターは、少し華奢に思えた。
荷室容量は230Lもあり、小型ハッチバック並み。小さめのスーツケースなら、2個積める。運転席から振り返れば荷室へ手が届き、必要な荷物を探すこともできる。
さて、ロンドンの市街地を走ってみよう。マイクロリノの最高出力は17ps。パワーウエイトレシオは28ps/tで、速いわけではない。とはいえ、0-48km/h加速を約5秒でこなすから、周囲の流れには問題なく交われる。
加速は滑らか。アクセルペダルを蹴飛ばしても、リアタイヤが暴れることはない。信号ダッシュでは、簡単に自転車をリードできる。
スポーツ・モードでも、加速が明確に鋭くなることはなかった。最高速度は90km/hで、郊外の幹線道路もさほど苦労せずに走れる。電車のような駆動用モーターのノイズが車内へ響くが、不快なほどではない。
駆動用バッテリーの容量は10.5kWhで、実際の航続距離は150kmほど。急速充電には対応しないが、コンセントに繋いで約4時間で満充電になる。都心部での平均的な通勤には、充分耐えるはず。
小さなバッテリーを積み、航続距離93kmのマイクロリノ・ライトもある。これは車重が425kgを切り、1人乗りになるが、英国では原付免許で運転できる。
コンパクトカーへ近い操縦性 乗れば笑顔になる
操縦性は、意外にも一般的なクルマへ近い。マクファーソンストラット式のサスペンションが、路面の不整を驚くほど吸収してくれる。走行中のロードノイズも小さい。
タイヤは13インチと小径だから、石畳などは苦手。それでも、フォルクスワーゲンUp!やホンダeと、市街地での質感に大きな違いはないと感じた。
短い全長と細いタイヤ、柔らかい足まわりで、動的能力が高いわけではない。ブレーキペダルの感触は薄く、反応を予想しにくい。ステアリングホイールは軽く回せるが、ほぼ無感触。カーブを攻めると、横転しそうなほどボディが傾く。
とはいえ、小さなクルマの運転は面白い。低い速度域で充分楽しめる。
輸入代理店は、マイクロリノに競合はいないとしているが、電動マイクロカーや小型ハッチバックと比較されるだろう。筆者はアミより洗練されていて、サイレンスS04より魅力的だと思う。しかし、それらよりお値段は高い。
同等の予算で、ガソリンエンジンで走るコンパクトカーを買えてしまう。そこには5名分のシートが付くクロスオーバーや、走りの良いスポーツカーも含まれる。
反面、アイコニックな見た目は、アグレッシブなモデルが増える中で極めて好印象。実用的で楽しい小さなクルマとして、高く評価したいことも事実だ。
航続距離など忘れて、マイクロリノを運転していると笑顔になってしまう。他人のインスタグラムにポストされた写真の中でも、きっと笑っているはず。
◯:考え抜かれたパッケージングと高い実用性 マイクロカーとして驚くほどの洗練性 多くの人を喜ばせるスタイリング
△:遅い充電速度 そこまで機敏に走るわけではない お高めの価格
マイクロ・マイクロリノ(英国仕様)のスペック
英国価格:2万1170ポンド(約406万円)
全長:2519mm
全幅:1473mm
全高:1501mm
最高速度:90km/h
0-100km/h加速:−秒
航続距離:177km
電費:−km/kWh
CO2排出量:−
車両重量:613kg
パワートレイン:永久磁石同期モーター
駆動用バッテリー:10.5kWh
急速充電能力:2.5kW
最高出力:17ps
最大トルク:−kg-m
ギアボックス:1速リダクション(後輪駆動)
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みんなのコメント
16歳から運転できる、新しい免許や車輌区分作らないと。
どうせ邪魔とか言われるのだろうけど、それは新しいもの、前例のないもの、他人と違うものは潰さないと気が済まない田舎の年寄り的な感覚なんです。