1980年代~1990年代にかけて、日本車に勢いのあったバブル期には世界初、日本初といった装備や技術が新型車が出るたびといっても過言ではないくらい登場していた。
しかし、そのなかには注目されながらも後に続かなかったものというのも少なくない。本企画では、そんな哀しき、世界初、日本初の装備や技術たちを振り返り、続かなかった理由(言い訳)も考えてみた。
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※トビラ写真/1988年登場の80系マークIIには、なんとサイドウインドウの小さなスペースにワイパーが設けられた。バブル期に誕生した贅沢(というか無駄?)な装備だ
文/永田恵一
写真/ベストカー編集部 ベストカーweb編集部
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雨の日の視界確保関係
1980年登場の日産レパードに装備されたフェンダーミラーワイパー。ボンネットの上に伸びているフェンダーミラーは手を伸ばしても届かないため、確かに便利かもしれない
視界が狭くなる雨の日はまず視界を確保したい。特にサイドミラーは水滴により見にくくなるのを緩和するために実用化されたのが1980年登場の日産レパードの初代モデルに採用されたフェンダーミラーワイパーである。
フェンダーミラーワイパーはフェンダーミラーに着いた水滴をワイパーで拭き取るという目的が明確かつ単純明快な装備だったのだが、面積の小さいフェンダーミラーに装着されたため、使わないときにはミラーワイパーが視野を狭めてしまうというデメリットもあった。
このデメリットを解消したのが1988年登場の日産シーマの初代モデルに装備されたミラーワイパーのドアミラー版で、初代シーマではミラーワイパーがドアミラーの上部にキレイに装着されていた。
さらに「雨天時にはミラーワイパーの前にドライバーとドアミラーの間にあるサイドウィンドウの水滴を拭わなくてはいけない」と考えたのか定かではないが、サイドウィンドウ前方に小さなワイパーを設けてドアミラーを見やすくしたのが1988年登場の80系マークII三兄弟で、80系マークII三兄弟のサイドウィンドウワイパーはご丁寧にウォッシャー付きだった。
この2つが併用されれば雨の日のミラーの視界は万全だったのだが、さすがにそれはコストが掛かりすぎるのかそういったクルマ登場せず、現在サイドウィンドウは一度窓を開けて水滴を拭うなどし、ドアミラーは珍しい装備ではなくなったミラーヒーターで水滴をなくし、ドアミラーからの視界を確保するという考え方、方法が主流となっている。
世界初の5バルブエンジンを積んだミニカ
三菱ミニカに搭載された5バルブエンジンの3G81型エンジンは550ccという排気量で実現したから驚くほかない。さらにターボを搭載したダンガングレードは自主規制いっぱいの64ps/9.8kgmのスペックをたたき出していた
バルブ自体の慣性重量を減らしつつ、少しでも多く吸気をするために吸気3、排気2のマルチバルブ化が図られ、2本のカムシャフトが当時の三菱お家芸のローラーロッカーアームを介してバルブを駆動するというものだった。プラグは5つのバルブの中央に配置
日本車のエンジンは昭和末期あたりからDOHC化とともに最低1気筒あたり1ずつで済む吸気と排気を行うバルブのマルチ化も進んだ。
マルチバルブ化は吸気、排気ともに2つとなる4バルブがほとんどだったのだが、「さらにパワーを出すためには吸気を増やしたい、吸気バルブを小型化して高回転まで回したい」というコンセプトで、吸気バルブ3つ、排気バルブ2つという形で世界初の5バルブを実用化したのが1989年登場の三菱ミニカの搭載されたNAとターボのDOHCエンジンである。
5バルブは日本車では1991年登場の100系と1995年登場の110系カローラ&スプリンターなどにスポーツエンジンとして搭載された1.6リッターの4A-GE型も採用し、確かに高回転化による出力向上には貢献した。
しかし、市販車ではバルブが増えることによるコスト高やコスト高ほどのメリットが薄かったのは否めず、「4バルブのまま性能を追求する方が得策」という結論になり、採用例は増えないまま消えてしまった。
ホンダのFFミドシップレイアウト
1989年アコードの上級車として投入したのがFFミドシップレイアウトを採用したアコードインスパイアと3代目ビガーである
FF車はキャビンを広くするため現在もエンジン横置きがほとんどで、エンジン縦置きのFF車はスバル車とA4以上のアウディくらいと少数派だ。
しかし、ホンダが1989年登場の初代インスパイアと3代目ビガーで当時上級小型車と呼ばれていたFRのマークII三兄弟やローレルのマーケットに直列5気筒エンジン搭載のFF車で参入するにあたり、開発されたのが世界初となるエンジン縦置きのFFミドシップレイアウトである。
FFミドシップレイアウトはエンジン縦置きによる振動低減による高級感の向上や重量配分の適正化による軽快なハンドリングの実現などをメリットとしていた。
しかし、FFミドシップレイアウトは縦置きエンジンの後方に置かれるトランスミッションとデファレンシャルを独立させ、ドライブシャフトをオイルパン(エンジンオイルが入っているところ)を貫通させるという複雑な構造だった。
さらに重量配分の適正化と言いながらフロントが軽くなったせいかクルマにとって重要なトラクションの不足やエンジン縦置きによりトランスミッションがキャビンに食い込んでいるためエンジン横置きのFF車のような広さもなかった。
結局メリットは前輪の位置を前に出せることによりFF車でFR車のようなフロントオーバーハングの短いスタイルにできた点(「このためのレイアウトでは?」という説も強い)と、FF車にしてはタイヤの切れ角が大きいので小回りが効くくらいだった。
FFミドシップレイアウトはスタイルとインテリアの雰囲気のよさを大きな理由にまずまずの成功を収めた初代インスパイア&3代目ビガーのあと、1990年登場の2代目レジェンドと1996年登場の3代目レジェンドといったホンダの上級セダンに採用されただけで、特に功績は残せないまま姿を消した。
世界最小排気量のV6エンジン
1991年6月にデビューしたユーノスプレッソには世界初の世界最小1.8L、V6エンジンが搭載された。K8-ZE型エンジンは140㎰/16.0kgmを発生
三菱は4代目ミラージュと4代目ランサーに1.6LのV6エンジンを搭載。最高出力は140㎰/15.0kgm。燃費やコストパフォーマンスを度外視した小排気量V6エンジンだ
2000年代初めまでは「高回転化によるパワーとスムースさの向上のため、気筒数を増やしたい」というコンセプトやニーズにより、今ではまったく見なくなった2リッターの6気筒エンジンも少なくなくなかった。
バブル期にはこのコンセプトがさらに加速しており、1991年にマツダはユーノスプレッソに1.8リッター(こちらのほうが先)、三菱はそれぞれ4代目となるミラージュとランサーに1.6リッターという世界初となる2リッター以下のV6エンジンを搭載した。どちらも小排気量ながら6気筒エンジンらしい高級感ある回転フィールや、カタログ上のスペックはそれなりのものを備えていたのは事実だった。
しかし、どちらも1気筒あたりの排気量が小さいため低中回転域の力強さに乏しかった点や、V6エンジンだったため重量増(この点も動力性能や燃費をスポイル)やカムシャフトなどが左右バンクで2ペア必要となるなど直4エンジンに比べると、非常にコストが高いことなど、同じ排気量の直4エンジンに対するメリットがほとんどなく、大きな発展なく姿を消した。
世界初のエクストロイドCVT
1999年11月に発売された日産セドリック、グロリアに搭載されたエクストロイドCVT。期待は大きかったが、300LX-Z Sパッケージ(セドリック)の477万円とATモデルよりも50万円高
エクストロイドCVTは、日産とジャトコが手を組み、大排気量のFR車にもマッチするCVTとして開発され、1999年11月、セドリック/グロリアに世界で初めて採用された。
エクストロイドCVTは、従来のベルト式CVTと違って、ディスクとパワーローラーにより、動力を伝達するCVT。
280馬力にも対応し、素早いレスポンスと滑らかな変速と、燃費の向上(旧来のATに対し10%)というのが持ち味だったが、高コストで、部分修理ができず、FR車の減少もあり、2005年で生産中止となった。
エクストロイドCVTの基本メカニズム。変速機の中心はディスク(入力&出力ディスク)とパワーローラーから構成される。エンジンの動力を受けた入力ディスクの回転は、パワーローラーから出力ディスクへと伝えられる。パワーローラーの傾きを連続的に変えることで、滑らかな無断変速を行う
F1にも採用されたアクティブサスペンション
ハイドロニューマチックアクティブサス+4WD+ABSで登場。1989年に300台限定で販売された。ベースに対して約120万円高の320万円とGT-FOURより高額だった
最後はかろうじて生き残っているアクティブサスペンションを紹介したい。
サスペンションが付いているクルマは当然前後左右上下の動きが起きるのだが、「その動きを抑え常に一定の姿勢で走行できるのが理想」というコンセプトで開発されたのが、油圧などを利用したアクティブサスペンションである。
アクティブサスは1980年代のロータスのF1が採用し、市販車において世界ではじめて実用化したのは1989年登場の5代目セリカに300台限定で設定されたアクティブスポーツで、5代目セリカに僅かに遅れて登場したインフィニティQ45と1991年登場の3代目ソアラという採用例もあった。
アクティブサスは前後左右上下の動きを抑えることによるスタビリティ(安定性)や安心感の劇的な向上というメリットは確かにあった。
だが、その反面前後左右上下の動きがないことによるフィーリングの不自然さやもっとも安かったインフィニティQ45で70万円という価格(3代目ソアラでは約200万円!)、重量増やアクティブサスに使う油圧をエンジンで発生させることによる動力性能と燃費の悪化といったデメリットのほうが大きく、短命に終わった。
しかし、世界ではまだかろうじてアクティブサスペンションは生き残っている。油圧システムの欠点を克服して21世紀に復活したアクティブサスが、2013年にメルセデスベンツSクラス(W222)に装備された“マジックボディコントロール”だ。
このシステムは、金属バネ、小容量のハイドロニューマチック、そして可変ダンパーの組み合わせで構成されているが、カメラで路面を監視してその情報を制御パラメータに入れているのが新しいアイディアだ。
カメラからの情報を元にサスペンションが事前にスタンバイするからより、小容量のアクチュエータでも理想的なボディコントロールが可能だし、ポンプが消費する馬力も少ない。さらに、フル油圧に比べればハイドロニューマチックは枯れた技術だから、コストや信頼性もベンツなら許容範囲に収められる。
Sクラスのユーサーにしてみれば、オプション価格54万6000円というのは格安といっていいレベル。
100万円以上するAMGカーボンパッケージやセラミックブレーキより、よっぽど日常の快適性を向上させてくれる有意義なオプションだと思う。ベンツが先鞭をつけたカメラを使った路面センシングは、サスペンション制御全般に有望な技術といえる。
シトロエンのラグジュアリーSUV、DS7クロスバック
車速15~130km/hの時、ハイスピードカメラが5~25mの範囲で路面の凸凹をスキャンして分析。DSサスペンションが適切に調整し、常にフラットで快適な乗り心地と卓越した静粛性、さらに走行安定性を保ち続ける
また、ハイドロの元祖シトロエンは、新しいDS7クロスバックでカメラセンサーと可変ダンパーを組み合わせた“アクティブスキャンサスペンション”というシステムを導入。
これまでは、タイヤが突起を踏んでからGセンサーでそれを感知してダンパーを制御するというロジックだったが、突起が事前にわかっていれば圧倒的に有利。
制御レスポンスがよく減衰力変化の幅が広いKYB(カヤバ)製リニア可変ダンパーとあいまって、顕著な乗り心地向上効果をあげている。
このリニア可変ダンパーの利用はより低価格なセグメントにも広がっていて、国産ではカローラスポーツなどにもオプションで設定。厳密にいえばアクティブサスではないが、それに近い効果を期待できるコストパフォーマンスのいい可変サスペンションシステムといえる。
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内容は当時車雑誌を読んでいた素人が書けるレベル。
何度も焼き直しの記事を書いて、いずれ消えていく哀しきライター。