長らく苦しい時期が続いているホンダは、サンマリノGPの2戦前のオーストリアGPで、レプソル・ホンダ・チームの二人のライダーと中上貴晶(イデミツ・ホンダLCR)に新しいエンジンが投入されていた。今大会の時点では、ヨハン・ザルコ(カストロール・ホンダLCR)もそろって、少なくともフル参戦ライダーの4名がそのエンジンを使用している。
この新しいエンジンについて、ザルコは「ターゲットは、旋回性の向上」と説明した。
バニャイア、「今日の目標はトップ10だったけど…」負傷を抱えてのプラクティストップ/第13戦サンマリノGP
過去、ホンダが抱えてきた大きな問題は「リヤのグリップ不足」であり、「加速時のスピニングによってコーナーの立ち上がりで前に進まない」ということだった。今季に入って高速コーナーでのパフォーマンス、コーナーの進入でスピードを落とさないとコーナーに入っていけない、といったコメントが出るようになった。つまり、ホンダは積年の問題ではなく、まず新しい問題の改善に着手したとみられる。
新エンジンについて、中上がもう少し詳しく説明している。
「減速区間でスロットルを戻してからのエンジンの特性がだいぶ違います。特に、アクセルを閉じたところから減速区間からのターンインですね。でも、期待していたほどのよさは出ていない……出し切れていないのか、出ていないのかわからないですけど。ねらっているものが感じられない。すごく微々たるものです。ライダーとしては、要求はもっと高かったのですが」
「従来のエンジンにはトップスピードや扱いやすさというポジティブはあったのですが、新しいエンジンでは、様々な理由でパワーが出せないのでトップスピードが遅いです。いいところも多少ありますが、求めていた旋回がすごくいいかというと、ほんとにちょっと。(コーナーの)開け口などで少し、バイクの旋回が出ているような気がします。でも、どのサーキットに行ってもすごくバイクが旋回するわけではないので、エンジンだけではまだまだ解決していませんね」
サンマリノGPでは、中上は初日の走行からブレーキングからの進入で最も苦しんでいる、と訴えている。特に、ブレーキングではリヤが跳ねており、これは外から走りを見ていてもわかるほど大きなものである。外から見てわかるということは、ライダーが感じている挙動は相当大きなもののはずだ。
他のメーカーがコーナーの進入で素早くバイクを傾けてコーナーに入っていけるのに対し、ホンダはそうした挙動があり、リヤの接地感や安定性が欠けているために、ゆっくりとバイクを倒しこまざるをえない状況だ。アラゴンでも1か所だけそうした挙動が見られたが、今回はどのコーナー、どの速度域でもそうした症状が出ているという。中上のこうしたコメントは、金曜日から土曜日にかけても変わらなかった。
「(ステファン・)ブラドルは違うバイクなのでよくわかりませんが、彼もスプリントレースを、そのリヤの跳ねによってリタイアしています。電子制御やサスペンションではなく、エンジンかシャシーから来ているのでは」
アラゴンは新しい路面になった今年、路面グリップが非常に悪かった。一方、今回のミサノ・サーキットは路面グリップがいい。土曜日のスプリントレース後、その影響はあるか、と尋ねると、中上は「(路面の)ハイグリップに加えて、スプリントレースではリヤにソフトタイヤを使ってレースをしたので、そのハイグリップの影響もたぶん理由の一つかもしれません。車体が耐えられなくて、跳ねちゃっているのか……。でも、まだ誰も原因がわかってないんです」と答えていた。
ザルコもまた、「僕たちは旋回するのにすごく格闘していると思う。コーナーでタイムをロスしている。コーナーにスピードに乗って入ろうと旋回が欠けていて、コーナーの進入でコントロールしたくてもタイムをロスする。この週末、どこでラップタイムを改善したらいいのかわからない」と述べていた。
「僕たちが抱えている問題は、バイクのリヤ。問題は、どんどんクリアになってきていると思う。ただ、バイクに乗っていくにつれて、この問題を解決できない限り僕たちはレースには加われないと感じているんだ。今、そのことは僕を失望させる。(スプリントレースで)僕はできるだけ全力を尽くそうとしたのに、前を走るライダーを追いかけられる可能性が全くないなんて、おかしいよ」
そしてルカ・マリーニ(レプソル・ホンダ・チーム)は「特にコーナー進入と旋回のスピードが十分ではない」と語っている。中上、ザルコ、マリーニは同じ問題を感じている。これはホンダの現状のなかでポジティブなポイントだと思うが、ライダーが感じている問題は同じ、ということだ。
いずれにしても、ホンダが投入した今季の大きなアップデートは、今のところ、大きな実を結びそうにない。ただ、月曜日にミサノ・サーキットで行われる公式テストでは、新しい空力デバイスをテストする予定だという。ここでホンダのパフォーマンス、ライダーのインプレッションを確認することにしよう。この公式テストは、2025年シーズンに向けたエンジンやシャシーなどが登場するテストでもある。ホンダの来季の方向性もまた、見えてくるだろう。
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