新任編集者がベントレーの特別な世界観を体験する試乗会が、袖ヶ浦フォレストレースウェイで開催された。そこで乗ったベントレー最新モデル6台のそれぞれの印象を、若手編集部員の自分がせん越ながらレポートしたいと思う。
舞台は袖ヶ浦フォレストレースウェイ、1周2.5km弱のサーキット
先日編集長から、ベントレーの新任編集者向けの試乗会に行ってきなさいと指示を受けた。もし行かないなら自分が行くと言う編集長に「いや、自分が行きたいです。行かせてください!」と食い気味に言ったほど嬉しい知らせだった。こんな役得な取材があってバチでも当たりそうだなと思いながら、遂にその日を迎えた。
●【くるま問答】ガソリンの給油口は、なぜクルマによって右だったり左だったりするのか
会場は袖ヶ浦フォレストレースウェイという1周2.5km弱のサーキット。そこに並べられたのは、ベントレーの6台の車種たち。1台3周ずつ走ることができ、先導車を追いかけながらコースを走る。途中、レーンチェンジを行うセクションも設けられていた。
6台それぞれ乗り味を24歳編集部員が試乗レビュー
はじめに、フライングスパーSから試乗した。上質なレザーの匂いが漂うインテリアに座り込んで、まず感じたのは着座位置の低さだ。それはセンターコンソールが高く、囲まれ感があるまさに“コクピット”と呼ぶのがピッタリの運転環境だった。
走り始めるとV8ツインターボエンジンのドロドロとした野太いサウンドが微かに聴こえる。ステアリングフィールは手応えのある重さで、ハンドルを切り込むと2480kgもあるセダンがスッと向きを変えるが、その動きはどっしりとしていてフワフワしたり、身体が揺すられることはない。サーキットである程度スピードが出ているにもかかわらずとんでもなく落ち着いた動きで、なんともいえない極上の快適性だった。
次にフライングスパーハイブリッドに乗り換える。こちらはプラグインハイブリッド車でバッテリー残量が充分にあったため、走り始めはEV走行だった。ここで驚いたのが、そのモーターの力強さとレスポンスの良さだった。アクセルペダルを踏み込むと瞬時にグイッと前に出ていくEVらしい走りを楽しめた。一方でスポーツモードで走ると、V6ツインターボの軽やかで吹け上がりの良いエンジン音が聴こえる。このEV的な面とエンジン車らしいフィーリングという二面性は魅力的で、一度乗って忘れられなくなった。
次はフライングスパースピード。6LのW12気筒ツインターボエンジンを搭載するトップモデルは、エンジンをスタートした瞬間に、この前に試乗した2台とは違う独特な雰囲気を感じた。その印象は野太い音で存在感はたっぷりだけど振動がまったく無い上質さを持つというもの。余談だが小さい頃、近所のおじさんが乗っていたY32型のグロリアが、エンジンをかけると「ブウォーン」というエンジンが大きく深呼吸するような音を発していたことを少し思い出した。これに心が踊ったのだが、それに近い感覚をフライングスパースピードにも覚えた。
走り出すと900Nmに達する大トルクで、後ろから力強い大きな何かが優しくクルマを押し出すような走行フィールが新鮮だった。どの速度域でアクセルペダルを踏んでもモリモリと加速し、それでいてエンジンサウンドは極めて上質なことには感動した。そしてハンドルを切り込むと、2480kgの巨体がまるでミズスマシのように切れ味良く曲がる。運転スキルも知識もまだまだ未熟な自分でも、これまで乗った2台との違いが明確にわかった。
オープンモデルとSUVモデルでサーキットを優雅に駆ける
ここまで試乗した3台だけでも大満足すぎる体験だったのに、次はコンチネンタルGTCを試乗。コンチネンタルGTのコンバーチブルモデルであるそれは、今回集めた6台の中で唯一5mを切る全長をもつ。そのため動きは軽快で、最もスポーティな乗り味だった。
試乗したのは、フライングスパーSと同じV8ツインターボエンジンを搭載するアズール。ソフトトップはオープンにして走ったのだが、そのエンジンサウンドは予想よりも過激で荒々しく、思わず踏み込みたくなってしまう。音も動きもスポーティだった一方で、ハイスピードでも風の巻き込みはほとんどないし、シートベンチレーション機能を使いながら走ったので極めて快適な走行体験だった。
次に試乗したのはベンテイガハイブリッドをベースとした特別仕様車のオデッシアンエディション。これまで着座位置が低いベントレーに試乗したため、乗り込みやすさとアイポイントの高さによる圧倒的な開放感があった。
こちらはプラグインハイブリッドでバッテリー残量も余裕があったため、走り始めはEV走行。これもフライングスパーハイブリッドと同様に、レスポンスが極めて良いEVらしい走りを楽しめた。スポーツモードにするとV6ツインターボエンジンが目覚めるが、フライングスパーよりも若干振動を感じた場面もあった。けれどそれはあくまでも“ここまで試乗してきたベントレーと比べて”のことであって、これまで乗ってきたほとんどのクルマたちと比較すればとても静かであったことはお伝えしたい。この時点でベントレーの滑らかなエンジンに慣れてしまっていたことで、今後ほかのクルマに乗ったときにどう感じるのか、少しと怖くなった。
話を戻すと、車体の動きは非常にマイルド。けれどレーンチェンジを模したパイロンが置かれたコースを走ると、ぐにゃっと傾くことなくクルマが水平に移動する。ブレーキは踏み始めから効き応えがあって、安心感も高かった。
最後にベンテイガのロングホイールベースモデルのEWB(エクステンデッド ホイールベース)。後席の快適性に重点を置いた巨大なSUVで小さなサーキットを走るという「○○やってみた!」と言っているYouTuberのような気分でコースインした。
1コーナーを曲がってすぐに待ち構えるレーンチェンジ区間であえて強めにハンドルを切ってクルマを揺すってみると、四輪操舵のおかげでビリヤードのボールのようにスパッと曲がった。これにはすごく驚いた。けれど搭載するV8ツインターボエンジンはフライングスパーSやコンチネンタルGTCと比べてコンフォートな味付けになっていると感じたので、やはり後席に座るVIPのためのクルマであることも確かだった。もし自分が運転手なら主人を降ろした後にスポーツモードに切り替えて運転を楽しむだろうな、なんてことも感じた。
もしこのベントレーの中から1台選ぶとしたら
ベントレー6台に試乗してみて感じたことは、どのモデルも内に秘めたポテンシャルが凄まじいということだ。豪華絢爛、威風堂々とした高級感を漂わせながら、同時にハイパフォーマンスでめちゃくちゃ速い。日本の公道では、その実力の半分も引き出せないほどに余裕がある。けれどその余裕こそが高級感であったり、懐の深さを感じさせる所以なのだと知ることができた。実はこの試乗会、始まる前から緊張していたのだが、いざ試乗が始まってしまえばベントレーが持つ奥深さや優しさが緊張を和らげてくれた。
最後に、1台自分が選ぶとしたら何にするかを自問自答した。選べる日が来る人生なんて、輪廻転生を何度繰り返しても訪れなさそうだが、フライングスパースピードにはひときわ感動した。飛行機が離陸する時のような加速と押し出し感も味わえるし、何よりコース3周があっという間に感じるほど運転していて楽しかった。セダン好きの自分には、これが究極の一台かもしれないとさえ思った。
偉そうにレビューをしてすみませんでした、と言いたいところだが、最新のベントレー6台をサーキットで試乗するというこの上ない経験をできたことは役得以外の何者でもなかった。会場では平静を装っていたが、試乗から少し時間が経った今でも、そのときに撮った写真を頻繁に見返すほど自分にとっては特別な思い出となった。最後まで読んでいただいた皆さま、ありがとうございました。(写真:井上雅行)
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