数か月でシャシーとボディを分離
一度バラバラになったモノを元の状態に修復する作業は、簡単なことではない。まして、1950年代のベントレーS1コンチネンタルなら、尚のこと。
<span>【画像】S1コンチネンタルと最新のフライングスパー ピニンファリーナのロールスも 全73枚</span>
とある英国人、マシュー・リース氏は、昨年までベントレーの専門家ではなかった。だが、事前の知識の薄さと、実直な性格が、レストアの日々への入口を開いた。しかもベントレーに触れるほど、仕事への熱意は高まっていったようだ。
筆者の20年来の友人の1人、アーニー・ウォレンダー氏は、デイムラー・マジェスティック・メイジャーを愛するという共通の気持ちを持っている。彼はある日、英国のコーチビルダー、ジェームズ・ヤング社がボディを手掛けた、S1コンチネンタルを手に入れた。
HJミュリナー社がボディを手掛けた、フライングスパーより安かったという理由で。だが、ベントレーを楽しんでいるうちに、サイドシルの塗装にできた気泡が目に付くようになったらしい。
シャシーやボディの構造に問題ないとはわかっていたが、ウォレンダーは分解することに決めた。3オーナーで走行距離5万kmにも満たない、状態の良さを確かめるように。
事業に成功していたウォレンダーは、霊柩車のようなブラックの塗装が好きではなかった。ボディを塗り替える、またとない機会とも考えた。
大きなコンチネンタルをバラバラにし始め、数か月でシャシーとボディを分離。シャシーには、エンジンやドライブトレインが残されたまま。ボディからはガラスや内装トリムが外され、元の塗装も剥がされた。
すぐに意気投合しレストアを決めた2人
ところが、他のコレクションにも手が掛かるようになり、ベントレーは放置されてしまう。筆者がウォレンダーにリースを紹介しなければ、分解されたS1コンチネンタルは彼の納屋で眠っていたことだろう。立体ジグソーパズルのように。
大手製造会社で技術者を務め、経営にも関わっていたリースは、論理的かつ実務的にレストアを進めていった。長年勤めた企業で培った、コスト管理という意識も役に立っていたのだと思う。
その頃のリースは、BMW 635CSiのレストアを仕上げたばかり。出世から趣味へ人生を切り替えたタイミングでもあり、彼ならジェームズ・ヤングのボディを元に戻せるはずと、筆者は考えたのだ。技術も確かだし、経済的な余裕もある。
リースはウォレンダーのガレージを訪ね、全体の状態を確認した。面会した2人はすぐに意気投合し、お互いが幸せになる方法を話し合った。ほどなくして、S1コンチネンタルは英国西部のウェールズ地方に住む、リースの自宅へ旅立った。
「最初の課題は、色々なパーツが詰め込まれた16個の箱と、大きな部品が載ったままのボディとシャシーを整理すること。44個の箱に整理し直しましたが、それだけで10日も掛かりましたよ」。とリースが振り返る。
ウォレンダーは、少しせっかちに作業を進めたのかもしれない。見つからない部品も出てきた。「ラジエターグリルを外すまで、ベントレーのエンブレムはどこにもありませんでした。すべて外され、1つの箱に詰め込まれていたんです」
新車時よりボディパネルの収まりが良い
敷地に置かれた輸送用コンテナの中で、真夏の暑い時期にリースは何時間も過ごした。ドアを仕上げるトリムは、どこを探しても見つからなかったと、リースが振り返る。
「特別な道具を作って自作も考えました。でも、その見積もりが4万4000ポンド(682万円)で諦めました」
ステンレスを用いた機械製造に携わっていた経験上、特殊な部品を探すことには慣れていたらしい。「ネットで1日検索し、石膏ボードの仕上げ部材に辿り着いたんです」
「部材の1つが、ベントレーに必要な部品の形とまったく同じだったんです。2本購入し、長さを合わせて加工したら、ボディにピッタリ。見た目はオリジナルと違わず、価格は約30ポンド(4700円)。ウォレンダーは本当に驚いていました」
S1コンチネンタルの品質が極めて高いことを、リースは作業を進めるなかで理解した。「すべてが、幾つかの層に分かれて組まれています。1つの層を仕上げなければ、次の層へは進めません」
「ドア関係の部品だけでも数100本ものビスで固定され、分解するのに数時間は必要なほど。リビルドでは、この水準を維持することを重視しました。リアのドアだけでも、14回も脱着を繰り返していますが」
「100%満足とはいえません。作業を手伝ってくれたエイドリアンは、うんざりした様子でしたね。仕上がったボディをウォレンダーが見て、ジェームズ・ヤングのファクトリーを出た時よりパネルの収まりが良いと話してくれました。うれしかったですよ」
再利用可能な内装はすべてクリーニング
リアウインドウ周辺を構成する木材は朽ちており、挑戦的な仕事になったという。「見事な技術を持った職人、アヤヴェンが大きな助けになりました。博物館で馬車の修復に関わっていて、技術的に通じていたんです」
「彼とは、インテリアの木製部品も一緒に再制作しましたが、作業を楽しんでくれたようです。オリジナルの誤差の大きさには驚きました。職人が手作りしたためですね。1日で数個の部品を作れる時もあれば、1個に丸1日を費やす時もありました」
難しい作業を振り返るリースだが、部品は着実に復元されていった。「最終的な組み立て時に、作業の良し悪しがわかります。すべてがきれいに収まり、仕事が正しかったと実感しました」
「塗装の仕上がったボディパネルの取り付け位置を理解するのにも、時間がかかりましたね。まったく見当の付かないパネルが1枚あり、ウォレンダーに3度も電話しました。結局、関係ない彼のランドローバーの部品だったんです」
困難だった作業の1つに、熱戦入りのリアウインドウがあった。「以前の修復で、コネクターが折れていたんです。特殊な電導性のエポキシ樹脂を探し出し、慎重に接着し直しています。ちゃんと機能し、見た目もわかりません」
カーペットや天井の内張りなど、オリジナルの内装で再利用可能なものは、すべてクリーニングしクルマへ戻された。どうしても使えない部品は、ブランドを得意とする専門業者に頼ったそうだ。
この続きは後編にて。
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みんなのコメント
昔香港の某ホテルの送迎車に昔のファントム6があって二度と乗れる無いかもしれないと、奮発して空港まで送ってもらったけど、乗り心地もガタゴトと馬車に揺られてという感じだった。貴重な体験だった。