■新型クラウンセダン/スポーツの出来をクロスオーバーと徹底比較
待ちに待った、新型クラウンシリーズ第2、第3のモデルである新型「クラウンセダン(以下、セダン)」と「クラウンスポーツ(以下、スポーツ)」の公道試乗会に参加しました。
先行発売されている「クラウンクロスオーバー(以下、クロスオーバー)」との走りの違いはどうなのか、とても気になるところです。
【画像】めちゃカッコいい! トヨタ新型「クラウン」シリーズを画像で見る(30枚以上)
時計の針を少し戻せば、 2022年7月に実施された16代目クラウンのワールドプレミアでは、クロスオーバー、セダン、スポーツ、エステート(クラウンエステート)という4車系同時発表に対して、詰めかけた報道陣はもとより、日本と世界のユーザーが度肝を抜かれました。
さらに、クラウンはグローバルカーとしても生まれ変わりました。
これまで、日本以外の一部の国や地域で販売されたことがありましたが、実質的には”ほぼ日本市場向け”だったクラウンにとって、16代目は大きな転機となったのです。
そうしたなか、2022年9月より先行発売された直近でクロスオーバーの国内販売は好調です。
日本自動車販売協会連合会によれば、2023年10月単月では3132台、また4~9月の販売総数は1万8067台であり、上級車として販売は成功していると言えるでしょう。
さて、今回の試乗の舞台は横浜です。
試乗車は3モデルあり、セダン・ハイブリッド、スポーツ・ハイブリッド、そしてセダン・FCEV(燃料電池車)の順でそれぞれ、首都高速と一般道路で1時間走行しました。
実はこの試乗会の2週間前、筆者(桃田健史)はトヨタ本社からクロスオーバー「RS Advanced」を借りて、東京から愛知県豊田市のトヨタ本社などを巡る、約1200kmに及ぶ独自取材をしています。
そのため、今回の3モデル試乗が比較的短時間でも、クロスオーバーとの対比をしっかりできたものと考えています。
では、試乗した3モデルを順に見ていきましょう。まずはセダン・ハイブリッドから試します。
■新型「クラウンセダン」は大きいのにクルマとの「一体感」がスゴイ!
セダン・ハイブリッドを屋外で見ると「かなり大きなクルマ」だと感じます。
それもそのはず、全長は5メートル越えの5030mmで、全幅は1890mm、全高が1475mm、そしてホイールベースが3000mmに達するのですから。
また、「セダンといってもハッチバックのような独特のボディ形状」であり、威風堂々というイメージよりも、斬新な新世代感が強く、このデザインならばグローバルで広い世代の富裕層に受け入れられると予想します。
走り出してみて驚いたのは、クルマとしての極めて高い一体感です。
重厚というイメージよりは、「精度の高い上質さ」という言葉が似合う乗り心地とハンドリング。
5メートル越えの巨漢をドライブしている気がしないほど、ドライバーとしての安心感が高まるのが分かりますし、なにせ運転がとても楽しくワクワクします。
いわゆるショーファーカーとしてだけではなく、セダンはドライバーズカーとしての需要も高いのですから、こうしたワクワク感が重要です。
車体構造で見れば、FF(横置きエンジン・前輪駆動車)ベースのクロスオーバーに対して、セダンはFR(縦置きエンジン・後輪駆動車)なのですから、ハンドリングの違いを感じるのは当然のことでしょう。
ただし、セダンに乗っても、クロスオーバーに乗っても「クラウンらしさ」はしっかり共有できている点に、トヨタ開発陣のクラウンにかける強いこだわりを感じます。
セダン・ハイブリッドのパワートレインは、トヨタとして初採用となる「マルチステージハイブリッド」。
これは2.5リッターのシリーズパラレルハイブリッドであるTHS(トヨタハイブリッドシステム)に4段の変速機構を加えたもの。
クロスオーバーRS Advancedが搭載する、2.4リッターターボデュアルブーストハイブリッドシステムと、後輪をe-アクスルとするE-Four(電気式4WD)を組み合わせたパワフルな設定と比べると、こちらは伸びやかさを優先しているような走りのイメージです。
また、ブレーキを踏んだ時の減速感と足裏へタッチ感からも、ドライバーとクルマとの一体感を感じるなど、クルマ全体のバランス感が極めて高いクルマだと言えるでしょう。
■新型「クラウンスポーツ」は「クロスオーバー」とどう違うのか
次に、スポーツ・ハイブリッドに乗り換えました。
まずは外観ですが、とくに斜め後ろから見た時の迫力に圧倒されます。
「これが、あのクラウン?」と思うほど、新たなクラウンとしてキャラがたっています。
車内への乗り込みから着座するまでのドライバーの動きの流れで見れば、SUVという分類としてドライバーはしっくりくるでしょう。クロスオーバーで感じる、セダンでもSUVでもない独特感とは明らかに違います。
走りは、当然ながらセダン・ハイブリッドとは大きく違います。
FFベースであり、パワートレインはクロスオーバーのX・Gグレードと同じ2.5リッターシリーズパラレルハイブリッド(THS)とリアモーターを組み合わせたE-Fourなのですから。
ならば、クロスオーバーとスポーツは、走りのキャラクターが同じようではないかと想像してしまいますが、走行中の感覚が2車系でははっきりと違います。
ひとことでいえば、スポーツのほうが、よりコンパクトなイメージの走りをします。
実際、ボディ寸法でもスポーツはコンパクト化されています。
スポーツはクロスオーバーより全長で210mm短く、ホイールベースで80mm短く、車幅が40mm広く、全高で40mm高い設定です。
そして注目は、DRS(ダイナミックリアステアリング)の存在です。
低速、中速、高速など走行条件に応じてリアタイヤが自動でステアされ、市街地では小回りし、首都高速のカーブでは安定した走りをみせました。
乗り味としてはトヨタが言う「(足回りが)硬くないスポーツ」との発想が上手く実現できていると感じました。
今後追加されるPHEV(プラグインハイブリッド)は電池重量分でのドッシリ感が増すでしょうから、その走りにも期待したいところです。
■新型クラウンセダン・FCEVモデルが燃料電池車の「谷」を越えた!?
そして、3台目がセダン・FCEVです。
ハンドリング、乗り味、加速感、減速感、静粛性など、クルマとしての完成度の高さに対して感銘を受けました。
走り味をひと言で表現すれば「切れ味が良い」のです。
トヨタやレクサスが目指す、「WOW(ワオ)」がまさに具現化されたクルマ。
FCEVの2代目MIRAI(ミライ)をベースに、トヨタの車両開発技術の知見を結集して実現した“逸品”です。
筆者は2000年代から世界各地でさまざまな燃料電池車を取材してきましたが、燃料電池車は研究開発・初期導入期から本格普及期に移行できない状況が続いてきました。
これを一般的に「死の谷」と呼びます。
2代目MIRAIも実質的に死の谷は超えておらず、そのため直近での同車のリセールバリュー(下取り価格)はけっして高いとは言えない状況です。
そうした、燃料電池車の死の谷を、「ついにクラウンセダン・FCEVが超えた!」と実感できる試乗になりました。
同モデルは、FCEVという括りだけではなく、EV(電動車)という大きなカテゴリーの中で見ても、走りの完成度、製品としての質感、コストパフォーマンスの総合評価として「世界のトップ」と言っても過言ではないでしょう。
需要としては、霞が関の官公庁や全国の自治体など向けのB2G(ビジネス・トゥ・ガバメント)や、企業のエグゼクティブ向け車両車としてのB2B(ビジネス・トゥ・ビジネス)は当然伸びるとして、さらに富裕層を対象としたB2C(ビジネス・トゥ・コンシューマ)向けとしても広い世代で人気が出るでしょう。
※ ※ ※
このように、セダンとスポーツが加わったクラウンは、まさに「クラウン群」というさまざまなキャラを持ったクルマたちによる、トヨタ独自のブランド戦略であることが分かります。
今後、エステートのみならず、第五、第六のさらなるクラウン群の仲間が登場することも期待したいところです。
[編集部注記:文字の一部に誤りがあったため、2023年12月10日に本文の一部を修正しました]
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