最小のフォルクスワーゲン、up!の電気自動車バージョン「eアップ!」が、フェイスリフトを受けてバッテリー性能を向上。航続距離や使い勝手などの実用性が大きく進化した。(Motor Magazine 2020年3月号より)
充電は家庭用充電ステーションで4時間
2019年秋に開催されたフランクフルトモーターショーでは、フォルクスワーゲンが初の本格的量産電気自動車ID.3を華々しく公開。その会場の一角にもう1台のBEV、「eアップ!」のフェイスリフトモデルの姿もあった。
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13年に発売された初代eアップ!は、搭載されるリチウムイオンバッテリーの容量が18.7kWhで、航続距離は当時の甘い計測基準のNEDCでも160kmと、性能的には確かにちょっと中途半端だったと思う。しかも当時の価格はドイツ国内でTSIモデルより1万ユーロ(約122万円)も高価だったので、ドイツでの販売はなかなか苦戦したようだ。もっぱら売れたのはインセンティブやインフラも整っていたノルウェイで、19年10月までに9490台が販売されている。
フランクフルトショーで再登場したeアップ!は、フェイスリフトとともに電池容量を増し、航続距離が伸ばされていた。LG製セルを持つリチウムイオン電池の容量は32.3kWh(最大36.8kWh)、最高出力61kW(83ps)、最大トルクが212Nmの電気モーターによって、0→100km/hが11.9秒と向上している。最高速度は130km/hで変わらないものの、航続距離はWLTPモードで一気に260kmと60%も伸びた。
問題の充電時間だがドイツの家庭用充電ステーションで4時間、オプションの40kWの直流CCSソケットを搭載すれば1時間で80%の充電が完了する。
流れをリードできる性能。ランニングコストはお得
その加速感は1LのTSI並みで、パワーペダルを踏んだ瞬間からキビキビと加速し、街中では周囲の交通をリードできる。乗り心地は、荒れた路面では1229kgとスタンダードよりも大人1人分ほどのエキストラを感じるが、2.4mと短いホイールベースにもかかわらずサイズに似合わないどっしり感を備えており、快適だ。
郊外の一般道、さらにはオートルートでも低重心で安定した走行性能を見せてくれた。ちなみに旧モデルで感じられた、ブレーキのBEV独特の不自然さは大きく改善されている。オートルートでは、標準装備のレーンキープアシストに安心感を覚えた。ただし緊急時衝突回避を支援する自動ブレーキが搭載されていないのは惜しい。
eアップ!のカタログ電費は7kWh/100km、ドイツでの電気代は1kWhあたりおよそ30セント(約37円)なので100km走るのに3.80ユーロ(約464円)となる。これをガソリン車と比べてみると、カタログ平均燃費は100kmあたり5.3L、ドイツではハイオクガソリンが1Lあたり1.37ユーロ程度ゆえに、7.27ユーロ(857円)である。電気自動車のランニングコストは安いし、今後は環境税の導入でこの差がさらに開く可能性がある。
新しいeアップ!のベース価格は19%の付加価値税込みで2万1975ユーロ(約270万円)、いくつかの必要なオプションを加えた「スタイル」では2万3000ユーロ(約280万円)を超えてしまう。それでもドイツではBEV向けのインセンティブ(購入補助金)があるので最安価ではおよそ1万8000ユーロ(約220万円)で入手可能だ。保証もしっかりしており電池は8年間と16万kmである。
要するにこのeアップ!の狙いは、こうした総合的な価格と維持費の安さで、下方からID.3の支援をする役割なのだ。フォルクスワーゲンのセールスにおいて、「同じ屋根の下」で共食いはあり得ないと、開発者も確信している。
バレンシアの市内および周辺を一日走り回って感銘したのは、このニューeアップ!の必要にして十分な性能と航続距離である。実は、このような手の届く価格のスモールBEVこそが本来求められているのではないか、と改めて思ってしまった。
残念ながら日本で販売されるかどうかはまだ決まっていないが、発表以来9年が経過してもいまだ色褪せないデザインも含めて、十分にポテンシャルはあると感じた。(文:木村好宏)
■フォルクスワーゲンeアップ!主要諸元
●全長×全幅×全高=3600×1645×1492mm
●ホイールベース=2417mm
●車両重量=1160kg
●モーター最高出力=83ps
●モーター最大トルク=212Nm
●駆動方式=FF
[ アルバム : フォルクスワーゲンeアップ! はオリジナルサイトでご覧ください ]
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