■かわいいデザインながら走行性能に優れたクルマを振り返る
高性能なスポーツカーは見た目にも速そうな印象で、空力性能を追求して他のクルマを威嚇するようなフロントフェイスも相まって、速さをアピールしています。
また、高級車では押し出し感を強調した重厚なデザインとすることで、やはり見た目にも高級感が感じられます。
外観のデザインから性能やキャラクターがわかるのが一般的ですが、なかにはスポーティなモデルながら、あまり戦闘的ではないデザインのクルマも存在。
そこで、スポーティでもかわいいクルマを、5車種ピックアップして紹介します。
●トヨタ「スポーツ800」
トヨタは1967年に、珠玉の名車である「トヨタ2000GT」を発売しましたが、それよりも前に、大衆車「パブリカ」のコンポーネンツを流用した小型2シータースポーツカーの「スポーツ800」が登場しています。
1965年に発売されたスポーツ800は、1962年の「全日本自動車ショー(現在の東京モーターショーの前身)」に出展され好評を博したコンセプトカーの「パブリカスポーツ」をベースにデザインされました。
パブリカスポーツは飛行機のようにキャビン上部が前後にスライドするキャノピーとなっていましたが、スポーツ800ではヒンジドアに改められ、屋根はタルガトップを採用。
全長3580mm×全幅1465mm×全高1175mmと、現在の軽自動車とほぼ同サイズのボディは曲面で構成されており、スポーツカーとして精悍な印象よりも丸みを帯びたかわいい印象です。
エンジンは800cc空冷水平対向2気筒OHVで、最高出力45馬力と非力でしたが、わずか580kgという軽量な車体には十分なパワーで、空力特性も優れていたことから最高速度は155km/hをマークし、定地燃費は31km/Lと低燃費も実現。
スポーツ800は「ヨタハチ」の愛称で親しまれ、1969年まで生産されました。
●オースチンヒーレー「スプライト Mk.1」
1950年代から1980年代にかけて、イギリスには大小含め数多くのスポーツカーメーカーが存在しました。そのなかのひとつが、BMC(ブリティッシュ・モーター・コーポレーション)傘下の、オースチンヒーレーです。
このオースチンヒーレーが1958年に発売した「スプライト Mk.1」は、いまも世界中にファンが存在するほどの名車で、そのデザインから日本では「カニ目」の愛称で呼ばれています。
ボディサイズは全長3480mm×全幅1326mm×全高1200mmと非常に小型な2シーターオープンカーで、量産スポーツカーでは世界初となるスチール製モノコックシャシを採用し、車重はわずか600kg弱と軽量です。
搭載されたエンジンは「ミニ」などにも搭載された948cc直列4気筒OHVの「A型」で、最高出力は43馬力を発揮。前出のスポーツ800と同じく非力ですが、やはり軽量な車体からレースでも活躍しました。
最大の特徴はフロントフェイスで、クラシカルなサイクルフェンダー状のボンネットに、笑っている口のようなフロントグリルを配置し、カニ目の語源になった丸目のヘッドライトで構成されています。なお、本国イギリスでは「フロッグアイ(カエルの目)」と呼ばれました。
1961年に2代目となる「スプライト Mk.2」にモデルチェンジすると、フロントフェイスはMG「ミジェット Mk.1」と共通のデザインに改められ、初代のかわいらしさは薄らいでしまい、いまもスプライト Mk.1の方が人気です。
なお、スプライト Mk.1は安価な価格からヒットして現存数も多く、イギリスでは部品が大量に販売されていることもあって、比較的維持が楽なクラシックカーといえるでしょう。
●アバルト「595/695」
現在、日本でも販売されているアバルトは、フィアット車をベースにした高性能ブランドというイメージが確立していますが、かつてはスポーツカー(コンプリートカー)やレーシングカーの設計・製作、市販車用のチューニングキットの販売で成功したメーカーで、1970年代にフィアットの傘下に収まりました。
そんなアバルトのコンプリートカーのなかでも有名なのが、フィアット「NUOVA 500(ヌォーヴァ チンクエチェント、以下500)」をベースにしたアバルト「595/695」です。
500はわずか18馬力の500cc空冷2気筒エンジンをリアに搭載した大衆車ですが、これをベースにアバルトの手によってチューニングされたモデルが1963年に登場した595で、排気量を595ccから最高出力28馬力を誇りました。
それでいて外観はノーマルの500とほとんど変わらず、かわいいスタイルのままで、「ABARTH」のネームが入ったオイルパンとデュアルマフラー、そして伝統のサソリのエンブレムで控えめに高性能さを主張。
さらに、1964年には排気量はそのままに最高出力を33馬力にまで向上した「595 esse esse(エッセエッセ)」、排気量を690ccに上げ、最高出力38馬力の「695 esse esse」が登場しました。
絶対的なパワーはそれほどでもありませんが、軽量な車体を武器に、アバルトの名にふさわしくサーキットでも活躍。
なお、595/695はチューニングキットとしても販売され、現行モデルのアバルト595でも木箱に入ったチューニングキットが用意されるなど、当時をオマージュした試みがおこなわれています。
■日本の軽自動車にもかわいくて高性能なモデルがあった!
●スバル「R-2 SS」
1958年にスバルは、初の市販4輪自動車である「スバル360」を発売。庶民でもマイカーを持つことを夢から現実に変えたといわれる、日本の自動車史に残る名車です。このスバル360の後継車として、1969年8月に「R-2」が登場しました。
R-2の外観は、「てんとう虫」の愛称で呼ばれたユニークなスタイルのスバル360と異なり、オーソドックスな2BOXスタイルのデザインを採用。
個性は薄れましたがスバル360よりも広くなった室内によって、居住性は大幅に改善されました。
リアに搭載されたエンジンは360cc空冷2サイクル2気筒をスバル360から引き継ぎ、最高出力は30馬力を発揮。400kg強という軽量な車体には、十分な出力でした。
そして、1970年には36馬力を誇るスポーツバージョンの「R-2 SS」をラインナップ。
R-2 SSの外装はフロントにカナード状のスポイラーと、砲弾型フェンダーミラー、フォグランプが装着され、内装ではスポーツシート、タコメーターが装備されるなど、スポーティに演出されました。
また、R-2 SSよりもエンジンはデチューンされながらスポーティな装備の「スポーティデラックス」も追加されます。
1972年には水冷エンジンを搭載するなど大幅に改良されましたが、よりモダンなデザインの「レックス」にバトンタッチするかたちで、R-2は1973年に生産を終了しました。
●スズキ2代目「アルトワークス」
日本の自動車市場では1980年代にターボエンジンブームとなり、一気に高性能化が加速しました。当初は大型車、中型車にターボエンジンが搭載されましたが、その後、コンパクトカーにもターボ化が波及。
このターボ化の波にいち早く対応したのが三菱で、1983年に軽自動車初のターボエンジンを搭載した「ミニカアミ55」を発売すると、スズキも追従するように1985年に「アルトターボ」を発売しました。
そこから軽自動車の第二次パワー競争が勃発し、1987年には550cc直列3気筒DOHCターボエンジンで最高出力64馬力を絞り出した、スズキ初代「アルトワークス」が頂点に君臨。この64馬力が馬力自主規制の上限となり、現在も継承されています。
1988年にはアルトのフルモデルチェンジとともに、2代目アルトワークスが登場。フロントフェイスはワークス・シリーズのみがかわいさも感じられる丸目2灯となり、スタンダードなアルトと差別化されました。
さらに、1990年のマイナーチェンジでは新たな軽自動車規格に対応するため、全長の拡大と排気量を660ccにアップし、その後も4輪ディスクブレーキ化など改良がおこなわれるなど、さらに走行性能を向上。
ところが、1998年発売の4代目をもってアルトワークスは一旦消滅してしまいました。すでに軽自動車の主力はトールワゴンに移行しており、アルトそのものの販売台数も低迷し、高性能モデルの時代ではなくなったということです。
しかし、2015年12月にアルトワークスが復活。ライバルとなるホンダ新型「N-ONE RS」も登場するなど、軽自動車市場で再び高性能モデルが注目されています。
※ ※ ※
昭和の時代では、普通の見た目と裏腹に優れたエンジンや足まわりを搭載したモデルを「羊の皮を被った狼」と呼びました。
近年はそうしたモデルは少なくなってしまい、高性能車は見た目も「狼」です。さりげなく速いというクルマよりも、見るからに速いクルマの方が、ユーザー的にも安心できるのかもしれません。
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