かつてのクルマのカタログ値では、ATよりMTのほうが数値が優れていた。伝達効率の追求により、いまやその数字は逆転している。しかしJC08モード燃費の測定方法に、MT車にとって不利な条件が課せられているという。実感として、自在にエンジン回転を選択できるMT車のほうが燃費がいいというように感じる方も少なくないだろう。WLTCに移行するとそこは是正されるのだろうか。TEXT:安藤 眞(ANDO Makoto)
今年の10月以降に発売された新型車から、カタログ燃費の計測モードがJC08からWLTCに移行することは、みなさんご存じだと思います(ちなみに継続生産車は20年9月から)。念のため書いておくと、WLTCとはWorldwide Harmonized Light Vehicle Test Cycleの略で、JC08が日本独自の走行パターンを使用していたのに対し、WLTCは国連の自動車基準調和世界フォーラム参加国によって合意された統一パターンを使用するもの。JC08モードに較べ、冷間スタートからの走行や加速度の向上、アイドリング時間の短縮などによって、より実燃費に近くなるのではないかと言われています。とりわけ計測値が4パターン(総合/市街地/郊外/高速)に分けて記載されるようになりますから、使用形態別に実燃費を推定するのに便利になるのではないかと思います。
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しかし、それ以上に僕が注目しているのは、WLTCによってMTの冷遇が緩和されるのではないか、ということです。というのも、JC08モード燃費の測定パターンが、MT車に非常に不利なものだったからなんです。
変速に関するAT車(CVT含むすべての自動変速機)の測定ルールは、「Dレンジを使用すること」だけだったので、JC08モードに最適なシフトプログラムを組み込めば、それだけカタログ燃費は良くなります。一方でMT車は、変速するタイミングが一律に決められており、クルマによっては実態にそぐわない高回転まで低いギヤで引っ張らされるようになっていました。
具体的に書いておきますと、発進から2速に上げられる速度は20.1km/h、3速が37.1km/h、4速が51.2km、5速が61.8km/hで、6速に至っては、78.3km/hになるまで上げてはいけないことになっています。しかも、1→2速まで6秒、2→3速まで9秒かけて加速するように決められており、低速段でダラダラ引っ張らなければならないようになっていたんです。これでは、低速で絞り損失の大きくなるガソリン車は特に不利ですよね。
そんな状況にあったため、モデルによってはCVTのカタログ燃費がMTを逆転してしまい、MTだけエコカー減税が受けられない、というおかしなケースも生じていました。MT車はうまく走らせればJC08モードとほぼ同等の実燃費が出せる一方、AT車の実燃費はおおむねカタログ値の70%ぐらいにしかならないのが現実であるにもかかわらず、です。
これがWLTCになると、それぞれの車重や最高出力、最高速やギヤレシオなど、車両特性を反映できるアルゴリズムを使用して変速ポイントが決められるようになります。それによって何が起きるのかというのは、実際の数値の変化を見るのが手っ取り早いでしょう。
サンプルには、JC08とWLTCモード燃費が併記されていて、MTもAT(CVT)もあるカローラスポーツを使います(この条件に合うクルマは非常に少ないですね)。
MT車のJC08モード燃費は16.4km/ℓ、CVT車のそれは19.6km/ℓですから、CVT車のほうが約20%多く走ります。これがWLTCモードになると、それぞれ15.8km/ℓと16.4km/ℓ。その差は4%に縮まります。
あるいは、マツダ・デミオのガソリン車で見てみますと、JC08モード時代はMT(21.8km/ℓ)よりAT(24.6km/ℓ)のほうが良かったものが、WLTCになると、MTが19.8km/ℓ、ATが19.0km/ℓと逆転しています。もっともデミオの場合、計測モードの変更と同時にエンジンが1.3ℓから1.5ℓへと拡大され、MTも5速から6速へと多段化されているので、公平な比較とは言えません(段数が揃ったから、むしろ公平になったという見方もできますが)。しかし傾向としては、MT車がより実力に近づいたのは間違いないでしょう。
ただし残念なのは、エコカー減税の燃費基準が“平成27年度(20.5km/ℓ)”から“平成32年度(23.4km/ℓ)”にアップデートされたことと、参照値もWLTCモードになったことから、デミオのガソリン車はMTもATも、エコカー減税の対象ではなくなってしまい、ユーザーには何のメリットももたらしませんでした。
それでもカタログ表記的にMTの燃費がATに優るようになれば、多少はMTにも注目が戻ってくるのではないかと、淡い期待を抱いております。MTの操作は認知機能の維持につながることが期待できますし、発進時に必ずクラッチを踏むため、誤発進のリスクは大幅に減りますから、高齢ドライバーが増加している今こそ、再注目されても良いのではないでしょうか。
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