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高貴ですらある“裏”カリナンで千年の都へ。Vol.1

掲載 更新 10
高貴ですらある“裏”カリナンで千年の都へ。Vol.1

本拠地の京都と東京の間をドライブしたクルマは200台以上。そのなかで文句なしのベストモデルはカリナンだった。しかもそれはオルターエゴである“ブラックバッチ”。京都をゆく、オーセンティックブランド、ロールス・ロイス初のSUVとは……。

Rei.Hashimoto「東京~京都」ドライブで文句なしのベストモデル

70年間、真のスポーツカーであり続けるヴァンテージ(前編)

この5月で京都に本拠を移して丸9年が経つ。とはいえ仕事の中心は相変わらず東京だから、多いときには週に一度のペースで往復する(4月以降はできてないけれど)。

基本的にはメーカーの試乗車で行き来するようにしている。千キロくらいのドライブになり、新型車の品定めや従来型の再評価にちょうどいいからだ。もちろん日帰り出張もあったので毎度クルマでというわけにもいかず、新幹線や飛行機も使った。クルマでの往復は平均すると月に2回程度だろうか。それでも東京~京都の往復で200台以上をドライブした計算になる(そのうち100台以上については試乗記をメディアに寄稿した)。

長い距離を乗ってみなければ分からないこともある。一連のロングドライブでは様々な発見があった。日本のとある軽自動車は国産リッターカーより随分とラクだったし、輸入車でもお国柄ゆえか、大型高級サルーンより小さなホットハッチのほうがストレスなくドライブできたという例もあった。百聞は一乗に如かず。Kカーからスーパーカーまでありとあらゆる車種を試してきたから、来年半ばには「京都10年ベスト10」が書けそうだ。

それはともかく。なぜこんな話から始めたかというと、つい最近、とうとう文句なしにこの9年間のベストだと大きく宣言したいモデルに出会ったからだ。

Rei.Hashimoto毎日乗れる“ファミリーカー”

ロールス・ロイス(RR)史上初のSUVカリナンに追加されたブラックバッジモデルである。

それまでにもファントムやレイス、ドーンといったロールス・ロイスで京都に帰ってはいたし、その他ベントレーやフェラーリといったたいていの超高級モデルで往復経験をしていた。メルセデスベンツS400dやフェラーリGTC4ルッソ、ベントレーコンチネンタルGTなどなど、特筆すべきGTカーはいくつかあった。なかでもロールス・ロイスのドーンは無敵の高速クルーザーだった(クーペのレイスより良かった)。イチバンを挙げろと言われたときにはたいていドーンだと答えていた。

けれどもそのドーンにしたところで京都の街中で使うにはちょっと抵抗があった。GTとしては優秀でも、辿り着いた先での機動力という点でパーフェクトとは言いがたい。しょっちゅう乗っていいクルマじゃない。精神的にもここぞ! という日に使うハレのクルマだった。

同じロールス・ロイスでもカリナン・ブラックバッジは違った。この様相で長距離ドライブ用のGTとしても最高なら、街中での機動力も十二分にあった。確かにでかい。何せボディサイズは世界最大級というSUVである。とはいえバスよりは断然コンパクトなはず。所せましと市バスが走り回る京都市内で苦労したのは駐車スペースぐらいのもの。それに乗っていてサイズスペックほどの大きさを感じさせないドライバビリティの高さがあった。だから毎日乗ってやろうという気になった。荷物もけっこう積める。これは正しくロールス・ロイスのファミリィカーなのだ。

ゴースト、レイス、ドーンの三姉妹に追加設定されたのは2016年のこと。以来、ロールス・ロイスのオルターエゴであるブラックバッジは、こういう表現がこのブランドに似つかわしいかどうかはともかく、スマッシュヒット作となった。日本に上陸するおよそ半数近くがブラックバッジ仕様らしい。当然のことながら大人気を博するSUVのカリナンにも設定されたというわけだ。ちなみに最高級モデルのファンタムには設定されていない。もっともビスポークが基本のブランドだから、望めば似たように仕立てることも可能だろう。

ボディサイドのRRバッジを従来のクロームシルバーに黒文字から黒字にクロームシルバーへと反転させたことがその名の意味するところである。同様に既存のスタンダードモデルでは上品な輝きをみせるクロームシルバーパーツもほとんどすべてブラックアウトされた。専用デザインの鍛造アルミホイールと赤い大型ブレーキキャリパーとが相まって、正にダークサイド・オブ・RRである。

スタンダードシリーズが“表”ならブラックバッジは“裏”。高級車の真実を世界最高峰ブランドが自ら暴露したというわけだから、もはや痛快だ。もちろんそのアイデアの源は典型的なマーケットインから生まれたもの(つまり世界中のオーナーがすでにそんな風にモディファイして乗っていた! )で、これまたプロダクトアウトと表裏をなす。世界のモノゴトには必ず表と裏がある。ロールス・ロイスにおいてもそれは変わらない。

とはいえオーセンティック・ブランドが正々堂々と裏を語ったということで、アングラな雰囲気ではないし、俗には見えない。輝く深化だ。マテリアルとブラックペイントの上質さがそう見せている。

スタンダードモデルとは異なる乗り味に……

借り出したカリナン・ブラックバッジは内外装に鮮やかな紫をまとっていたが、むしろ高貴ですらあった。ボディカラーの名称は“トワイライト・パープル”というらしいが、筆者には“ティリアン・パープル”、いわゆるロイヤル・パープルにさえみえてくる。

インテリアも実にユニークだ。ダッシュボードには非常に凝ったデザインのカーボンパネルがおごられた。“ネイキッド・ウィーヴ・カーボン”とロールス・ロイスが呼ぶ新トリムで、熟練の職人が実に3週間かけて製作するという。ルーフライナーにはお馴染みの“スターライトヘッドライナー”があり、1344本の光ファイバーから星が流れ降り注ぐ。

室内のあちこちに散りばめたアイコン“レムニスケート”(連珠形)は、ブラックバッジシリーズの飽くなき性能の追求を象徴するもの。クルマにおけるダークサイドはたいていドレス&チューンアップの両方を意味するもので、ブラックバッジでもそれは同じだ。6.75リッターV12ツインターボのパワー&トルクは高められ、併せてアシやブレーキ、トルコンATのプログラムにもパフォーマンス志向の変更が加えられている。

高貴な佇まいに飲み込まれそうになる。否、いっそ飲み込まれたほうが楽そうだ。そんなふうに感じつつ京都へ向けて走り出す。はたして、その乗り味はアクセルひと踏み、ブレーキひと抑え、ハンドルひと回しからスタンダードのカリナンとはいささか異なって、いきなり身体によく馴染む類のものだった。

文・西川 淳 写真・橋本玲 編集・iconic

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