「彼の未来は明るい」
これはマクラーレンのチーム代表、アンドレア・ステラの言葉だ。“彼”とは、チームで2年目を迎えるオスカー・ピアストリを指す。
■フェルスタッペン、将来的なニューウェイとの“再共闘”も否定せず「みんな彼と仕事をしたいと思う」
2024年のF1タイトル争いにおいて、マクラーレンはレッドブルとマックス・フェルスタッペンを追い詰め始めている。コンストラクターズタイトルは既に射程圏に入っている上に、ドライバーズタイトルにおいても、2番手のランド・ノリスがフェルスタッペンとの差を徐々に縮めている。そのため、マクラーレンはノリスをサポートするために今後はチームオーダーを出すことも考えられる。
その状況に、ノリスのチームメイトであるピアストリはどう反応するのだろうか……? 上記のステラ代表のコメントは、そういった質問の問いとして出てきたものだ。
ステラ代表は自身の母国レースでもあるイタリアGPで、レース後のメディアブリーフィングに臨んだ。そこで彼は次のように語った。
「我々の言うことが、公平性のような原則にしっかりと基づいた賢明なものであれば、それはチームにとって大きな後押しとなる。チームメイトがチャンピオンになることをサポートすることもまた、公平性に基づいたものと言える」
「もし両タイトルを勝ち取ることができれば、たとえ彼(ピアストリ)が“じゃない方”のドライバーだったとしても、チームとして得られるものは非常に大きい」
「というのも、オスカーがまだF1で2年目の途中であることを忘れてはならない。彼の未来、オスカーの未来は明るい。彼はサポートすべき時が来たら、しっかりとランドとチームに捧げられるようにしなければいけない。それが彼にとっての(未来に向けた)投資にもなるのだ」
マクラーレンがフロントロウからスタートしたイタリアGPで、ピアストリは1周目に前を行くノリスをオーバーテイク。ノリスはその煽りを食って一時3番手に下がった。結果的にワンツーで勝つはずだったマクラーレン勢はフェラーリのシャルル・ルクレールに勝利を奪われることになったが、これは当然作戦の違いもあったとはいえ、チームメイト同士のバトルが遠因となった可能性も否定できない。いずれにしても、チームがピアストリ陣営とのデリケートな関係を壊さないために努力していることはこの一件からも明らかといえた。
これまで圧倒的強さを見せてきたレッドブルの失速が顕著な今、マクラーレンのチームオーダーに関する議論は活発となっている。ステラ代表自身はチーム内のナンバー1、ナンバー2といった序列を明確にすることを嫌っているが、タイトル獲得に向けてコントロール可能な要素を整理することが急務であることは明らかだろう。
フェルスタッペンとノリスのポイント差は62ポイント。残り8レースあるとはいえ、決して簡単に逆転できる差ではない。ランキング3番手のルクレールは86ポイント差、4番手のピアストリは106ポイント差がついている。
こういった絶妙な点差、そしてピアストリのマネージャーが、かつてレッドブルでセバスチャン・ベッテルのナンバー2として扱われ不和を経験したマーク・ウェーバーであること。こういったふたつの背景が、チームオーダーが出されない状況を生み出し、モンツァの1周目の出来事に繋がったのではないかと指摘する声も多い。そのため次戦アゼルバイジャンGPでも、チームオーダーが出されない、もしくはチームがお互いのバトルを許可する“パパイヤルール”の変更を公には認めない可能性もある。
振り返ってみると、ピアストリもいくつかの不運がなければノリスとの点差がもう少し縮まっていただろう。例えばマイアミGPでは、レース中のセーフティカー出動により損をしたドライバーと得をしたドライバーがおり、ピアストリはまさに前者。一方ノリスは後者で、F1初優勝を成し遂げた。
またピアストリは、アップグレードによって最速マシンの一角となったMCL38の恩恵をノリスよりも受けられていない。マイアミでも、ノリスが最新パッケージのマシンで戦う中で旧仕様でのレースを強いられていた。
そういった事情を考えても、ピアストリはノリスに十分対抗できていると言えるが、当然ピアストリとしても改善すべき点はある。彼は予選成績でノリスに3対11と大敗しているのだ。
ノリスはプッシュのし過ぎで代償を払うこともあるが、こういった予選一発の速さは強みのひとつだ。一方でピアストリは特に予選での致命的なミスを減らす必要があり、レース中のタイヤマネジメントにおいてもまだ改善の余地がある。ただ、タイヤを持たせられるかどうかはクリーンエアで走れるかどうかが重要なことはモンツァでも証明されており、単純に評価することは難しいが……。
ともかく、ピアストリは2年目とは思えないパフォーマンスでその名を轟かせている。その才能はジュニアカテゴリー時代から明らかであり、FIA F3とFIA F2はそれぞれ1年目でチャンピオンとなりあっさり卒業。1年間の浪人期間中にもアルピーヌとマクラーレンとの奪い合いが勃発し、話題となった。ピアストリはそういった期待値の高さに違わぬ活躍を見せているのだ。
ピアストリがノリスを相手にこれだけの戦いを見せていること自体が驚きだ。特にモンツァの1周目に見せたギリギリでかつフェアなオーバーテイクは、複雑な状況下でプレッシャーのかかる判断が求められたはず。その中で見せたある意味での“無慈悲”さは、ミハエル・シューマッハーやフェルナンド・アロンソといった歴代の偉大なチャンピオンとも共通していると言える。もしかすると、ノリスにそういった要素が欠けていることが、これまでチームオーダーが出なかった遠因という可能性すらある。
ピアストリには多くの期待が集まっているが、これは今に始まったことでもない。ピアストリはF1に昇格して以来、そういったプレッシャーに屈することなく、成長を続けてきたのだ。来季はアンドレア・キミ・アントネッリやオリバー・ベアマンといった10代のドライバーがフル参戦予定であり、デビューには時期尚早ではないかという声も挙がっている。彼らはピアストリと同等のインパクトを残すことはできるだろうか?
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