アメリカを気ままに放浪3カ月:68日目~72日目
これまで2度にわたりアメリカを放浪してきた筆者。還暦を過ぎた2022年4月から7月にかけて、人生3度目のアメリカひとり旅にチャレンジしてきた。相棒は、1991年式トヨタ「ハイラックス」をベースにしたキャンピングカー「ドルフィン」。愛称は「ドル」。最大の目的地であるワシントン州のオリンピック国立公園を満喫して、ふたたび南下しカリフォルニア州へ。旅の後に「ドル」を買い取りたいと申し出てきた、ティモシーという男性に会いにセバストポルへ来ました。
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7月6日 セバストポルでティモシーの家へ
ティモシーは40代前半に見えたが、30歳の娘がスペインにいると聞いてビックリした。現在はトラフィック・コントロールといって、道路に張り出している木の枝が標識を隠していないかなどをチェックする仕事についているそうだ。そのほかにグラフィックデザイナー、DJ、スケーターなどの肩書きを持つ。ようするに、気ままな遊び人だ。
ティモシーのテンションは高かった。「このソファもベッドになるんだ!」「冷蔵庫がプロパンガスで動くんだ!」「へぇ、ここから水を入れるんだ!」と、初めてじっくり見るというRVの装備のひとつひとつに興奮を隠さなかった。
そして、オリジナルのオーナーズ・マニュアルを見せると、「ぼくもデザイナーだから、こういうのに弱いんですよ」と、食い入るようにページをめくった。テストドライブも問題なく終了し、4、5日中に返事をくれることになった。感触は上々である。きっと買ってくれるだろう、と確信、1万2000ドルの売値を1万1000ドルに値下げした。
2カ月以上つきあったキャンピングカーの新機能を発見
ティモシーが運転席に座ったときに、「あ、これ動くんだ」と頭の上に張り出したベッドのパネルを押し上げた。正直いって、それまで知らなかった。後で外してみると、運転席から後部への移動がとても楽になった。これは発見だった。
なお、この日までの走行距離が約4000マイル(約6400km)。クルマ探しや手続きでお世話になったMAKOTOさんからは、3000マイルごとのオイル交換を勧められていた。ティモシーに会う前にオイル交換とタイヤの空気圧チェックを行った。旅の間に一度、前を走っていたトレーラー式のモーターホームのタイヤがバーストし、危うく巻き添えを食いかけたことがあった。空気圧も問題がなく、ほっとした。
7月7~10日 オークランドでアスレチックスの試合を観戦
セバストポルのナネッタ(2021年に他界した友人のモータージャーナリスト、デビッド・フェザーストンの奥さん)は旅行中だったため、すぐに次の目的地に向かった。目指したのはオークランドのジェシ(ナネッタの息子)の家だった。斧が盗まれた事件以来、旅を続けるモチベーションが盛り上がらない。そこで考えたのが街歩きだった。考えてみれば、2カ月半の間に訪れた都市といえば、パームスプリングス、ユージーン、ポートランドだけ。それも、ついで程度の街歩きしかしていない。目先を変えてシティ・ライフを経験したくなった。
初日はジェシに頼んで、オークランド、バークレイを案内してもらった。夜はMLBのオークランド・アスレチックスの試合を観戦した。アスレチックスは、数年間、移転の話がくすぶっていてファン離れが激しいという。
この日もスタジアムは空席が目立ったが、女性DJのパフォーマンスはノリノリで、むしろこちらが目当てのファンが多いような気がした。
サンフランシスコでシティ・カルチャーに触れてみる
翌日はひとりでサンフランシスコに出かけた。フェリー乗り場周辺は、ジャック・ロンドン・スクエアとして開発されていた。ジャック・ロンドンといえば、放浪、冒険、孤独をテーマにした無頼派の作家だ。当然、ぼくが尊敬する人物のひとり。彼がオークランドのローカルヒーローとして手厚く扱われているとは意外でうれしかった。
サンフランシスコのフェリーターミナルでは、ファーマーズ・マーケットが開催されていた。おいしそうな食材が並び、センスのいいファッションの若者たちが集まっている。のっけからシティ・カルチャー全開である。迷った末、韓国風ロコモコの列に並び、ピア(桟橋)のベンチで食べると、忘れていた都会の味が全身に広がった。
SFMoMA(サンフランシスコ近代美術館)を訪ね、芝生の広場でウクレレ・コンサートを聴き、中華街でチャウメンを食べた。キャンプ場のこともドルのことも忘れて、気持ちがリフレッシュしていくのをひしひしと感じた。これも放浪キャンプの一部といったら、認めてもらえるだろうか。
放浪の旅はつねにアウェイ、ときにはホームが癒してくれる
ジェシの家にお世話になりながら、ホームとアウェイの違いを考えた。放浪の旅はつねにアウェイである。知らない土地に行き、初めての人に会い、ときに厳しい交渉をする。それが醍醐味である一方、つねに緊張を強いられる。
知り合いの家に滞在するのは、もちろんホームだ。リラックスした本当の自分でいられる。こんなに楽なことはない。ジャック・ロンドンは、アウェイにチャレンジし続けた人である。そして、ぼくは? アウェイに挑み続けて、ちょっと疲れた自分を感じていた。
■「米国放浪バンライフ」連載記事一覧はこちら
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