世界最高峰クラスのハイパーカーを手がけているパガーニのオーナーを対象にした走行会が日本初上陸。しかし、ただ速く走るだけではなく、サーキット専用車のウアイラR /ウアイラR EVOロードスターで運転技術を学ぶという、現実離れしたプログラム。その細部に迫った
文:ベストカー編集部 鈴村朋己/写真:小塚大樹/Special Thanks:SPS Automotive Performance
【画像ギャラリー】日本初凱旋のパガーニウアイラR EVO ロードスターを隅々まで要チェック!!(18枚)
選ばれしものだけが踏み入れられる非日常体験
富士スピードウェイのメインストレートに、V12の咆哮がこだまする。 その後、ゆっくりとピットロードへ戻ってきたのは、サーキット専用ハイパーカー。パガーニ・ウアイラRだった。
11月下旬の富士で行われたのは、日本初開催のトラックプログラム「Arte in Pista(アルテ・イン・ピスタ)」。トラック上の芸術を意味するこのプログラムに参加できるのは、ウアイラRと、その進化形・ウアイラR エボ・ロードスターのオーナーに限られる。
車両購入時に付与される「トークン」を用い、世界各地で開かれる本プログラムにエントリーする仕組みだ。
パガーニが目指すのは、単なるラップタイム更新ではない。ウアイラRを通じて、オーナーのドライビングを作品のように磨き上げることだ。
各オーナーには専属コーチが1名。走行前後のブリーフィングから、オンボード映像とテレメトリーの解析まで伴走する。
また、F1同等のテレメトリーに映像を同期させた「ビデオテレメトリー」で、アクセル開度、ブレーキ圧、舵角、ライン取りを1周ごとに可視化して振り返る。
事前には、各オーナー仕様に合わせたシミュレーターでのバーチャル走行も実施。初見のサーキットでも、頭と身体を予習済みの状態で臨める。
開催地に選ばれるのは、安全性の高い高速サーキットのみ。イタリアのモンツァ、ベルギーのスパ・フランコルシャンなど、広大なランオフとF1開催実績を備えた舞台だけだ。
万一のミスでも致命傷を避けやすい環境を整え、億超えのマシンを“本気で攻めてもらう”ための最大限の配慮がそこにある。
究極のマシンでドラテク修行
言い換えれば、Arte in PistaはウアイラRという究極の教習車で腕を磨く、贅沢すぎるドライビングスクールである。
ウアイラRの心臓は、6.0リッターV12。専用設計のロングエキゾーストが奏でる音色は唯一無二だ。
富士を貫く雄叫びは、往年のF1を思わせる高揚を運ぶ。耳で聴くというより、胸腔で受け止める感覚。時間が巻き戻るような郷愁と、今を突き抜ける昂ぶりが同時に押し寄せる。
外観は、ため息が出るほど複雑で、そして美しい。風洞の数値だけを追えば、もっと単純にできたはずだ。
だが創設者オラチオ・パガーニは、何度も模型を風洞から引きずり出し、ラインと面を描き直し、見惚れるフォルムへと研ぎ澄ました。不思議なことに、そのたびに空力はさらに良くなっていったという。
一方で、プログラムに合わせて「限界は高く、挙動は穏やか」という相反する要件も突き詰めた。ABSとトラクションは各12段、ダンパーは8段、エンジンマップは5種類に設定。
さらに、高めのライトハイト設定により、挙動は読みやすく、初めてでも怖さが立ち上がりにくい。限界は鋭いのに、その手前までは驚くほどフレンドリー。懐の深さがこのクルマの品格だ。
コクピットには、FIA公認バケットと一体型ヘッドレストがモノコックと一体成型される。 中央のメインディスプレイがラップや各種データを表示し、右側のレーダー連動リアビューモニターが背後の車両の距離と位置を一目で知らせる。
速さの情報が、恐れを自信へと変換していく。
贅沢で最高の遊び場
Arte in Pistaは、思い切り攻め、少し背伸びして味わう「教室」であり「遊び場」だ。ホームストレートの音色に身を委ねていると、確信に変わる。
ここで試されているのはウアイラRのポテンシャルだけではない。ステアリングの向こう側で、オーナー自身の“限界の定義”が、静かに書き換えられていくのだ。
アートとサイエンス。恐怖と高揚。ラグジュアリーと泥臭い努力。そのすべてが、高速コーナーの一瞬のために凝縮される。
Arte in Pista。それは、パガーニが考える究極の「自由」を、走りという行為で結晶化させた、誰にも真似できない体験なのであった。
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