■とにかくスピードを追い求めたクルマたち
過去から現在まで、世界中でさまざまな自動車競技が行なわれています。その多くは速さを競いますが、排気量や駆動方式などをレギュレーションによって区分けし、近い性能を持ったクルマ同士が競うようになっています。
見た目を裏切るパワフルモデル! 羊の皮を被った狼なクルマ5選
F1に代表されるフォーミュラマシンのように完全なレース専用車で戦う競技もありますが、私たちが身近に感じられる市販車をベースにして、競技用に改造したクルマで競うレースも人気が高く、勝つために開発されたクルマも数多くありました。
そこで、モータースポーツで勝つために速さを追い求めて開発されたクルマ5車種をピックアップして紹介します。
●三菱「ランサーエボリューション(CD9A型)」
1.6リッターのツインキャブエンジンを搭載した初代三菱「ランサー1600GSR」や、1.8リッターターボエンジン(輸出仕様は2リッター)を搭載した2代目「ランサーEX 1800GSRターボ」は、国内外のラリーで高い評価を受けていました。
しかし、1987年に世界ラリー選手権参戦(以下WRC)を前提に開発された「ギャランVR-4」では、WRC常勝のランチア「デルタ」やトヨタ「セリカGT-FOUR」、スバル「レガシィ」の後塵を拝することも多く、新型車の開発が急務となっていました。
そこで、1992年にWRCのホモロゲーション取得のために、4代目「ランサー1800GSR」に、6代目「ギャラン VR-4」に搭載されていた「4G63型」ターボエンジンと4WDシステムを移植した「ランサーエボリューション」(CD9A型)を発売しました。
2リッターの「4G63型」ターボエンジンはチューニングされ最高出力250馬力、最大トルク31.5kgmまで高められて、軽量なボディにハイパワーなエンジンを搭載したことで、その加速性能は当時の市販車としては驚異的でした。
ところが、4代目ランサーの標準車両から大幅に強化されたシャシも、FFベースに4WDシステムを移植した急ごしらえ感は否めず、そのままではアンダーステアが強く「直線は速いけど曲がらない」と評価されてしまいました。
そうした厳しい評価を覆すため、ランサーエボリューションはモデルチェンジのたびに進化していくことになります。
●スバル「インプレッサWRX STi(GC8型)」
1992年にデビューしたスバル「インプレッサ」は世界戦略車としての役割を担い、同時に「レガシィRS」に代わってWRCで勝つ使命も与えられ、高性能なグレードは「WRX」の名前が付けられました。
レガシィRSに搭載されていた240馬力を発揮する水平対向4気筒ターボ「EJ20型」エンジンをチューニングして、レガシィより80kg軽いボディに搭載したことや、クロスレシオ化されたトランスミッションの採用で高い戦闘能力を持つクルマに変貌します。
また1994年にはSTI(スバルテクニカルインターナショナル)製のコンプリートカー「WRX STi」が登場します。
シフトレバー脇に設置されたダイヤルでセンターデフ内の電磁式クラッチを操作することで、前後輪のトルク配分をドライバーが任意に調節出来る「DCCD(ドライバーズコントロールセンターデフ)」を備え、路面の状況などによりドライバーが好みのトルク配分に変更することが可能となっていました。
1996年のマイナーチェンジでは、高回転高出力化が図られた「EJ20K」型エンジンに変わり、国内自動車メーカー自主規制いっぱいの最高出力280馬力に到達。
最大のライバルである三菱「ランサーエボリューション」との熾烈な開発合戦を繰り広げます。
●ダイハツ「ブーンX4」
2004年にダイハツ「ストーリア」の後継車としてデビューした「ブーン」は、ダイハツとトヨタの共同開発車で、トヨタブランドでは「パッソ」として発売されました。
標準仕様のエンジンは最高出力90馬力を発生する1.3リッター直列4気筒の「K3-VE型」と、71馬力の1リッター直列3気筒Cの「1KR-FE型」でしたが、2006年には、モータースポーツ参加用ベース車両である「ブーンX4(クロス・フォー)」が追加されます。
X4のエンジンは、1.3リッターの「K3-VE型」エンジンをベースに1リッター(936cc)に排気量を下げた直列4気筒DOHCターボ「KJ-VET型」で、最高出力は133馬力を誇りました。
あえて排気量を下げた理由は、モータースポーツでは過給機付きのエンジンは排気量を1.7倍に換算してクラス分けされるためです。
1.3リッターのままターボを装着すると、2リッター超のクルマと同クラスとなってしまうので、1.6リッター未満のクラスに参戦するための処置でした。
初代ブーンは1.3リッターモデルのみがFIA(国際自動車連盟)公認車両となっていましたが、X4は完全に日本国内での競技にターゲットを絞ったクルマとしてJAF登録車両でした。
したがって、WRCなどFIA主催の国際格式競技には参戦不可となっていました。
■日産が本気になった2台のモータースポーツベース車
●日産「スカイラインGT-R(R32型)」
1969年に発売された日産「スカイライン」の高性能モデルである初代「スカイラインGT-R」は、2リッター直列6気筒DOHCエンジン「S20型」を搭載したレースで勝つためのクルマで、実際に国内レースで輝かしい戦績を残しました。
1973年にスカイラインがモデルチェンジされると、引き続きGT-Rもラインナップされますが、さまざまな理由からわずか197台しか生産されず、GT-Rの名前は一旦途絶えてしまいます。
排ガス規制への対応が一段落した1980年代に入ると国産車の高出力化が進み、市販車をベースにしたモデルによるレースが盛んになり、R30型やR31型スカイラインが数多くエントリーするようになりました。
R31型ではグループAレースのホモロゲーションモデル「スカイラインGTS-R」を800台限定で発売されますが、翌年の1989年に発売されたR32型では、さらに高性能なモデル「スカイラインGT-R」が復活します。
R32型スカイラインGT-Rは、最高出力280馬力を発揮する2.6リッター直列6気筒DOHCツインターボ「RB26DETT型」エンジンを搭載し、電子制御で4輪に駆動力配分ができる「アテーサE-TS」4WDシステムと組み合わされ、さまざまな路面条件で圧倒的な速さを誇りました。
1990年から全日本ツーリングカーレースに参戦すると文字通り無敵の強さを誇り、新たな伝説を作り上げます。
●日産「ブルーバードSSS-R」
日産「ブルーバード」は、1963年に初代「ダットサン ブルーバード」で「サファリラリー」に参戦するなど、古くからラリーに挑戦してきました。
1970年には3代目ブルーバードがサファリラリーで総合優勝/チーム優勝の2冠を達成したことで「ラリーに強い日産」のイメージが強くなり、後の初代「フェアレディZ」や「バイオレット」のラリーでの活躍につながります。
1983年に発売された7代目ブルーバードからエンジンが横置きのFFとなり、ラリーのイメージは薄れてしまいましたが、1987年に登場した8代目となるU12型ブルーバードでは、FFベースながらセンターデフで後輪を駆動するフルタイム4WDシステムを採用した「ブルーバード1800ツインカムターボSSS ATTESA(アテーサ)」がラインナップされました。
さらに国内ラリーでの勝利を目的として、1.8リッター直列4気筒DOHCターボ「CA18DET型」エンジンをチューンナップして、標準車の最高出力175馬力から、185馬力までパワーアップした「ブルーバードSSS-R」が設定されました。
ブルーバードSSS-Rには専用のクロスレシオ化されたトランスミッションや、ラリー出場のために室内のロールケージが標準装備されるなど、日産の本気度合いが見てとれるクルマでした。
※ ※ ※
現在、国内ではモータースポーツのベース車は極端に数を減らしてしまいました。
かつてはレースやラリーに参戦することで、市販車の性能も向上していきましたが、すでにそういう時代ではないのかもしれません。
闇雲に速さを競うだけでなく安全性能や環境性能も兼ね備えることも重要で、それこそが現代の高性能車といえるでしょう。
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