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現在のディーゼルエンジン不正問題の発端は、2015年にアメリカ市場で発覚した、フォルクスワーゲンの排ガス不正ソフトウエアの使用だった。不正ソフトとは、排ガス規制適合計測テスト時のみ正規の排ガス制御ソフトが働き、通常走行時は排ガス制御プログラムが作動しないもので、「ディフィート・デバイス」と呼ばれている。アメリカでは過去にガソリンエンジンの制御に関する脆弱なソフトウエア問題があったため、「ディフィート・デバイス」は法的に禁止されており、フォルクスワーゲンはこれを犯したことになる。
ドイツでの様々なディーゼルエンジン問題
ヨーロッパや日本では「ディフィート・デバイス」、つまり不正な制御ソフトを搭載しても法的な罰則はなかった。だが、ヨーロッパではディフィート・デバイスの問題を受け、実走行での排ガスが浄化されていないディーゼル車が多く存在するとしたら、大気汚染具合を改めて問うことになった。
フォルクスワーゲンはアメリカ、ヨーロッパで1100万台という膨大なリコール(ソフトウェアのアップデート)を行ない、アメリカ政府に対し3.3兆円におよぶ空前の巨額の制裁金を支払い、さらに、ヨーロッパ市場でも排ガス不正プログラムを搭載した事実に対し、2018年6月14日にドイツ政府に約1300億円の罰金を支払うことを受け入れた。これでフォルクスワーゲンのディーゼルエンジンの不正制御プログラムの問題は決着させたことになる。
しかし個人に対する責任追及はまた別で、2018年5月に不正発覚当時にフォルクスワーゲンのCEOだったマルティン・ヴィンターコルン氏がアメリカで起訴されている。
だがディーゼルエンジンの不正問題はそれだけではなく、ドイツではダイムラー、BMW、ポルシェ、アウディがディーゼルエンジン車のリコールを行なった。これらは、不正プログラムを搭載していたとは断定されていないものの、実走行で排ガス、特にNOx(窒素酸化物)の排出量が多いために、リコールが命じられている。
震源はアウディか?
またドイツの検察当局は、BMWの本社や工場への捜査、アウディのルパート・シュタートラーCEOや、購買担当執行役員の自宅まで家宅捜査が行ない、ついに2018年6月13日にシュタートラーCEOが逮捕されるに至った。
こうしてディーゼルエンジンの排ガスプログラム不正問題の終わりが見えない現状が浮き彫りとなっている。噂の段階だが、発端となった2007年にフォルクスワーゲン・グループが量産を開始した排気量2.0Lの4気筒ディーゼル「EA189」型に使われた不正制御プログラムは、もともとアウディが開発したといわれている。そう考えると、検察当局は本丸に迫っているのかもしれない。またアウディの開発が契機となって同様の排ガス制御の不正プログラムは、ダイムラーやBMWにも波及していったと見ている、とも考えられているわけだ。
いずれにしても、排ガス・レベルが規制値に適合しているかどうかを調べる計測テストでは、排ガス制御が正常に働くものの、実際の走行条件では、排ガス制御が働かない、あるいは働きが弱まり、NOxが大量に排出されているという現実がクローズアップされた。そこで、ヨーロッパでは急速にRDE(リアル・ドライブ・エミッション:実走行での排ガス・レベル)が重視されるようになっている。
検査と乗り入れ制限
ヨーロッパに限らず、日本でも排ガス規制値がクリアできているかどうかは、シャシーダイナモ上で試験モードに合わせて計測され、実走行での排ガス・レベルは参考程度に計測されるくらいだったが、今や実走行での排ガス・レベルが最重視されることになったわけだ。
そして、ドイツの主要都市は、古いディーゼル車の乗り入れを禁止することを発表している。多くのメディアは、「ディーゼル車の都市部への乗り入れ禁止」と誤報したが、これはユーロ4規制など古い規制適合車の乗り入れ禁止という意味で、ユーロ5、6の規制適合車は乗り入れが許されている。
これは2018年5月18日に、環境団体による都市部で大気汚染対策が不十分だという提訴に対し、ドイツ連邦行政裁判所はドイツの都市はEUの大気汚染規制への対策として、古いディーゼル車の市街地走行を禁止するのは妥当と判断したためで、都市ごとの乗り入れ禁止政策が許されることになったわけだ。
ボッシュのディーゼルエンジン技術のブレークスルー
ボッシュのフォルクマル・デナーCEOは、「ディーゼルには未来があります。新しい技術を導入し、まもなくディーゼルエンジンの排出は問題がなくなるでしょう」と語っている。
ディーゼル課題をブレークスルーできるボッシュの新しい技術により、ディーゼル車はNOxの排出を大幅に削減し、将来の規制値をもクリアできるという。 実際、RDE(実車走行)のテストでも、新らたに開発されたディーゼル技術を搭載した車両の排気ガスは、現在の制限値を大幅に下回るだけでなく、2020年に発効する予定の排気ガス規制も余裕を持ってクリアできるという。しかも、新たな追加のコンポーネントは必要ではなく、現在の排ガス浄化システムを使用しているのでコストの上昇はないという。
ディーゼル乗用車のRDEでの排ガス計測では、2017年以降はヨーロッパの法規で、都市、郊外、高速道路などを使用し、1km当たりNOx排出量は168mmg以下とされている。そして2020年までに1km当たりのNOx排出力量は120mmgに低減する必要がある。
しかし、現時点のボッシュの最新ディーゼル排ガス制御システムを搭載したクルマは、RDE計測サイクルで1km当たり13mmgという驚くべき低排出量を記録しているという。2020年規制の約1/10である。また最も運転条件が厳しいストップ&ゴーが多い都市部でも1km当たり40mmgとされる。
これが技術ポイント
ボッシュのこの最新の排ガス制御システムは2017年後半から開発され、最新の燃料噴射システム、吸気コントロール、触媒温度の高度な制御により実現している。そして氷点下や夏期の高い気温、高速道路、混雑した都市交通など、想定される様々な環境下でも規制値を大幅に下回ることができる。
具体的には、エンジンの応答に直結した精密なエアフロー制御システムで、吸気量に合わせて高圧/低圧のEGR量がリニアに応答できることを目的に、よりレスポンスの良いターボを採用。高圧/低圧EGRの制御レスポンスが向上すれば、吸気制御もより精密にすることができるのだ。
もう一つ重要な点は、排気ガス温度が200度C以上でなければ触媒が最適に作動しないということだ。都市走行では、車両はこの温度に達しないことが多いので、ボッシュはディーゼルエンジン用のより洗練された温度制御システムを採用。これにより、排気ガス温度を能動的に調節し、排気システムが安定した温度範囲内で機能するようにし、排出ガスが低いレベルに保たれるようにしているのだ。
ボッシュのこの新しいディーゼルエンジン制御技術は、シュツットガルト市でのプレスイベントでその性能を実証した。 ドイツ国内外の数10人のジャーナリストが、厳しい条件下の都市部の交通環境で車載計測器を装備したテスト車両を運転し、その排気ガスを記録したデータにより、クリーンな排出ガス性能が確認された。
オートプルーブもこちらのイベントに参加し、実際にドライブしてデータを検証した。その時のレポートはこちら。
さらに一歩先のディーゼルエンジン技術には人工知能が必須
新たに開発されたボッシュのディーゼル排気ガス制御の頭脳部にあたるECUに書き込まれたプログラムコードは800万行におよぶという。スペースシャトルの飛行制御用のECUは40万行といわれるから、ディーゼルエンジンの排ガス制御がいかに精緻に行なわれているかがわかる。
こうした技術的な進歩を遂げても、究極的なエンジン制御といえるレベルにはまだ達していないことはいうまでもない。より高度なエンジン制御を実現するためには人工知能技術を使用することが必要だとボッシュは考えている。
ガソリンエンジンもディーゼルエンジンも、PM(黒煙微粒子)やNOxが全く発生しない新世代の内燃エンジンの実現が、現在の開発テーマになっている。ボッシュがディーゼルエンジンに固執する理由は、「ディーゼルエンジンが今後のモビリティの選択肢において重要な役割を果たし続けると確信しているからで、電気自動車が大衆車に採用される時代になるまでは、依然としてCO2排出量が少ないディーゼルのような高効率内燃エンジンを必要とすると考えているからだ。
またボッシュは今後のエンジン制御の開発は実験室ではなく、実走行で行なわれるべきで、こうしたRDEでの排ガス計測データは、対外的にも公表する方針にしている。またガソリンエンジンの排ガス制御に関しても2017年半ばからはヨーロッパの自動車メーカーに対して、PMフィルターを使用しないエンジン開発プロジェクトの受注は終えているという。
さらに社会的な倫理性を高めるために、製品に関する制御プログラム用のコードを公開し、テストサイクルを自動的に検出するような機能(ディフィートデバイス)が組み込まれていないことや、特定の走行環境に合わせて最適化するといった制御も採り入れられていないことを対外的に証明するという。
現時点でボッシュが実現した新基準のディーゼル排気ガス浄化システムは、ハードウェアとしては従来の部品を使用し、DPF/酸化触媒と尿素噴射によるSCR触媒を組み合わせており、そのためコストアップ要素はない。システムのポイントは排ガス制御をコントロールするECUなのである。
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