電磁技術で常に水平保つ
最近、ポルシェの新しいアクティブ・ライド・システムに驚かされた。2.4トンのパナメーラ・ターボで、サーキット走行でもロールとピッチを見事なまでに抑え込んだのだ。
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しかし20年前には、予想もしなかった企業からの斬新なサスペンションに感銘を受けた。BOSE(ボーズ)のリニアサスペンションだ。
ポルシェのシステムでは、ダンパー内部の電動油圧ポンプで圧力を調整し、伸長と圧縮を行うことで車体を常に水平に保つ。
BOSEのシステムでは、各車輪の上部、通常はコイルスプリングとダンパーがある場所に、コイルと磁石を内蔵したリニアモーターが配置されていた。
電流を流せば、最大20cmも車高を上下させることができる。電流は、BOSE独自のアルゴリズムを搭載したコンピューターからの指示に応じてパワーアンプから供給される。ポルシェと同様、BOSEのシステムも「受動的(リアクティブ)」ではなく「能動的(プロアクティブ)」なものである。
「ジャンプ」も可能なサスペンション
足回りとしては、フロントがトーションバーとマクファーソンストラット、リアがウィッシュボーンとなり、車輪には過度のバウンドを防ぐダンパーが内蔵されている。
基本的には、コンピューター制御の電磁パルスで作動するオーディオ・スピーカーのコーンと同じ仕組みであり、パワーアンプにはオーディオ・アンプと同じスイッチング方式が使われている。
4本の車輪を個別制御することで、ピッチングやローリングが防止され、凹凸の激しい路面やコーナリング、ブレーキングでも姿勢を崩さない。さらに、路上の障害物を文字通り “飛び越える” ことさえ可能だ。
なお、列車や飛行機のようにバンクさせながら曲がることもできるが、テストでは安全上の問題があることが判明した。
BOSEは当時のトヨタ・セルシオ(レクサスLS)に搭載し、デモ走行の動画を公開した。セルシオは標準装備のスチール製スプリングでも非常に乗り心地が良いのだが、動画を見ると、どんな路面でもスムーズに走る姿に驚いてしまう。ジャンプする瞬間も必見だ(動画はYouTubeなどの動画投稿サイトでも見ることができる)。
これもまた驚くべきことだが、ダンパー内部の電動モーターでエネルギー回生まで行うため、サスペンション・システム全体の電力使用量はエアコンの3分の1しかないという。
「本業」より重要だった? ボーズ博士の意志
米国人のアマー・ボーズ(Amar Gopal Bose)氏は1956年、名門マサチューセッツ工科大学(MIT)で電気工学の博士号を取得した。ボーズ博士はお祝いに高級ステレオを買ったが、その音質に失望し、オーディオ科学の研究に没頭。1964年に自身の名を冠した企業を設立する。
この頃、彼はポンティアックとシトロエンを購入した。どちらも、斬新なエアサスペンションとハイドロニューマチック・サスペンションに興味を持ったからだ。
1980年から最適なサスペンションの研究を始め、たどり着いた結論は、「乗り心地」と「ボディコントロール」という相反する性質を両立させる速度、強度、効率を備えた従来のシステムは存在しないが、電磁気的なものなら可能性があるというものだった。
そこで、数人のエンジニアとともにリニア電磁モーター、パワーアンプ、制御アルゴリズムの改良に取り組むことになった。今ほどコンピューターが高性能ではなかった時代、計算には苦労したことだろう。彼らのサスペンションが実証できるようになるまで、四半世紀を要した。
ボーズ博士は高級車メーカーとの共同開発を望んでいた。2004年の弊誌の取材で、「彼らには勇気がいることだろう」と語っている。
「我々に近い哲学を持つメーカーを求めている。手抜きはしたくない。BOSEにとっては、サウンドシステムよりも重要かもしれない」
しかし、問題もあった。ボーズ博士が目標とした追加重量は90kgで、消費者の購入コストは1万ドルにも上るとの予測もあった。結局、どのメーカーもそこまでの勇気はなかった。
その後、同技術は腰の悪いトラック運転手のためのアクティブシートの開発に使われ、97%が快適性の大幅な向上を報告している。そして、ボーズ博士が亡くなってから4年後の2017年、BOSEはMIT卒業生が立てたクリアモーション(Clearmotion)という企業に技術を売却した。
クリアモーションは最近、「CM1」というデジタル・シャシー技術をニオET9に搭載すると発表した。これは電磁式ではないが、ボーズ博士のアルゴリズムを使って油圧機構を制御する能動的なシステムである。
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