クルマ好きの常套句といえば「あの頃はよかった」。青春真っ盛りの「あの頃」のクルマたちの思い出は忘れるはずがないものです。そんな「あの頃はよかった」世代はきっと、2000年代初頭のクルマたちを見たら心のどこかであの頃の熱き想いがフツフツとしてしまうはず。そこでネオクラシックともいわれるあの頃のクルマたちを、いまから中古車で買うにはだいたいどんなもんで買えるのかチェックしてきました。今回は現代にも元気で走るネオクラシックたちの試乗記もセット。現代の目で見るとどれくらいアツいクルマだったのか、それとも思い出補正だったのか!? 徹底チェックです。※中古車価格は荻原文博氏が調査したものです。
文:斎藤聡/写真:池之平昌信
新型登場で知りたい! スズキ ジムニー 48年の“ブレない”歴史
■あえてのNAでも楽しさいっぱい!! スープラとインテRに乗る
★スープラ(A80:210~250万円)/インテグラタイプR(DC5:90~200万円/編集部調べ)
1989年に280馬力カーが解禁になって一気にハイパワー戦争が爆発。Z32フェアレディZを皮切りにR32スカイラインGT-R、GTOなど次々に登場。バブル景気の後押しもあり各メーカーが世界に通用するクルマを作ろうと情熱を燃やしていた頃だ。
今回そんな時代に生まれた4台に試乗してみた。その試乗車を用意してくれたのは「おもしろレンタカー野田本店」(千葉県野田市)だ。スープラは個人的に思い出の多いクルマ。ニュル24時間に出場させてもらった時、現地で練習用に貸してもらったのがスープラRZだった。
600馬力オーバーのチューニングカーにも試乗した。今回乗ったSZは3LのNAで225馬力/29.0kgm。当時はターボの陰に隠れ目立たなかったが、乗るとトルクに厚みがあって意外に速い。あれから20年近く経って改めて乗ったらガッカリするのだろうな……と思ったら、ビックリするくらい面白かった。
直6自体が貴重なだけに80スープラをあえてのNAで乗るなんてのも素敵だ
トルクバンドが厚く力のあるエンジンは性能的には今でも充分通用する。厳しく見ればボディがワナワナしており、ヤレではないボディの剛性不足も感じないではないけれど、それを差し引いてもインパネのデザイン、室内のムード、クセのない操縦性は合格。なにより楽しいクルマを作るぞ、という作り手の熱が伝わってくる。
今のクルマと比べても……と考えて気づいたが、今や比較すべきクルマさえない状況が悲しい。2代目インテグラタイプRはやんちゃな初代の人気を受けて作られた進化形モデルで、完成度の高いFFスポーツカーとして登場。当時は完成度が高すぎて刺激が足りないと評した記憶があるが、今改めて乗ってみるとシビレルくらい楽しくて刺激的だ。
乗った者にしかわからない魅力を持っているインテR。シュイーンと回るエンジンはホンダスピリットを感じる
実際クルマの作りはよく、エンジンは研ぎ澄まされた鋭い吹き上がりを示す2LのスポーツVTEC。昔「ホンダはエンジンが作りたくてしかたなく、それを載せるクルマも作ってるんだ」と言った人がいたが、そんなエンジンファーストのホンダの匂いが色濃く残っている。
レブリミットは8400回転。今でも当時と変わらない鋭さで吹き上がり、ハイチューンNAらしい刺激的な加速を楽しませてくれた。このクルマに乗ると今のFF車って性能面ではなにも進歩していないんじゃないの? とさえ思えてくる。
■FRのお手本の2台は今のうちに買いたい!! S2000とR34 GT-T
★S2000(190~220万円)/R34 スカイライン 25GT-T(155~165万円)
S2000もホンダらしいクルマだ。このクルマがデビューした時、面白いけれど危険なクルマが登場したものだと思った。初期型はサスペンションのジオメトリーに問題があったのか、左右へのすばやい切り返しを行うとリアタイヤがスパーンと滑り出すような動きを見せた。
3型になってサスペンションのジオメトリーに手を加え発散する傾向が緩和された。ようやく人に薦められるようになった。スポーツカーとしての性能は今でもトップレベルにある。エンジンはレブリミットが9000回転! 最高出力発生回転も8300回転と超高回転で刺激的。
途中から2.2L化されてマイルドになったS2000。S2000専用の超高回転エンジンを味わうなら今のうちに
改めて試乗してみても刺激に満ちており、楽しさがあふれている。エンジンはアクセルに敏感に反応し、シャープな操縦性は今も健在。操縦感覚もステアリングを切り出すとノーズが向きを変えて、体が後から曲がっていくような動きを見せる。ロングノーズでリアタイヤの直前に着座位置がくるS2000独特のものだ。モダンな操縦性ではないけれど、それさえも懐かしく楽しい。
R34スカイラインGT-Tは人気を博したR32GTS-t、ボディが大柄で人気薄だったR33GTS25tに続いて登場したモデル。当時世間ではGT-R人気で、あまりFRのGT-Rには脚光が当たらなかったが、刺激的なFRスポーツとして日本のBMW的な位置づけだった(誉めすぎか?)。
当時は刺激的で楽しかったが、改めて試乗してみるとターボのセッティングの古臭さや微妙に足りない剛性感が妙に懐かしく、ノスタルジックな気分になった。当時のターボはエンジンの圧縮比を低くしていたためか、ターボレスポンスが鈍かった。ヒュイーンと過給圧が高まってきて、それからグワグワッとトルクが立ち上がってくる。だから加速もワンテンポ遅れてギューンとくる。
ドリフトユーザーの需要も多い車種だけに綺麗な個体は減少傾向。普通に乗ってもしっとりと楽しい
そのピーキーな加速のしかたが加速感をより刺激的に感じさせているのだ。アクセルを踏んだ瞬間トルクがフワッと膨らんでくる最新のモダンなターボエンジンを知ってしまうと、さすがに古さは拭えない。でもそれが逆に面白かったりもするのだ。
そんなワケで4台に試乗してみた。もう20年近く昔のクルマたちなので当時の面白かった記憶だけが美化されていて、実際に乗ったらガッカリするんじゃないかと思っていたのだが、いざ試乗してみると、今のクルマより断然面白い。
もちろん現代のクルマにも面白いクルマは皆無じゃないけれど、いいクルマを作りたい、面白いクルマを作りたいというエンジニアの熱が、今回試乗したクルマからはひしひしと伝わってきた。
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