マイナーチェンジを受けた新しい「GR86」の、MTモデルにサトータケシが試乗した。乗ればわかる違いを綴る。
マニュアルトランスミッションの醍醐味
エリーゼの頃の味わいが残っている──新型ロータス・エミーラ試乗記
めっちゃ気合が入っている……。なにがって、GR86を改良しようという熱意がスゴい。
現行のGR86がデビューしたのが2021年秋。翌年の夏には最初の小変更を受け、さらに23年秋には大がかりなマイナーチェンジをしている。そして24年夏には、3度目の改良が施された。
ニューモデルを発表後、ユーザーからのフィードバックを受けながらちょいちょいアップデートするというのは、自動車開発における常識だ。けれども、多くの場合そのアップデートは公表するまでもない些細なことで、これほど頻繁に「ここを改良しました」と、アナウンスするのは異例の事態だ。
試乗車は6MTだと聞いていたので、細身のシューズで万全を期して対面する。外観は、デイライトランニングランプが追加されただけで、ほかに変更はない。インテリアも同様で、見慣れたGR86のレイアウトだ。
スターターボタンをプッシュして2.4リッター水平対向4気筒エンジンを始動する。シフトレバーの動きは節度のあるもので、東西南北どの方向に動かしてもキモチよくシフトできる。ほどよい踏み応えでしかもミートポイントがわかりやすいという、絶妙のセッティングのクラッチペダルを操作して発進、次の瞬間、「ん!?」と思う。
なにが「ん!?」だったのかというと、アクセルペダルの踏み加減から予想するよりも、鋭く加速したことだ。これはレスポンスが良いというのとはちょっと違う。新緑や紅葉の写真に下手な画像処理をかけて、不自然な仕上がりになったのを目にしたときに感じる「ん!?」だ。あざといセッティングというか、やり過ぎでしょう?
しかし、しばらく走ると、このやり過ぎのレスポンスにした意味がよ~くわかるシチュエーションに遭遇する。
減速時、3速から2速にシフトダウンするときに、回転を合わせるために“フォン!”と、中ブカシ(ブリッピング)を入れると、このやり過ぎレスポンスがどんぴしゃで、実に塩梅がいいのだ。
つま先でブレーキを踏みながら、かかとでアクセルペダルを煽って回転を合わせる、いわゆるヒール&トゥも気持ちよくキマる。
“フォン!”と、中ブカシを入れるのが楽しくて面白くて、ほとんどブレーキペダルを踏まずに、シフトダウン+エンジンブレーキで減速するようになってしまった。「こりゃあいい!」と、楽しんでいると、おもしろいことに気づく。30分も運転していると、右足がアクセルペダルの踏み加減を覚えて、レスポンスを過敏に感じることがなくなったのだ。結果、中ブカシの爽快感だけが残る。
つまり、あざといセッティングだと感じるのは一見さんだけで、オーナーはそんな不満は感じないはずだ。
トヨタによれば、ブリッピングをやりやすくするように、エンジンのトルク制御を変更して、よりダイレクトなレスポンスが得られるスロットル制御を採用したとのこと。
繰り返しになるけれど、当初は、ちょこっとしかアクセルペダルを踏んでいないのにグンと出る加速に戸惑った。でも、これにはすぐ慣れる類のものだった。そして慣れると、自由自在にシフトダウンができる、マニュアルトランスミッション操作の醍醐味だけが残る。
もうひとつ感心したのは、乗り心地のよさと好ハンドリングがバランスしている点だ。足まわりをガッチガチに硬め手パキッと曲がるのではなく、パッセンジャーから不満が出ないしなやかな乗り心地と、スムーズにノールしながらきれいなフォームで曲がるコーナリング性能を両立している。
GR86は、もともと乗り心地に優れたモデルであるけれど、今回のマイナーチェンジでショックアブソーバーの減衰力を改良したことが奏功している。もうひとつ、高性能タイヤのなかでは圧倒的に快適性に優れるミシュランのパイロット・スポーツ4もいい仕事をしていると感じた。
冒頭に小変更を繰り返していると記したけれど、このクルマの場合は目先を変えるためにエアロパーツを付けたり、新鮮味を出すために新色を加えるというのとは違う。クルマ好き、運転好きのことを考えたマイナーチェンジで、見えない部分に手を加えている。それをこれだけ頻繁に行うということは、スポーツカーという商品を売りたいというだけでなく、スポーツカー文化を根付かせようという意思の表れだと感じる。
文・サトータケシ 写真・安井宏充(Weekend.) 編集・稲垣邦康(GQ)
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シャレで乗るならいざ知らず、同じ価格帯で真正のスポーツカーを売っているわけで、クルマの操縦を真剣に学びたいならそちらでしょう。