この夏話題のコンパクトモデルといえば、満を持して7月にフルモデルチェンジを果たしたトヨタ アクアだろう。8月の月間販売台数は9442台と登録車3位につけており、まずは順調のスタートを切ったといえる。
そんなアクアだが、この数字をもってしても期待されていた売り上げには届いていないという。その一方で8月に発売された日産ノートオーラが3週間で1万台以上を受注して好調な滑り出しを見せている。
トヨタのHVはなぜこんなに燃費がいいのか? ヤリスHVがノートとフィットHVよりリッター6km以上も燃費がいい理由
話題のハイブリットカーアクア対オーラの販売状況を分析する。
文/小林敦志、写真/ベストカー編集部、NISSAN、SUZUKI
【画像ギャラリー】コンパクトカー夏の陣を制するのはどっちだ!? トヨタ アクア&日産 ノート オーラ
■スタート順調の新型アクア! でも思ったより販売が鈍い!?
2021年7月、満を持してフルモデルチェンジを果たしたトヨタ アクア。8月の登録者販売台数は3位につけており、順調かと思いきや、想定した売り上げには届いていないようだ
2021年7月19日に、2代目となる新型アクアが発売となった。初代アクアはデビューから10年間ラインナップを続け、モデル末期にはレンタカーやカーシェアリングへのフリート販売が目立っていたが、おおむね人気モデルとしてエンドユーザーがメインで購入し、ヒットモデルとなっていた。
ただ初代ユーザーから、「改良される直前になると、『新車へ入れ換えませんか』とセールスマンから連絡がくる」として、「またセールスマンから新車への乗り換え案内が来たのだけど、何か改良が近くあるのか」と相談されたこともある。
改良のたびに当該車ユーザーへ乗り換えを勧めるのは、セールスマンの大切な仕事。モデルレンジが長かっただけに、初代アクアを乗り継いできたユーザーの存在も初代アクアを長い間ヒット車の座にとどめたようである。
10年間販売してきたので初代の既納ユーザーも多く、今回の新型が正式発売される前から乗り換えを進めて行くだけでも、発売前のバックオーダーを大量に抱えることになり、2代目もヒットモデル間違いなしと思っていた。
だが、発売前に販売現場で話を聞くと「お客様の反応がいまひとつ鈍い」とセールスマンは頭を抱えていた。そして、発売後に再び販売現場をまわると、「ヤリスより納期は早いですよ」といった話を聞き驚いてしまった。
デビュー直後のタイミングでトヨタのウエブサイトに載っている、“工場出荷目処”を見ると、“1から2カ月”となっている。ただ、9月下旬のタイミングで再び見ると、“2から3カ月“となっていた。
現状では、半導体の供給不足や、ASEAN諸国での新型コロナウイルスの感染拡大が続いているなかで、ASEAN諸国の部品工場の操業停止などの悪影響が顕在化し、ASEANからの部品供給の停滞などもあり、国内の各完成車メーカーの工場も操業停止などが相次ぎ生産遅延が相次いでいる。
発売直後から工場出荷目処が延びているのは、生産遅延の影響もあるだろうが、発売からしばらく経ち、新規受注もそれなりに積み上がってきていることが影響しているようである。
自販連(日本自動車販売協会連合会)統計による、2021年8月単月の登録車通称名(車名)別販売ランキングが発表されている。7月にデビューした新型アクアでは初の1カ月フルカウントでの販売台数発表となる。
新型アクアは9442台で、登録車のみでは、ヤリスシリーズ(ヤリスクロス含む)、ルーミーに次いで3位につけているが、月販目標台数の1万台には届かない結果となっている。
しかし8月はディーラーがお盆休みを取るので稼働日数が少なく販売台数が年間でもかなり少なくなる月とされているほか、半導体など部品供給のトラブルなどもあるので、この数字だけをもって販売動向を語ることはなかなかできない。
■新型アクアには“華”がない!? セールスマンが語るホンネ
ハイブリッド性能ではヤリスを上回る新型アクア。しかし売れ行きには結びつかない。人を惹きつける『華』のようなものが足りないとセールスマンは分析する
だが、それでもいまひとつ元気のない様子が伝わってくる。「統計数字ほど活発に売れている印象はありません。すでにレンタカーとしてフリート販売されるケースが目立つのですかねえ」という声も販売現場で聞くことができる。
「新型アクアには“華”がありません。販売主力車種は新型ニッケル水素電池を採用し、EV走行(電気のみで走る)距離ではヤリスを凌いでいます。しかしそれだけなのです。ハイブリッド車に乗られるお客様のなかで、スペックを重視して新車購入を検討されるお客様はそれほど多くありません。
“気に入ったスタイルなどのクルマにハイブリッドがあったから選んだ”といったノリのお客様も少なくありません」とセールスマンは語ってくれた。ヤリスにハイブリッドがあることも話を微妙なものにしているようだ。
「プリウスからダウンサイズを検討しているお客様にはEV走行がヤリスハイブリッドより長いのは魅力のようですが、どちらを選ばれるかはお客様にお任せするようにしております。ただ若干ではありますが、アクアのほうが納車は早めになることはご案内しております」(前出セールスマン)。
ヤリスクロスの大ヒットも影響しているようだ。初代アクアのころは、コンパクトサイズでハイブリッド車となるとアクアぐらいしかなかったが、トヨタ内でも人気のコンパクトクロスオーバースタイルのヤリスクロスがあるし、C-HRやカローラスポーツなども選べる。
日産ではノート系やキックス、ホンダはフィット ハイブリッドやヴェゼル、スズキでもスイフトやソリオがある。つまり選択肢が多くなっているのである。
そのなかで、オーソドックスなハッチバックスタイルを採用するアクアは、それだけでもやや不利となっているのである。販売環境が明らかに異なるのである。
実際新型アクアのステアリングを握ると、“エンジンがよくとまる”ことに驚かされる。つまり活発にEV走行になるのである。とにかく粘るという印象が強く、従来モデルに比べエンジンがかかりにくくなっており、当然燃費性能も向上している。
TNGA思想に基づくプラットフォームの採用もあり、走行性能も格段に質感がアップしている。しかし、“ただそれだけ”という印象を受けるのも確かであった。
■好調の日産 ノート オーラは『全部のせ』が人気
2021年8月より販売を開始した日産 ノート オーラ。ノートの3ナンバー版といった位置づけとなる。発売から3週間で1万台の受注を記録する人気となっている
さらに想定外だったのが、日産ノートの3ナンバー版となる、“ノート オーラ(以下オーラ)”の高い人気である。日産は9月8日に「8月17日(正式発売日)からの3週間で累計受注1万台を突破」としてリリースを発信している。日産系ディーラーで話を聞くと、「5ナンバーのノートのほうが納車は早いですよ」となっていた。
Gというグレードのみの設定となるが、量販車種はGのレザーパッケージ(FF)となり、FFと4WDのGレザーパッケージを合わせると、全体の71%がレザーパッケージとなっている。
新型アクアでもレザー仕様が用意されているが、本革ではなく合成皮革となるので経年劣化による本革のような大きな“ヤレ”がないことや、ペットを同乗させるひとからも評判が良く、最近は人気だけでなく、リセールバリューも高くなっているのである。
そして、唯一ともいっていいメーカーオプションとなる、カーナビとプロパイロット、そしてBOSEパーソナルサウンドシステムのセットオプションの選択は実に全体の88%となっている。いまどき日産車を買うなら、プロパイロットは是非装着したいし体験したいところ。
それにも増してBOSEシステムの人気が高いのである。そのため40万円するこのセットオプションが88%も選ばれているのである。
ボディカラーは選択が分かれているのだが、それでも最も構成比の高いのは、ピュアホワイトパールとスーパーブラックの2トーンもしくは、ピュアホワイトパールの単色(それぞれオプション、つまり追加料金の発生するボディカラー)となっている。
オーラ自体、“プレミアムコンパクト”と銘打っているが、この販売構成比を見ても購入客層は所得にある程度余裕のあるひとたちが多いことが伝わってくる。
オーラはアクアの発売から約1カ月前に発表されており、ほぼ同時期にデビューした同じ電動ユニットを搭載するコンパクトハッチバックである。それなのに、いまの販売状況は実に対照的に見える。
この違いは何かといえば、もちろん5ナンバーのノートの存在もあるので仕方はないが、あえて“プレミアムコンパクト”に徹したオーラの“華”の大きさにあるといっていいだろう。
新型アクアの後に、ノートオーラにも試乗する機会を得た。試乗車は売れ筋のG レザーエディション。これに、プロパイロットとBOSEパーソナルプラスサウンドシステムなどがオプション装着されていた。
市街地を走っていると、リアサスペンションの挙動が落ち着かないことが気になった。eパワーシステムは試乗した日が真夏日となる暑さで、遠慮なくエアコンを作動させていたこともあり、発電機となる1200ccエンジンを頻繁に作動させてしまった。
高速道路に入るとリアサスの落ち着かない印象はそれほど気にならなかった。また、3ナンバーサイズというのは伊達ではなく、安定感も5ナンバーサイズに比べれば良い印象を受けた。
オプションのBOSEパーソナルサウンドシステム。ノート オーラを注文したユーザーのうち、実に8割以上が選択するという
BOSEシステムは試乗前には少々耳障りかなとも思えたが、実際聞いてみると音の広がりが調整可能であったりして、装着したくなる気持ちがよくわかる面白いシステムであった。
試乗した印象では、新型アクアのほうが印象は良いものであった。
ノートオーラのBOSEシステムは、アクアにはない“華”のひとつとなるだろう。また、ノート オーラのレザーシートには、ブラック以外にエアリーグレーという明るい内装色も選択可能となっている。
一方の新型アクアでは合成皮革パッケージであっても、ブラックまたはブラック系の内装色しか選べないことになっている。テレビCMでは女性へのアピールも強く感じるものとなっているのに、明るい内装色が用意されていない点では、ノート オーラのほうが、やはり“華”があるといえるだろう。
残念なことだが、いまの日産で売れているモデルといえば、軽自動車、ノート、セレナ、キックスで、あとはモデル末期のエクストレイルぐらい。トヨタのような軽自動車から大型高級セダンまでラインナップする、総合自動車メーカーでありながら、売れ筋が極めて限定的なのである。
ウエブサイトをみると、シルフィ(世界的には先代モデル)がまだラインナップされているが、セダン系はスカイライン以上の大型モデルしかない。つまり、かつて販売していたティアナやシルフィユーザーは乗り換えようにも行き場を失い、いままでは5ナンバーサイズのノートに乗り換えていた。
しかしティアナやシルフィが3ナンバーサイズとなっており、スンナリ5ナンバーノートに乗り換えるひとばかりではないだろう。そのような日産内でも乗り換え母体があったこともオーラをヒットモデルにさせているようである。
さらに「オーラでは、輸入車にお乗りになっていたお客様からのお乗り換えも目立っております」とセールスマンが話してくれた。
輸入車の世界ではプレミアムブランドを中心に、PHEV(プラグインハイブリッド車)やBEV(バッテリー電気自動車)が、“電動車(ハイブリッドを除く)後進国”である日本国内でも当たり前のようにラインナップされている。
ただオーラと同サイズモデルとなると、積極的にラインナップされているとはいえない。日本でさえカーボンニュートラルが叫ばれるなか、欧州車で内燃機関車に乗り換えるのは、もともとトレンドに敏感なひとも多い輸入車ユーザーでは“ちょっと”というひとも多いだろう。
そこへ、独自のe-POWERユニットを搭載した、ワイドボディで“プレミアムコンパクト”といっているオーラの登場に対し、強い興味を示したようである。
新型アクアは先代に比べ、メカニズムを大幅進化させ、それはノートオーラより好印象な走りの印象を受けることになった。しかし、ヤリスハイブリッドがありながら、アクアのラインナップを続けることになったのに、5ナンバーボディのままというのは少々納得できない。
「なぜアクアがあるのか」という混乱を消費者に与えてしまい、購入を躊躇させることにもつながりやすいように見える。そのような混乱を解消するためにもノート オーラのように1750mm以内に収まる3ナンバーワイドボディの採用が自然の流れのように感じる。
また、女性ユーザーへのアピールも感じる宣伝戦略を見ていると、黒系のみという内装色の設定も疑問が残る。やはり選択肢は用意すべきである。
その点、ノート オーラはターゲットに対し明確なアピールができている。プロパイロットとBOSEシステムなどで合わせて40万円ほどするオプション発注者全体の88%が選んでいることからも、3ナンバーワイドボディを採用し、プレミアムコンパクトとして、ターゲットユーザーをがっちりつかむ演出がわかりやすく充実している。
ダウンサイズニーズが一般化するなかでは、富裕層へ向けた商品を提案すれば、コンパクトモデルでも成功することをノート オーラは証明してくれたようにも見える。
■“プレミアムコンパクト”としてインドで成功したスズキ バレーノ
インドで人気のスズキ バレーノ。インドでは『プレミアムコンパクト』というカテゴリはすでに一般的だ
3ナンバーサイズのコンパクトハッチバックといえば、すでに国内ではラインナップから外れているが、スズキ バレーノの存在も忘れてはいけないところ。バレーノはインドで生産され輸入されていたモデルだが、インドではすでに“プレミアムコンパクト”というカテゴリーは社会的認知も受けていた。
インドでは所得が豊かになったからといって、マイカーをサイズアップするといったひとは少ない。所得が豊かになってもコンパクトカーに乗り続けるのが都市部ではとくに一般的。
首都デリーを訪れた時に、地元のタクシードライバーに聞くと、「デリーでいえば、狭い道が多いのでサイズアップは難しい」とのこと。また、全長4メートル以内の車両にはインセンティブが与えられているのも大きいようだ。
そこで同サイズ(海外のスイフトは3ナンバーサイズ)のスイフトよりプレミアムなモデルとしてバレーノが投入されたのである。
そしてインドではスイフトはスズキディーラーで販売されているが、バレーノはインドでレクサス店のようにスズキが展開している上級店のNEXA(ネクサ)店で販売されているのである。また韓国ヒュンダイ自動車からは、ライバル車もラインナップされている。
しかし、残念なことでもあるが、バレーノの国内販売はパッとしなかった。それは、オーラのように、日産にはティアナやシルフィといった自社ブランド車で、乗り換え促進可能な上級車ユーザーというものがいなかったことが大きかったと分析する。
スズキ以外のブランド車からの乗り換えをメインとしていては、やはり軽自動車のイメージも大きいので、3ナンバーサイズというのは逆にネガティブに働いてしまったのかもしれない。
■トヨタの細やかなラインナップが新型アクアの足枷となったか
いっそ3ナンバーサイズであれば動きも違っていたかもしれない。他のトヨタ車への影響を考慮した結果だろうか
話を新型アクアに戻すと、5ナンバーサイズにこだわってしまったところも、販売に勢いがない要因といってもいいだろう。3ナンバーコンパクトハッチバックでは、カローラスポーツがあるし、プリウスに近い存在にも見えてしまう。ある意味3ナンバー化を遠慮したのかもしれない。
しかしカローラスポーツの全幅は1790mmなので、新型アクアが1750mm以内に収まればカローラスポーツと被ることはなかっただろうし、5ナンバーサイズのヤリスと被ることもなかっただろう。トヨタの密なラインナップが新型アクアのキャラクター造りに微妙な影響を与えてしまったといってもいいかもしれない。
前述したように、インドではSUVも含めインセンティブがあるので、全長4メートル以内のコンパクトモデルが販売の主流となっている。しかしインドにおけるトヨタはラインナップ全般もアッパーユーザー、つまり所得に余裕のある層を狙い成功している。
コンパクトモデルでもあえて全長4メートル以内にこだわらないモデルをラインナップしている。それなのに、プレミアムコンパクトというカテゴリーを新型アクアでスルーしてしまった。SUVでは他ブランドを寄せつけないような、鉄壁のラインナップを確立しているだけに、残念に見えてならない。
新型アクアの3ナンバー化を検討したものの、日本市場への配慮や、先代モデルでは法人営業車の需要も多かったので、トヨタらしい判断で5ナンバーサイズに落ち着いたのかもしれない。
だが、アクアもオーラと同じコンセプトのモデルをラインナップすれば、国内の販売体制もあるので、オーラといい勝負を展開することになるかもしれない。
そんなトヨタ車に対して、日産が“隙間商品”的なオーラを投入し、販売台数はともかくとしても、アクアが霞んで見えてしまう状況を作ったのは間違いないだろう。“トヨタ一強”に対して、トヨタが取りこぼしている客層を、隙間商品で攻めるという戦略の好例がオーラであるといっていいだろう。
ただ、トヨタ車全般にいえるのだが、セットかバラかは別としても、トヨタ車は購入時に選択しなければならないオプションが結果的に多くなってしまうことが多い。
しかし、オーラでは前述したカーナビ、プロパイロット、そしてBOSEシステムがセットとなったオプションぐらいしか設定はなく、これを選択すればフル装備となり、あとはフロアマットなど小物をディーラーオプションとして選ぶだけというシンプルさも、人気を後押ししているようだとセールスマンは語ってくれた。
売る側も契約時にお客の希望する装備内容になっているのか、オプションが多いとかなりナーバスになるし、買う側としても選択漏れがないか入念に確認する必要が出てくる。注文内容はトラブルを避ける意味でもシンプルなものに越したことはないのである。
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