タイプRの存続はシビックの電動化がカギとなるか
2019年2月19日、ホンダの八郷 隆弘代表取締役社長が緊急記者会見を開き、運営体制の変更や、イギリスとトルコにおける完成車生産の休止について発表した。イギリスではシビック・ハッチバックを、トルコではシビック・セダンを生産しているが、そのラインを畳むということだ。これは次期シビックの生産計画による決定というが、はたしてシビックの象徴といえるタイプRを生産しているイギリス・スウィンドンの工場を閉鎖したのち、タイプRの運命はどうなるのだろうか。
「デザイナーのエゴよりニュル最速」新型ホンダ・シビックタイプRのデザイン秘話
まず、ホンダがイギリスでの四輪完成車生産から撤退することについて、ブレグジット(イギリスのEUからの脱退)による関税など経済面での影響を指摘する声も多いが、おそらくメインの理由は異なる。それを理解するキーワードは「クルマの電動化」と「サプライチェーン」にある。
イギリスは古くから自動車生産の盛んな地域であり、自動車生産におけるサプライチェーンも充実している。そう、自動車生産においてはメーカーの工場だけがあればいいというものではない。タイヤのような大物から、ねじ一本に至るまでサプライチェーンが整備されている必要がある。そうした充実が、ホンダのみならずトヨタや日産もイギリスに工場を置く理由なのだが、そのサプライチェーン自体が撤退や閉鎖の引き金になったと見ることができる。
いまや「クルマの電動化」は次世代モデルの開発においては無視できない要素で、要はハイブリッドカーの設定がないクルマは考えられない状況にある。つまり駆動用の大型バッテリーが安定して入手できるサプライチェーンは必須だ。ホンダ内部にヒアリングしたところ、イギリスという地域は大型バッテリー(現時点ではリチウムイオン電池が主流)のサプライチェーンについて充実しているとはいえないようだ。
そうしたサプライチェーンをいまさら整備するのであれば、すでに充実している日本や中国、アメリカで生産するほうが合理的といえるのだ。まさに八郷社長の記者会見で、欧州向けの製品を中国や日本から輸出するという発言があったが、「電動化対応」を念頭におけば、その意図を読み解くことができる。
とはいえ、次期シビックについては北米メインで生産するという発言もあった。北米市場については電動化が必須ではなく、むしろシェール革命の影響で予想よりもガソリン価格は上昇していない。そのため北米で生産される次期シビックはガソリンエンジン車が中心になることだろう。一方で、中国や欧州向けのシビックは燃費規制を考慮するとハイブリッドが中心になると予想できる。
北米での人気が今後の存続にも影響する可能性大
そうなったときに、純粋に内燃機関で性能を追求したシビックタイプRがイメージリーダーとして必要かどうかは大いに議論されるはず。環境規制が厳しくなる中で、歴代のシビックタイプRを生産してきたイギリスの工場が閉鎖になる影響も受けて、静かにフェードアウトしていく未来が見えなくもない。少なくとも電動化時代にふさわしいタイプRを提案する必要はありそうだ。
ちなみに、現行のシビックタイプRに搭載されている2Lターボエンジンはアメリカの工場で生産。そう考えると北米向けにエンジンパワーを極限まで引き上げたタイプRが用意されることも考えられるが、彼の地では昔からシビックSiがスポーティグレードとして認知されている。
実際、タイプRが北米で正規販売されるようになったのは現行モデルからであり、さほど歴史があるわけではない。現在は1.5Lターボエンンを搭載するシビックSiだが、タイプRを廃止してSiに300馬力級の2Lターボを載せたとしても商品企画としては成立するだろう。
なお、北米向けのアコードにはタイプRと同等の2Lターボを搭載した「2.0T」というグレードがあり、6速MTと10速ATが組み合わされている。車格と価格のバランスからいうとシビックタイプRよりもアコード2.0Tで十分と市場は考えているかもしれない。
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