ハイブリッド、プラグイン、EVと電動化かまびすしい自動車業界において、昔も今もただひたすらに完全バランスによるシルクのようななめらかさ、胸がすく気持ちよさを追求したパワートレインが12気筒エンジンだ。
昨年、国内メーカーで唯一V12エンジンを搭載していたトヨタセンチュリーが新型にモデルチェンジし、V8+ハイブリッドになったことで、和製V12は絶滅してしまった。
天才エンジニアが作り上げた高性能高級車ブランド「ベントレー」──創業100周年を記念したセンテナリーモデルが登場
世界的にみても12気筒エンジンをラインアップするのは、指折り数えるほどになってきた。フェラーリ、ランボルギーニといったイタリアンスーパーカーブランドをはじめ、ジャーマンブランドでは、メルセデスのS600やAMG65シリーズ、マイバッハ、BMWのM760、(アウディでも先代A8Lには12気筒モデルがラインナップされていたが、現行型は国内導入されていない)、そしてブリティッシュブランドではアストンマーティン、ロールスロイス、ベントレーくらいのものだ。
これらのなかで、唯一V12ではなく、独特なW型12気筒エンジンを搭載するのがベントレーだ。これはVWグループがもつ狭角V6エンジンを2つ組み合わせたことでシリンダーの形状がWの文字に見えることからそう呼ばれる。このW12にはクランクシャフトを短くすることで剛性を高めて振動を低減し、より滑らかな回転感が得られるメリットがある。
先日、ベントレーモーターズジャパンの粋な計らいで、ベンテイガとコンチネンタルGTという2台のW12モデルを駆り、日がな一日ドライブに出かけた。
まず午前中に借り出したのは、ブランド初のSUVであるベンテイガだ。2016年に発売され、その年の国内販売台数は一気に増加。2018年の国内販売台数も145台と屋台骨のコンチネンタルGTに次ぐヒット作となっている。
全長5150mm、全幅1995mm、全高1755mmというサイズで威風堂々とした佇まいは、街にあふれるSUVとは明らかに一線を画す。6リッターW12ツインターボエンジンは、最高出力608ps、最大トルク900Nmを発揮する。8速オートマチックをDレンジに入れて、アクセルペダルにアクセルをのせると、スルスルと滑らかに走り出し、少し力を込めるとあっという間に速度がのる。首都高の料金所をぬけて、少し深めにアクセル・ペダルを踏むと、2.5トンもの車体をものともせず、一気に加速する。カタログ上の性能は0-100km/h加速が4.1秒、最高速が301km/hというから、完全に超高性能スポーツカーの領域にある。交通の流れにのると、エンジンの存在はほとんど消えてなくなる。
ベンテイガはベントレーのラインナップで唯一リアにハッチゲートが存在するモデルだ。一般的に高級車はキャビンとトランクルームを隔離することによって静粛性を高めるのだが、SUVではそれができない。しかし、ベンテイガは優れたボディ剛性はもとより後席のシートバックを分厚く、またトノカバーにまで配慮して作り込み、質感とともに室内の静粛性を高めている。
レザーが隅々まで張り巡らされたインテリアは上質なダークブルーとタンのレザー、さらにピカピカに磨き上げられたウッドパネルを組み合わせたものだ。レザーだけで18種類、ウォールナットやタモアッシュ、マドロナ、ピアノブラックなどのウッドパネル、さらにカーボンパネルなども合わせれば9種類のデコラティブパネルが用意されており、その選択肢の数は膨大になる。そして、天井やピラーまわりなどに目をやれば、細部にわたって丁寧な仕事が施されていることがわかる。公式HPでベンテイガに掲げられたキャッチコピーがふるっている。「SUVではない。ベントレーだ」。まさにそれだ。
東京からアクアラインをわたって房総半島を南下。ランチ会場の「百姓屋敷じろえむ」に到着した。築300年を超えるという茅葺き屋根の古民家で、自家製の無農薬の有機野菜や有機米や季節の山菜、平飼いで自然な状態で産んだ有精卵などの定食をいただく。素朴だけれども、どれも滋味深い。メニューはその日の収穫次第、完全予約制というが、再訪を誓う。
帰路は昨年末に登場したコンチネンタルGTに乗り換えた。2003年のデビューから数えて3代目となった新型は、従来モデルよりもより一層、筋肉質で抑揚のあるフォルムになった。その骨格にはVWグループ内でポルシェが開発を主導する「MSB」モジュールを採用しており、先代モデルより80kg以上の軽量化に成功している。また前輪を135mm前方に配置したことで、ワイド&ローなプロポーションがより強調されている。
6リッターW12ツインターボは、ベンテイガのものよりもよりパワフルなもので、最高出力635ps、最大トルクは900Nmを発揮する。またトランスミッションは、ベンテイガのトルクコンバーター式ATではなく、よりスポーティさを求めた8速デュアルクラッチ式になっている。さらにベンテイガと同様に、気筒休止システムやコースティング機能などを備え、現代のクルマに求められるCO2削減、燃費向上を図っている。カタログ上の性能は0-100km/h加速3.7秒、最高速333km/hというから、そのスピードに文句などあろうはずもない。
レザーをふんだんに使いウッドパネルを組み合わせたインテリアはベントレーの法則にのっとったものだが、ダッシュボードの真ん中には現代的な12.3インチの大型ディスプレイが備わる。便利であるものの、ラグジュアリィな雰囲気が損なわれ、“ベントレーよおまえもか”と、ひとりごちていたら、そこにはベントレーローテーションディスプレイなる凝った仕掛けが備わっていた。スイッチの切り替えで、12.3インチの大型ディスプレイのほか、外気温/コンパス/クロノメーターの3連アナログメーターが埋め込まれたウッドパネル、そしてメーターのないシンプルなウッドパネルと、3つのディスプレイを選択できるのだ。いつなんどきでもナビ画面が常時オンになっている最近の傾向を、あまり好ましく思っていない筆者にとって、さすがベントレーと唸らされる装備だ。
駆動方式は4WDではあるが、通常走行時は主に後輪駆動で、必要に応じて前輪に駆動を配分する仕組みだ。足回りはエアサスペンション+電子制御可変ダンパーで、48Vシステムでロールを抑制するベントレーダイナミックライドやトルクベクタリングなど最新機能を満載する。その乗り味は重厚というよりも驚くほどに軽快で扱いやすい。ステアリング操作に対して素直にノーズが向きをかえる。
広報担当の横倉 典(よこくら・つかさ)氏によると、ベンテイガとこの新型コンチネンタルGTによって、日本のベントレーオーナーは相当に若返ったという。平均年齢はベンテイガのW12で51歳、新型GTは53歳という。ベントレーの2台のW12の試乗を終えて、その年齢になるまでにこういうクルマを買えるようになりたいと、願うばかりだった。
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