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なぜ一強時代に!? ホンダと日産がトヨタに敵わなくなった理由

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なぜ一強時代に!? ホンダと日産がトヨタに敵わなくなった理由

 トヨタは、日本の小型/普通車市場で安定的に45~49%のシェアを保つ。軽自動車を含めた総台数で見ても30%前後に達する。過去の売れ方を振り返ると、小型/普通車市場におけるトヨタのシェアは、1970年には39%で、この時点ですでに1位だったが、実は日産も33%で良い勝負をしていた。

 その後、トヨタの小型/普通車シェアは、1980年代中盤まで40%前後で推移したが、1985年以降は40%を継続的に超える。2006年頃からは45%を上回るようになった。

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 かつての日産やホンダは数字以上にトヨタと競い合っていた印象があった。各メーカーとも海外シフトし、国内で日産やホンダの存在感が弱まる一方、トヨタが今も存在感を保つ背景には、トヨタ特有の“意外な力関係”がある。

文:渡辺陽一郎


写真:編集部、NISSAN

日本車の“売れ方”の変化が“トヨタ一強”のヒント!?

 1970年頃は、各自動車メーカーともに国内市場で成り立っていた。海外に完成車工場はなく、1970年の輸出台数は100万台を超えたが、国内販売は400万台を上回る。今のように日本のメーカーが世界生産台数の80%以上を海外で売る状況ではなかった。

 ところが1973年のオイルショックでガソリン価格が世界的に高騰すると、北米を中心に「日米貿易摩擦」に発展するほど、日本車が売れ始めた。

 そこで1980年代以降は海外に日本メーカーの工場が建設されるようになった。海外で組み立てまで行えば、現地の雇用や経済に貢献できるから貿易摩擦になりにくい。海外の生産台数は次第に増えていった。

 それでも1980年から1990年頃まで、日本メーカーの国内/海外販売比率は各50%程度だった。

 この「日本と海外が半分ずつ」の売れ方が、日本にとって一番幸せだった。海外の競争に応えて走行性能などを高めながら、内外装のデザインやサイズ、価格などは日本のニーズに合う。日本と海外の両方で売るべくバランスの良い商品開発が行われた。

 その頂点が1990年で、国内販売はピークの778万台に達した(2017年は523万台)。この年を境に、国内市場は次第に元気を失っていく。

ミニバンブームが呼んだ実用車志向で国産車に変化

 背景にはさまざまな不幸の重なりがあった。日本メーカーが海外で売れ行きを一層伸ばしたいと考えた矢先、自動車税制が改訂され、国内でも3ナンバー車を売りやすくなった。それに加えてバブルの崩壊で、海外向けの日本車が国内で売れ行きを下げ始めた。

 商品開発も変わった。1990年にトヨタから初代エスティマが登場して、ミニバンの発売が開始。海外向けになって魅力を下げたセダンに代わって売れ行きを伸ばした。

 ミニバンが好調に売れた結果、背の高い車に対する違和感が薄れ、キューブ、ワゴンRといった車内の広いコンパクトカーや軽自動車も発売された。

 これらが好調に売れて、今の国内市場が形成される。女性ユーザーの増加もタイミングが良かった。運転免許保有者数の女性比率は、1970年の18%から1990年には38%に。この20年間で保有者数では4.8倍に増えていた。そうなれば日常生活のツールとして使いやすいミニバン、背の高いコンパクトカーは「奥様目線」で売れ行きを伸ばす。

 ただし、実用的な代わりに趣味性は弱いから、「カッコいい新型車が発売されたからすぐに買う」というノリの良さはない。乗り替えるとしても車検期間が満了した時で、「まだ十分に使えるから車検を取ってもう2年乗る」という判断も働く。

 メーカーや販売会社にとっては面白くない状況だ。実用的な車の普及は、そんな状況に自らを追い込んでしまった。

日産、ホンダを“刺客”で打ち負かしてきたトヨタ

 以上が近年の流れだが、2010年までのトヨタは「自社商品よりも好調に売れる他メーカーのライバル車」を許さなかった。

日産 エルグランドが好調に売れてトヨタがグランビアで太刀打ちできないと、2002年に渾身のアルファードに切り換えてエルグランドを打ち負かした。

 2000年に背の低いワゴン風ミニバンのホンダ ストリームが登場して好調に売れると、2003年にボディサイズがほぼ同じウィッシュを発売して、販売合戦に勝利した。

 2001年に燃料タンクを前席の下に搭載して広い室内を備えたコンパクトミニバンのモビリオが登場すると、2003年に薄型燃料タンクで同様に車内を広げたライバル車のシエンタを投入。この勝負も最終的にシエンタが勝ち、モビリオはフリードに発展した。

 2009年にホンダ2代目インサイトが「G」の価格を189万円に抑えて発売した時は、同年後半に発売した3代目プリウスの機能を向上させながら、実質的な値下げを行った。「L」を205万円、「S」を220万円に設定している。

 販売店はトヨタカローラ店とネッツトヨタ店を加えて全店に増やし、発売当初のカタログでは車名を伏せたものの、インサイトのハイブリッドシステムが劣ることを示す比較解説まで行った。

 その結果、3代目プリウスはピーク時には1か月の登録台数が3万台を上回り(現在販売1位のN-BOXは多い時で約2万6000台)、納期は10か月まで伸びた。インサイトは見事に叩きのめされて国内販売を終えた。

 もともとトヨタはセダンが得意で、実用重視の乗用車は不得意だったから、自社商品よりも好調に売れそうなミニバンが登場すると、必ず似通った後追い商品の「刺客」を送り込んで販売合戦に勝利した。

「トヨタに叩かれて強くなる」という構図の終焉

 2010年までのトヨタは「全カテゴリーの販売1位」を目指していた。当時はトヨタのやり方が狡猾に思えて嫌だったが、今になって振り返ると、あの時代にトヨタと他メーカーの商品力は大幅に進化した。

 特にホンダは、トヨタに叩かれて強くなった。ホンダの新しいミニバンを手掛けた開発者は、「これだけの低床設計は、トヨタには絶対にできない!」などと鼻息を荒くしたものだ。

 ホンダに限らず当時の各メーカーには「優れた商品を発売しても、油断すればトヨタに抜かれる。安心できず、常に商品力を高めねばならない」という緊張感があった。だからこそ商品が進化した。

 ところが2008年終盤にリーマンショックが発生し、この戦いは終焉を迎える。2010年発売の現行ヴィッツは「フィット対策」も視野に入れた2005年の先代型に比べると、呆れるほど質感が低かった(その後に多少は改良)。セールスマンは「これでは先代型のお客様に乗り替えを提案できない」と頭を抱えた。

 もはやノートが小型/普通車の販売1位になったり、N-BOXが国内販売の総合1位を独走しても、トヨタは何も反応しない。各メーカーともにトヨタの動向を気にするから、トヨタが大人しいと「日本はもういいのかな」と思ってしまう。それが今の国内市場だ。

国内低迷でもなぜトヨタだけが強いままなのか?

 そうなるとトヨタも同じ道を歩みそうだが、そうならないのは販売会社の違いだ。トヨタにはメーカーの資本に依存しない地場資本の販売会社が多く、ユーザーのフォローを入念に行う。

 メーカーと販売会社の立場も基本的に対等だから、例えばクラウンを廃止して海外向けのレクサスGSと統合するようなことはできない。

 全店併売のプリウスやアクアがある一方で、ヴォクシー/ノア/エスクァイアといった販売系列ごとの姉妹車を作りわけるのも、販売会社が強いからだ。

 メーカーが「そろそろ斜陽市場の日本では手を抜きたいな」と思っても、立場が対等で強力な販売会社がそれを許さない。メーカーと販売会社の理想的な関係が築かれている。

 他メーカーも以前は地場の販売会社が相応に多かったが、2000年以降は都市部を中心にメーカーの直営化が進んだ。販売会社のメーカーに対する発言力も急速に弱まり、メーカーのやりたい放題になってしまった。

 以上のように、以前はトヨタが国内に強くこだわったから、他メーカーの国内向け商品も刺激されて良い車が生まれた。

 トヨタが物分かりの良い感じになり、国内の緊張感が下がって、他メーカーの商品力も低下している。しかし、トヨタの商品力はあまり下がっていない。そこには販売会社との力関係が大きく影響している。

 当たり前の話だが、車を堅調に売るには、メーカーと販売会社が互いに強い力を発揮し合うことが大切だ。

 トヨタの繁栄は、今でも神谷正太郎氏(トヨタ自動車販売の初代社長)が提唱した「一に需要家(ユーザー)、二に販売店(ディーラー)、三に製造家(メーカー)」という考え方で成り立つ。これはモノ造りのすべてに通用する真理でもあるだろう。

 最近はトヨタでもメーカーの支配力が強まりつつあるが、今以上に加速させてはならない。「三に製造家」を貫くべきだ。

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